水面効果翼船の一考察
1.はじめに 人類の経済活動で大量な物資を運搬できる船舶が果たす役割は今後とも重要だ。
近年は物資輸送の高速化に関しては大型航空機の役割も重要である。
しかし経済性を重視した高速輸送手段を考えると船舶(最大50KT前後)と航空機
(200KT〜500KT)の中間ゾーン(50KT〜200KT)は空白のままである。
この中間ゾーンを埋めることを目標に開発されたのが新型式船である。 (新型式船の解説は別の資料参照)
2.水面効果翼船とは 水面効果の原理は地表や水面を近く飛行する際に高揚力と高揚抗比が得られることにある。
航空機の場合は翼舷長の1/20程度の高度以下になると急速に揚力が増す。
この原理を積極的に応用し高揚抗比を活かして中間ゾーンの速度領域を満たす水面効果翼船は
新世代の輸送機関となる可能性が高い。
水面効果翼船は大型化を考慮しWing-in-Surface-Effect-Ship(WISES)と呼称する場合
もある。2-1 水面効果の課題
水面効果翼船の原理は単純で優れているが、水上を航行する船舶としての実用化を考えると解決
すべき技術上の課題も多い。2-1-1 水面からの離水 水面から離水すると水力抵抗がなくなり高速化が容易になるが水面効果は可能な限り水面近くを航行 ● 複合タイプの水面効果船:離水までの速度域まではPAR効果やエアクッション装置を採用した
することが望ましい。2-1-2 水面からの高度をとる必要性
船舶と同じ海域を航行すると通常の船舶は障害物として避けて航行することが求められる。 回避行動としては旋回方向変更や高度を上げる方法がある。
また波高い海域は船体に与える波の衝撃を避けるために必然的に飛行高度を高くすることが
必要である。2-2 水面効果翼船のタイプ ●ラムウィングタイプ:翼面下部を流れる動圧を積極的に利用するタイプ。
● トンネルフロータイプ:低速度域(IGE)では積極的に動圧を利用し、更に高速度域(OGE)では
水面効果を使用しないで自由飛行も可能なタイプ。
水面効果内飛行はIGE(In-Ground Effect)、自由飛行はOGE(Off-Ground Effect)
と称する。
超大型の水面効果船。
水面効果の用語解説 ●PAR(Power+Augumented Ram)効果:
動力を用いて大量の空気を翼下面に送り込み動圧を高め、低速で水力抵抗から脱出することが可能となる。
この効果が大きければ船体抵抗のハンプ領域を低速で脱出することができるので、船体形状設計や構造設計は
高速艇や飛行艇の知見が応用できる。●OGE飛行能力:荒天の水面で運行する場合や進路に障害物を回避する場合に必要である。 ●Stick-FreeなIGEな飛行能力:水面近くを一定高度で飛行するには操縦者の技量のみでは困難である。
そこで、IGE飛行中は障害物を自動検知し回避して航空機と同様な自由飛行が可能なことを意味する。
(近年の電子技術では充分に対策は可能である。)2-4 水面効果翼船の優れた揚抗比 水面効果の利用は1920年代の飛行艇開発で特性や可能性について研究されていた。 しかし、水面効果を積極的に利用した機体の開発や実用化の研究はまだ不十分である。
目標速力を50KT〜200KTとし、空力的な洗練を実施できれば水面効果翼船は通常航空機の
数倍の揚抗比を達成可能である。3.水面効果翼船の研究項目 3-1 企画
水面効果翼船の技術的課題を知るには実用化を前提に具体的な企画を設定して開発作業を実施すると
理解し易い。(例えば離島航路へ一定の物資を運搬する水面効果翼船を企画する。)3-2 予想される研究項目 3-2-1企画の可能性の検討(技術、経済性、安全性):1. 総合的な外観形状の検討:
実用化を目指した研究には実際の乗り物を開発した知見や経験が役立つ。
2. 動力性能の検討: 目標の性能を実現させるには経済性はもちろん環境を重視した広い見識で装置の開発が必要である。
(水素や電気の利用、バイオ科学) 3. 直接運航費や就航率の検討: 民間用機の実用化には採算性を重視するので直接運航費や保守点検の維持管理(間接運航費)
の把握が重要となり、それには採算性を考慮した就航路線の策定や就航率の推定などが課題となる。 4. 安全基準の検討: 現在の海上交通では水上を200KTで航行する乗り物は想定していない。 安全性を確立するには実証試験を行いながら問題点を把握してルール策定や安全装置が開発されることが求められる。
3-2-2速力特性の把握: 1. 経済性と安全性の高い速度域を検証(就航航路、航行時間) 2. 故障や非常時の着水速度を検討(目標着水速度は50KT前後)
3-2-3揚抗比を高める: 形状抵抗を減らし高揚力の主翼を採用する
3-2-4低速で離水を早める方法: 1. PAR効果を積極的に採用、2. 大型スラスター採用(飛行船の技術応用)
3-2-5耐航性: 1. 低速で揚力増大の手段として主翼前後縁に吹き出し及び吸い込みフラップを採用 2. 50KT以下で航行する際はエアクッションや水中翼を採用する。 3. 荒天時は水面効果をある程度利用できるOGE飛行を可能とする。(高度制御)
3-2-6経済性: 1. 簡素な船体構造を採用し建造コストを下げる。 2. 運航要員を減らすための自動化 3.燃費の良い内燃機関を採用する。(水素燃料使用のディーゼル機関) 4.面積の大きな主翼上面にソーラーパネルによる太陽光発電を採用 5. ペイロードを増やすアイデア:船体構造の軽量化、静的浮力の採用(水素他) 6. 飛行船技術の応用(ハイブリッド飛行船)
3-2-7自律航行、制御技術開発: 1. 航空機、船舶、自動車の自動運転、障害物回避などの制御技術を応用 2. 近距離の中小型水面効果翼船はドローンの制御技術を応用(無人化)
3-2-8船体設計: 航空機やプレジャーボートのCFRP、FRP、アルミ軽量構造の実績を応用可能。
3-2-9環境対策と動力設計: 1. 水素燃料使用の内燃機関やガスタービン機関の採用。 2.ハイブリッド仕様として推進や補機の動力に電気モーターや内燃機関を採用。