連載-ボートデザイナーの仕事(第12回)
■5章 基本設計(続き) 5-12 安全性検討 船舶は何よりも安全性が重要である。特に量産ボートでは不特定多数の顧客に安全性 を保証するのであるから安全規則を満たすのは当然としても十分な安全に対する検討 が必要である。日本では安全性に関しては小型船舶安全規則があるが内容は主に船 体、機関、排水設備,操舵係船揚錨設備、救命設備、消防設備、居住および脱出、航海 用具、電気設備、電気設備、特殊設備、復原性について述べてある。量産メーカーで は小型船舶の検査取得以外にも社内に安全規則や品質管理基準を設けている場合もあ るが一般にそれが公開されることはない。ここでは小型船舶の基本設計に必要な安全 性の検討を中心に解説する。 5-12-1 排水量等計算 船舶は液体に浮かぶので浮力や安定性の検討は専門的な検討が必要である。まずどの ような状態で浮かぶのか検討する必要があるがこの基本となるのが排水量等の計算で ある。以前は排水量等の計算はて計算により求めていたが最近は船舶専用ソフトが普 及し船型を決め排水量等計算ソフトを使って短時間で計算が可能となった。図-172は 船舶専用ソフト(HydroMax)を使用して求めた排水量等曲線である。 5-12-2 トリム計算(浮き姿) 船舶は基本的に左右対称のはずであるが室内配置は必ずしも対称ではないので左右バ ランスを考えながら設計を行うので完成後の浮き姿が大きく左右に傾くことはない。 前後の重心位置は滑走艇の走行性能に大きな影響を与えるのが静止時の浮き姿も重要 である。走行中に波浪を受けるので甲板の水はけは重要である。また、船内にはどう してもビルジが溜まるのでこれらの水はけも考える必要がある。普通、暴露甲板は水 はけを考え静止時に約1°程度の傾斜を持つように設計する。そこで静止時の浮き姿を 確認するのがトリム計算である。計算は船舶専用ソフト(HydroMax)を使うと短時間に 検討が可能である。図-173は80FTモーターヨットの浮き姿の検討例である。 5-12-3 GM値の検討 船舶の横安定性の良し悪しはGM値で検討する場合が多いが大きければ良いわけではな い。GM値が大きいと確かに初期復元力は大きいが乗り心地に関しては大き過ぎると波 に敏感に応答し、かえって乗り心地が悪くなってしまうので居住性を重視する客船な どは比較的小さなGM値を採用する。大型のクルーズ客船は小さなGM値により波への応 答を最小としスタビライザーフィン等で横揺れを制御しているほどである。小型船で は目安としてGM値が1.5m以上となるように検討するのが普通である。GM値は復元力 曲線の1ラジアンにおけるGZ値で表すこともできるが普通は排水量等曲線のKM値から その船の重心高さKGを引いた値で示される。 5-12-4 復元性の検討 復元性の検討では復元力曲線を知ることが重要である。復元力曲線の作成は大変手間 のかかる作業であるが最近は船舶専用ソフトが普及し比較的簡単に計算でき、船型の 検討や重量重心の検討では多くの状態をシミュレーションできるので便利である。図- 174はある船舶の復元力曲線を表しており最大復元力は約50°で復元力は約85°で 消失することを示している。つまり転覆するわけであるが実船では必ずしもこの通り になるわけではない。もっと小さな傾斜角でも水密が保てない場合、例えば窓やハッ チなどの水密が保てないと船体に浸水しもっと小さな傾斜角で復元力を失う場合もあ る。しかしこの復元力曲線が安全性の検討に大いに役立つことには代わりない。 5-12-5 定員計算 小型船は完成重量と比較すると乗員重量の割合がどうしても大きくなり安定性に影響 を与えるので定員の検討は重要である。単に法規上の定員を満たせば良いのではなく その船の目的に合わせ快適性と安全性の両立を図らねばならない。24m以上の船舶は 設備規定が摘要されるが24m未満は小型船舶安全規則が摘要され主に設備に関する部 分と復元性に関する部分で定員を検討する。 ●設備に関する検討 設備に関してはベット(寝台)、座席、椅子席、立席に対して検討を行う。図-175は 設備による定員検討の結果である。 ●復元性に関する検討 定員計算を主要寸法や乾舷に対して検討を行う方法で図-176はその例である。 5-12-6 区画浸水計算 船舶は航行中に不幸にして船内に浸水すると一部の浮力を失い傾斜してしまう。その 傾斜が大きくなりさらに浸水が増すようであれば沈没するので、ある条件下で浸水す る事態が発生すると想定して安全性の検討を行う。