スウェーデン
*ストックホルム:ヘルシンキに負けず劣らず都会です。第2次大戦でスウェーデンは戦火を
まぬがれたそうですが、そのせいか歴史ある建物がきれいな状態で残っています。
この街の特徴は「水の都」であること。イタリアのベネチアのように親水性が高く、
風景のなかに水がうまく取り入れられている、総じて美しい街といえるでしょう。
*森の火葬場/エリック・グンナー・アスプルンド:スウェーデンを代表する建築家と言えばこの人。
幾何学的純粋形態を用いたその作風は、ブレやルドゥーら18世紀の新古典主義から影響を
受けていると思われます。コルビュジェやミースといった、モダニズム建築の巨匠らと
同年代にありながら、古典的形式性が守りぬかれた作品群は、後のポストモダン建築の先駆け
と位置付けることもできそうです。森の火葬場はアスプルンド後期の作品で
造形の対称性が薄れてきていますが、火葬場へ至る長い芝生のスロープのアプローチは
象徴性に満ちています。(アプローチ途中にある十字架はもう少し火葬場や小道から
離れていて欲しかったですが)この日は空が晴れ渡り、丁寧にメンテナンスされた
芝生や樹木、小さくかわいい墓石と供えられた花がとても美しい風景をつくっていました。
火葬場内部では、棺が置かれる台がエレベータになっていて下に沈んでいく演出がうまいと思いました。
*森の礼拝堂/アスプルンド:墓地の公園のように広い敷地のなかには、他にもいくつか
建物が点在しており、礼拝堂はそのひとつで、火葬場より早い時期に建てられたものです。
日本の神社のように門をくぐり、長めのアプローチの先にひっそりと本殿がある形式で、
シンプルなのですが、アプローチの木陰や礼拝堂の白い列柱と黒いスレートで葺かれた
四角錐の屋根、やや小ぶりのスケール感など、とてもさわやかな印象があり、
墓地のなかではベストな建築だと思いました。しかしなかには入れず、そのドーム天井の
内部空間が体験できなかったのは残念でした。
*公共墓地の管理事務所/アスプルンド:礼拝堂と同じモティーフをモスグリーンの金属版で覆い
4つ並べて四角い窓をあけた、うってかわってポップな印象があるかわいらしい建物。
まさにポストモダン建築なのですが、建設当時には理解され難かっただろうと推測されます。
*ストックホルム市立図書館/アスプルンド:4辺が同じ長さの直方体の上に円筒が乗る
シンプルで古典的な構成の建物です。円筒部分は吹き抜けとなっていて、下部3層は書棚として
その上部は縦長の窓が設けられて、採光用スペースとなっています。
外観はメンテナンスされたばかりなのか、鮮やかなオレンジ色で目立っていますが、
重くなりがちなマッスの構成を軽く見せる効果をなしています。
中央の円筒状メインスペースへのアプローチは、黒い石でつくられた階段で、
空間をいったん引き締めて、上りきったときに空間が一気に拡がる象徴的な演出がうまいです。
円筒形空間の上部は白色に塗装してあり、壁面では意図的な塗りむら(凹凸)がなされていて、
意外なほど明るくて軽い。同じく建物に円筒形を用いたカーンやボッタの作品と比べると
その違いがよくわかります。その空間は後年のポストモダンに近く、アスプルンドは建築を
モダニズムとは違う形で市民に解放したのですね。
*ストックホルム市庁舎:中庭形式となっていて、四周をぐるりとまわれるように設計されている
スウェーデンの顔となるべく、その使命を一身に背負った建築。それゆえ各々の部屋の
スケールがとにかく大きい。仕上げもフレスコ画、金箔のモザイクなど豪華絢爛です。
ただ、細かく見ていくといろんな様式がごちゃまぜになっていて、強欲さも見て取れます。
当初の目的は十分果たしていると思いますが、建築として見るとスケールアウトしていて
プロポーションもよくなく、外観はともかく内部はいまいちといったところでしょうか。
この建物は10時、12時、14時の見学ツアーに参加しないと見られませんのでご注意を。
付属した塔へは別料金で最上部まで上ることができ、ここから市内が一望できますので是非。
*ガムラ・スタン:中世の街並をそのまま残した地区で、石畳のうねった街路はイタリアのようです。
ヴェステルロングガータン通りというメインストリートも広くはないですが、
民芸品店などが並び、賑わっていました。街路の端のほうに最小幅90センチという
激狭ストリートが観光名所になっています。
*ホテル・J:ノルディック・ライトとともに「design hotel 100」に選ばれたホテル。
ストックホルムには他にビリエル・ヤールというデザインホテルもあるのですが、
メジャーになりすぎて観光ツアーに組みこまれたりしているので、あえて日本の代理店で
予約できないここにしてみました。ブッキングはメールで行ったのですが、
どうも意思疎通がうまくはかれなくて、着くまで予約がとれているか心配していました。
ホテルはナッカ・ストランドという市街地から離れたところにあるので、
地下鉄とバスを乗り継いでなんとか到着したら、一応部屋は確保されていました。
しかし部屋に入ってみると窓の外には海が見え、部屋は広く暖炉があり、浴槽は扇形の
ジャグジーという立派なもの。これは違うなと思ってフロントに行き、メールのやり取りの
記録を見せると、当初の値段でその部屋でOKが出ました。ラッキーです。
部屋には蝋燭がたくさん用意されていて、夜には炎の演出も可。粋な計らいです。
宿から5分ほど歩いたところにレストラン・Jという同系列の店があって、
とても賑わっていました。店員さんは親切で、食事もおいしくお勧めです。
帰りは市街までボートが出ているので、15分ほどでベルツェリー公園わきに着きました。
今回、建築を巡る旅に際しては1998年の新建築に連載された小野正弘さんによる
「フィンランド アルヴァ・アアルトの旅」という記事をを参考にさせて頂きました。
たいへん助かりました。ありがとうございました。
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