2006ドイツワールドカップについて(1)

ドイツワールドカップについては、すでにいろいろな雑誌で総括がされていますが、私なりに感じたことをつらつらと書いてみました。

◆「2006ドイツ大会」は守備の大会だった?

 
大会前は、ブラジルのマジカル4、イタリアやイングランドの攻撃陣など、攻撃主導の大会になることが期待されました。しかし、ふたを開けてみると得点が少なく、守備をしっかりしたチームが上位に入り、その結果、「守備の大会でつまらなかった」という論調が多いようです。守備の大会であったことを否定はしませんが、個人的には、「守備の大会だからつまらなかった」とは思っていません。イタリアやフランスが必要以上にドン引きだったかというと、そうは感じませんでした。従来のイタリアのカテナチオはがっちり引いて守って、ロングパス一本のカウンター一辺倒という印象がありますが、本大会でも、がっちり引く場面がなかったわけではありませんが、決してそれだけではなかった。カウンターにしても、ただ一本のロングパスを狙うのではなく、ひと手間もふた手間もかけた攻撃がみられました。
(イタリアを含め)上位に進んだチームの守備は、「ボールに対してきちんとアプローチをして、相手に自由にやらせず、追い込んでボールを奪う」という基本的なことを、サボらずに組織的にやり切っていたと思います。その、きちんとした守備網を、各チームの攻撃陣が崩しきれなかったというのが本大会の印象です。当然、守り方、ボールの奪い方は、各チームごとに少しずつ違っていましたが、チームとして統一感を持って基本どおりの守備やったチームは安定していましたね。一方、守備の統制に不安を抱えたチームは、そこを突かれて失点して敗れました。ブラジルの両サイドバックにはセットプレーでの守備に問題があることを、大会前から反町氏が指摘していましたが、まさにその問題が露呈したブラジルは、セットプレーから失点してフランスに敗退しました。高さに弱点があり、個々の身体能力が劣ることが当初から(何年も前から)わかっていた我が日本ですが、チームとしての守備の意思統一なしで大会に臨んでは、あっさりと予選で敗退するのもやむを得ないでしょう。

◆中盤での守備

 上位に食い込んだ好守の各チームは、DF陣がしっかりしていたことは当然のことながら、中盤での守備が素晴らしかったですね。イタリアは、ガットゥーゾが中盤の守備で積極的にボールに絡んで、身を粉にしてチームに貢献しました。ボランチであるピルロの守備力不足を補い、ピルロの展開力を生かせたのは、ガットゥーゾの頑張りがあったからこそだと思います。フランスも、ビエラとマケレレという両ボランチのボール奪取能力が高かったことが、好成績につながったのは間違いないでしょう。守備への貢献度がゼロに等しいジダンの弱点を隠し、きちんとボールを奪い切ってジダンにいい形でボールを付けることにより、ジダンの能力を引き出していました。一方、期待されたイングランドがもう一歩上に行けなかったのは、ダブルボランチを努めたジェラード、ランパードというスターたちの、ボール奪取能力の低さが関係していたように思います。彼らの、ミドルシュートや、前を向いたときの攻撃能力の高さに疑う余地はありませんが、ボランチのうち1枚には、ボール奪取能力が高い選手を配置する方が良かったのではないでしょうか。
それでは、我が日本の中盤でのボール奪取能力はどうだったでしょうか?ダブルボランチの一角である福西は、ボール奪取能力はそこそこある筈ですが、無理して飛び込まない姿勢を貫いていました。逆にアグレッシブに守備をしていた中田は元々守備の選手ではないので、本当によく頑張っていたとは思いますが、残念ながら中盤でのボール奪取能力がワールドクラスの中で高かったとは言えませんでした。中田が主張するようにラインを高く保って、いつでもガンガン行くことが、必ずしもbestの選択ではない場面もあるでしょう。宮本が、行けるところと行けないところを切り分けて整理しようとしていたようですが、残念ながら、守備を行う上で最も重要な、ボールの奪い方のイメージの統一化には至りませんでした。日本も、ボランチの位置で積極的な守備をしてボールを自分で奪う、あるいは、そこでこぼれさせて回りの選手がボールを拾うという意識の統一をして欲しかったですね。以前のJAPANでは、服部選手、戸田選手、稲本選手などがそういう役を担い、彼らがボールを奪い切れなくても、こぼれたボールを回りの選手が奪っていました。昔のJAPANの方が、どの高さから、どのタイミングでボールを奪いに行くのか?というチームとしての意図を、ゲームを見ていて感じることができました。ジーコジャパンは、ボールを奪う戦術が欠けていたことは間違いないと思います。


