重力損再考  

(2022年6月18日)


 有人月着陸を成功させたアポロ計画で使用したロケットはサターンVであった。サターンVロケットの1段には5基のエンジンが取り付けられていた。サターンVロケットの発射時の全備重量は約2000トン重(20MN)あった。5基のエンジンがそれぞれ約600トン重(6MN)の推力を出すので計約3000トン重(30MN)の推力を出した。従って、発射台を離れたサターンVロケットは上向き0.5G(3000/2000-1=0.5)の加速度で上昇していった。物を落とした時の下向きの加速度が1Gであるから見た目でややゆっくり上昇していったことになる。ロケットは燃料(ケロシン)と酸化剤(液体酸素)をどんどん消費して軽くなっていくので加速度はどんどん大きくなって速度も増していった。

 もし、このエンジンが推力が足らなくて計2000トン重(20MN)の推力しか出なかったとしたら発射台を離れても少しも上昇しないであろう。燃料と酸化剤を消費して機体が軽くなって始めて上昇をし始める。さらに、推力が常に機体重量と同じになるように調整されたとすると機体は少しも上昇せずに燃料・酸化剤を使い果たしてしまう。燃料と酸化剤はすべて重力損に費やしたことになる。

 このようになる理由は重力に逆らっていると重力損が生じるからである。重力損は重力加速度に機体の質量を乗じたもの、つまり機体の重さ、に時間を乗じた力積である。重力に逆らっている間は常に作用する損失である。

 重力損を出来るだけ少なくするためには重力に逆らっている時間を短くすることである。このため、衛星打ち上げロケットでも1段に固体燃料ロケットわ束ねて素早く上昇する。このために束ねられる固体ロケットはブースター(押し上げるもの)と呼ばれる。

 重力損は重力に逆らって重心を持ち上げるときに必ず生じる。人間が階段を上るときも片足は地についていても重心を持ち上げているので重力損は生じている。ビルのエレベータは釣り合いウエイトを持っているので大部分の重力損はない。

 宇宙エレベータが駄目な理由として、強度のある材料が実存していないこと、開発費用が掛かりすぎること、効率が悪いこと、安全審査が通りそうもないこと、の4項目をあげた。この中で効率が悪いことの理由に重力損があることを簡単に書いたがもう少し具体的に説明する。

 宇宙エレベーターが完成したとして、高度400kmまで宇宙エレベータが上昇するものとすると時速200km(秒速50m/s)で上ったとしても2時間かかる。現在の最速エレベータは秒速20m強ぐらいであるから、5時間近くかかるかもしれない。このような遅さで重力に逆らっていると重力損は計算するまでもないだろう。

(了)


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