加藤昇の(新)大豆の話

46. 調理油脂の特性

 ここでは調理用油脂の特性について見てみましょう。現在店頭に並んでいる食用油脂は多岐にわたっています。国内で生産している油脂、輸入原料を搾油精製して作っている油脂、海外の油脂メーカーから輸入している油脂などが混在して並べられています。それらは油脂原料で見ると大豆、菜種、米、綿実、トーモロコシ、落花生、紅花、サフラワー、ごま、オリーブ、アマニ、エゴマ、アボガド、ひまわり、グレープシードなどが挙げられます。しかしこれらの油脂は構成している脂肪酸組成によっていくつかに分類することができます。そして油脂を構成している脂肪酸が似ているとそれらの油脂は同じような働きや様子を示します。そこでここにはその脂肪酸組成によって代表される油脂で調理特性の概略を眺めてみることにしました。

 まず、オメガ3脂肪酸になるEPA,DHAが主体の脂肪酸となる魚油や亜麻仁油、えごま油があります。オメガ6脂肪酸が主体となる油脂の代表は大豆油です。オメガ9脂肪酸が主体となる菜種油とオリーブ油、飽和脂肪酸が主体となるパーム油と動物油脂です。詳しい調理特性は後ほど取り上げます。

 

主な油脂の調理特徴

 

 

主な脂肪酸

光・熱安定性

味・香り

健康効果

主な使い方

魚油

多価不飽和

EPA,DHA

非常に弱い

魚臭

血液サラサラ

魚肉と一緒に摂食

大豆油

多価不飽和

リノール酸

やや弱い

コク・旨味

悪玉コレステロール低下・強い

天ぷら、揚げ物、調合サラダ油

菜種油

1価不飽和

オレイン酸

やや強い

あっさり

ツンとする臭い

悪玉コレステロール低下・弱い

天ぷら、揚げ物、調合サラダ油

オリーブ油

1価不飽和

オレイン酸

エキスタラバージン油・弱い

フルーティな香り

悪玉コレステロール低下・弱い

ドレッシング

パーム油

飽和脂肪酸

パルミチン酸

強い

淡白

悪玉コレステロール・増加、動脈硬化

揚げ物・炒め物

動物油脂

飽和脂肪酸

パルミチン酸

強い

旨味・香り

動脈硬化

炒め物

         ( 渡辺健市 「食用油脂の基礎知識」より抜粋 

それぞれの油脂には特徴があり、またそれぞれに適した用途があります。大豆油の特徴は油自身にコクとうま味があることです。このことは食用油脂のプロたちが一様に指摘しているところです。そして大豆油が適している調理は天ぷらや揚げ物など旨味を味わう食材であり、さらにサラダドレッシングなどそのままの風味を味わう用途に適しています。 菜種油やオリーブ油などのオメガ9系統の油脂類は加熱調理に向いていますが、圧搾静置油であるバージンオリーブオイルは加熱調理には向いておらず、ドレッシングとして使われるのが望ましい利用法となります。紅花油、サフラワー油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、グレープシードオイルなども大豆油と同じように調理した食品をなるべく早めに食べるように心がけると体に良い働きをしてくれます。

そして店頭の食用油脂の棚には商品として並んでいないが、調理済み食品として多く利用されているパーム油やヤシ油など熱帯油脂には調理済み食品の保存性、酸化安定性を高めるなどの特性があります。しかし健康面での懸念もあるために保存食品として購入するのには適していますが、一両日で食べてしまう食材の場合には長所よりも弊害が大きくなるので注意が必要です。

それぞれの油脂にはそれぞれに特性があります。それらを認識しながら上手に使い分けていくことが正しい油脂の利用法ということが出来ます。


  不飽和脂肪酸の比率が高いオメガ3の油脂やリノール酸含量が高い油脂にはいろいろな健康効果が指摘されていますが、熱による酸化安定性が比較的弱く、加熱調理した食品がしなっとした食感になりやすくなる欠点があります。これに対して飽和脂肪酸が多く含まれる動物油脂や熱帯油脂で調理すると、それらの油脂の持つ融点が高いことから調理食品の温度が下がっても比較的食感が長持ちすることが知られています。このようにそれぞれの油脂の持つ融点によって油脂調理後の食感が変わってきますが、もう一つの理由が隠されています。それは揚げ物のフライの衣につけた小麦粉の働きです。
 揚げ物のタネに衣をつけて加熱した油脂の中に沈めると多量の泡が出てきますが、この泡の正体はタネに含まれていた水分なのです。このように油脂によって加熱された揚げ物には加熱変性と脱水という二つの働きが同時の起っているのです。そしてこの調理過程で揚げ物の衣が絡んできます。それは加熱処理によって食材の中から出てきた水分が衣に含まれるグルテンに働きかけることになります。小麦のグルテンは水分を吸収しやすい性質があり、そのため調理した揚げ物の温度が下がってくると衣についた水分が食品の食感に強く影響して、パリッとした食感を損ないます。それを解決する方法として衣を作る段階で小麦粉に油脂を少し混ぜて吸着させておき、加熱調理の段階で具材から出てくる水分を小麦蛋白が吸収しないようにしておくと、揚げ物が冷めてもそれほど水分が多くないパリッとした食感が保たれることが知られています。

 このように油脂による加熱調理には、油脂に含まれる脂肪酸の働きとそれぞれの持つ融点による食感の違い、それを補う調理法の工夫などを上手に組み合わせて最も望ましい油脂食品を作る必要があります。


 掲載日 2023.6

 

 

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