◆攻撃のスタートはボールを奪うこと

 守備というと、つい、ゴールにボールを入れられることを防ぐことという面に意識が行き勝ちですが、ボールを奪うという意識も忘れてはいけません。サッカーでは、相手からボールを奪わなければ、攻撃をすることが出来ないのですから。今大会を見て、今更ながら、改めて「ボールを奪う」ことの重要さを感じました。(このことは、WC終了直後に、本HPの掲示板にもコメントしたとおりです)
最近のサッカーでは、「DFラインを高く保って、中盤をコンパクトにして、なるべく前線でボールを奪い、ボールを奪ったら一気にゴールに手数を掛けずに攻める」ことが最も素晴らしいプレーだと言われています。確かに、ドン引きでペナの中で守り続けるのでは、カウンターをしかけるのにはロングボール一発ということになりますし、何よりミドル/ロングシュートの餌食になってしまいます。しかし、何でもかんでもラインを高くして、前線からボールを追いかけるのが本当に良い選択なのか?というと、個人的には疑問があります。前線からプレスを掛ける守備を90分間やり続けるのは体力的に無理があると思うし、何よりDFを高く保ちすぎると、DFラインの裏にスペースを与えることになります。コンパクトを保っているのがアダになり、そんなに長いボールでなくても、DFの裏を突かれてしまいます。プレスがかからない状態でラインを上げることは、相手の攻撃スペースを与える行為になります。時間帯、体力、得点状況、相手チームとの戦力やフィジカルの差などに応じて、ラインの高さ、プレスのかけ方、守備のコンパクトさなどはチューニングされるべきものです。最も重要なのは、状況に応じたチューニングレベルが、チームとして統一されていることです。前の方の選手が1点を取るためにアグレッシブに守備をしようとしているのに、守備側の選手がまずは失点しないようにと、引き気味で守備をしていたのではDFラインの前のバイタルエリアを使われ放題になります。
イタリアやフランスは、状況に応じた守備のチューニングを、チーム全体で統一感を持ってきちんとやっていたと思います。日本より明らかに能力が高い選手が揃っている、イタリアやフランスがきちんと意思統一して守備をやっているのに、個々の能力に劣る日本が意思統一されていないのでは、お話にならないというのが正直なところですね。守備の統一感のなさは、大会前から多くの有識者が指摘していました。(だからわたしは、ことあるごとに監督交代論を言い続けてきました。)この問題が致命的になっていることをオーストラリア戦を見て確信したので、以降のクロアチア戦、ブラジル戦はライブで見る気にはなりませんでした。(心の底では、神風が吹くことを祈っていました)
ちなみに、ワールドカップでベスト8で敗退したブラジルは、次期代表監督にドゥンガ氏を選びました。主将としてセレソンをワールドカップ優勝に導きながら、そのチームが守備的であった(+彼自身のプレーが美しくない)ために、「史上最悪のチーム」とこき下ろされたドゥンガ氏を監督に選んだということは、いかに守備が勝つ上で大切か、ということを認識したのだと思われます。攻撃力を誇るブラジルですら、きちんとした守備を行わなかったためにbest8で敗退したわけです。ドリームチームといわれた2つのセレソン(1982年、2006年)がベスト8で敗退した現実を、しっかりと受け止めたのだと思います。しかし、だからと言って、ブラジルが守備重視のチームを作ってくるわけではないでしょう。攻撃力を生かすために、きちんと守備(ボールを奪うこと)について取り組もうと考えたのだと思っています。2010年には、組織的守備とファンタジー溢れる攻撃の両方を兼ね備えたセレソンを見ることが出来るのではないでしょうか。
 日本も、「日本人らしいサッカーの確立」を唱えるオシムが新しい監督になりました。彼の言うことの大部分には共感を持てますので、本当に期待しています。しかし、走るだけのサッカーではつまらないですし、90分間走り回ることだけが、日本のサッカーにとって重要なのかについは疑問があります。「サボるけど才能のある選手」たちと歩み寄って、(そうしてくれると信じています)「日本らしいサッカーで勝つ」ことを目指して欲しいと思います。


◆組織的な守備を破るためには?

カウンター重視の攻撃を仕掛けるチームが多い昨今、それに備えた守備をするチームが増えるのは当然です。むやみにラインを押し上げることは、背後にスペースを与えることになるので、カウンターのチャンスを与えることになる。そうかといって、常時ラインを下げていたのでは中盤のコンパクトさが失われ、中盤を制することができなくなる。強国は状況に応じて、ある程度の中盤のコンパクトさを維持しつつ、守備ラインの高さをコントロールしているように感じられたのは既述のとおりです。このようにきちんと守備をされると、世界のトップチームでも、その守備網をなかなか破れなかったというワケですが、この点については少々残念でした。きちんと守備をされても、世界のトップチームの攻撃陣は、その守備を打ち破ってくれるものと思っていたので・・・・・
しかし、明るい光を見ることは出来ました。それは、アルゼンチンがセルビアモンテネグロ戦で見せてくれた、パスを二十数本つないで奪った得点です。(あの得点をライブで見ていたのですが、「すげー、これだよ、これ!!」と思わず大声を出してしまいました。体の震えが止まりませんでした)ゆったりとしたパス回しでビルドアップしたので、相手守備陣は十分陣形を整える時間があったのに、完全に崩して最後はフリーになって決めました。左サイドでの短い縦パスがテンポアップの合図になっていました。緩急の変化、チームとしての連動、質の高いパス交換を行えば、遅攻でも得点を奪えることを示してくれたのが嬉しいですね。
その他、本大会では、ドリブラーがサイドをドリブル突破して、相手で守備を崩す場面も多く見られました。ドリブルについては、組織的守備を破る手段の1つとして、もう一度着目されるべきと思います。(いいドリブラーを育てるいためには、ジュニア時代はもっともっとドリブルをトライすべき)2010年のワールドカップにおいても、組織的な守備を行うチームが多いでしょう。しかし、その組織的守備を、個人技(ドリブル)を交えた組織的攻撃が突破するシーンが沢山見られることを期待しています。

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