ニュートンの早合点  

(2011年4月22日)


 ニュートンはりんごの実が木から落ちるのを見て万有引力を発見したというのは俗説に過ぎないが、りんごの実が木から落ちるのも、月が地球の周りを回っているのも同じ万有引力という自然の法則に支配されている結果であることを示したことがニュートンの偉大な功績である。

 ニュートンは万有引力が遠隔力であり瞬時に伝わるものとしたが、このことはアインシュタインによって否定された。アインシュタインは電磁力が電磁場を作ることの類推から、重力も重力場ができることによる近接力であるとした。そして重力は瞬時に伝わるのでなく有限の光の速さで伝わるものとした。しかし、重力波もまだ観測されていず、実証されているわけではないが正しいものと考えられている。

 さて、アインシュタインも気がつかなかったニュートンの早合点が万有引力にはある。それはケプラーの法則から論理的に導けるのは加速度の式までであるのに、加速度があるから力が加わっている筈と、万有引力という力の式にしたところが早合点なのである。

 ニュートンは自分で打ち立てた運動の3法則のうち、第2法則の式から加速度があるからには力が加わっていると考えたのであろう。もっともニュートン自身の表現では「力は運動量の変化を及ぼす」という意味の表現であって、「力は質量に加速度を乗じたもの」という表現は後世の人によるものである。

 質量mの物体に力Fを加えると加速度aを生じる。このときの関係式がF=maであるというのは厳然とした法則である。しかし、数式上は逆も真であるが、物理としては必ずしも逆が真でないのである。つまり、質量mの物体が加速度aで運動しているとしても必ずしも力Fが加わっているとは限らないのである。

 重力がまさにこの例に当てはまる。天体観測の結果から、加速度運動があることは判っても、力が働いている証拠は何もない。

 宇宙ステーションのように重力場で自由落下している物体は重力加速度gの運動をしているが、宇宙ステーションには何も力が働いていない。重力消去の状況にある。

 数式を見る限り、常に逆も真であるが、物理としては逆が真でない例がまだある。それは応力と歪の関係である。フックの法則は応力σは歪εに比例し、比例定数はヤング率Eであるというものである。即ち、σ=Eεの関係がある。

 物体に応力σが加わると歪εが生ずる。しかし、歪εがあるとき必ずしも応力σが加わっているわけではない。拘束のない物体に熱が加わって歪が生じている場合である。

 逆に歪が生じないように拘束をしておいて、その物体に熱を加えると応力が発生する。熱応力である。丁度、このことから類推できるのは、自由落下をしないように拘束すると力が発生するということである。人間は生まれたときから地面に拘束されているので慣性力を受けて生きているのである。これまで、この慣性力を重力による力であるとみなされてきた。

(了)


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