区画は多く分割されているほど安 全性は高いが小型船舶は室内配置の都合で水密区画を多く設けることは困難である。 小型船舶は1区画可浸で検討するのが一般的である。図-177はその例である。 図178は8mクラスのプレジャーボートが船首部分に損傷を受けた場合の検討例を示 す。 5-12-7 フローテーション基準 小型船舶は構造や配置の都合もあり浸水から沈没へ至らないように設計するのは困難 である。それではいっそのこと浮力体を装着し沈没しないように検討するのがフロー テーション基準である。この基準は12m未満のプレジャーボートに適用する。基準の 適用範囲は次の通りである。 5-12-7-1 レベルフローテーション A-1 レベルフローテーションの要件 レベルフローテーションの要件は次の通りである。 A-1-1 満載状態でも乗員1人が、ドライビングポジションに位置する状態で8" (200mm)の最小乾舷を有すること。 A-1-2 艇が浸水状態でも水平に浮いていること。 A-1-3 艇が浸水状態で乗員が通常の場所で水に浸かって乗船した状態で上向き且 つ、ガンネルが水中に没しないよう予備浮力を持つこと。 A-1-4浮体材料は必要に応じて溶剤に触れぬよう保護され、且つ、太陽光、振動、 衝撃、温度変化に耐えられる独立気泡であること。 A-1-5空気室はフローテーションとして認めない。 A-1-6片舷に全乗員が均等に移動しても転覆しないこと。 A-1-7本基準に定める試験に合格すること。 A-1-8キールの両端は解放されていること。(浸水時エア溜まりが残り転覆する可 能性がある。) A-1-9浮力体はできるだけハルサイドに寄せて高く取り付けること。 A-2 フローテーション量の計算 A-2-1水中重量の計算(Ws) Ws = Wh*K + Wd + We Ws:浸水時の重量 Wh:ハル構造の空中重量 K:TABLE 1に示された係数 Wd:デッキ構造の空中重量 We:艤装設備(ハードウェア、ソフトウェア、アクセサリー等)の空中重量 TABLE 1に示されないものでも比重の判るものはグラフ1から係数を求めるこ とができる。 A-2-2 機関装置の水中重量計算(G) 1)船外機 TABLE 2から最高保証馬力に核当する全水中重量(SWAMPED WEIGHT)を 選ぶ。船外機ではパワーヘッドは空中にあるものとして計算する。 TABLE 2は各々のクラスで最大重量のエンジンを対象としているので原価上 の理由、フローテーション格納場所の理由等により実際に使用しているエン ジンではもっと軽いと考えられる場合は、次の方法によって計算した数値を 使用しても良い。 S=0.875[エンジン重量+リモコン重量(ケーブルを含む)]+0.89[バッテリー重量] 2)船内外機及び船内機 G=0.75(エンジン+ドライブ+フュエルシステム) フュエルシステムについて1)で計算が行われた場合はこの計算から除いて良 い。 A-2-3 LIVE LOADの空中重量計算(C) 1)MAX WEIGHT CAPACITYの計算 ●179図に示すように核当するケースに従いSTATIC FLOATLINEを引く。 ●ガンネル最下端ではそれ以下の最小乾舷位置。 STATIC FLOAT LINEを4等分して各断面毎にシンプソン公式に従い面積を 計算する。 A=h/3(a+4b+2c+4d+e) ●各断面図を更にシンプソン公式により体積計算する。 V=L/12(A+4B+2C+4D+E)= 15.57 (F) -(A) ●次の各々のケースに従いMAX WEIGHT CAPACITYを計算する。 A)船外機 M.W.C.={最大排水量((A)の計算)-船体重量}/5= B)船内外機及び船内機 次の二つのうち小さい方を選択する。 M.W.C.=(最大排水量-常備艇体重量-4x機関重量)/5=2.36 M.W.C.=(最大排水量-常備艇体重量)/7=1.95 常備艇体重量:(船体重量+機関重量) 機関重量:エンジン+フュエルシステム+フュエル+リモコン+ バッテリー+ドライブ 2)LIVE LOADの計算 A)船外機C=MAX WEIGHT CAPACITY-機関関係空中重量(TABLE2) B)船内外機及び船内機 C=MAX WEIGHT CAPACITY 1.95 A-2-4 必要浮力の計算(W) W=Ws+G+0.25C 2.26 A-2-5 必要浮体体積(F) F=W/B 2.29 B:浮体単位体積当りの浮力 ρ=0.015の場合=1-0.015=0.985(t) A-2-6 ハルサイドに配置すべき最小浮体量(Fs) Fs=0.25C/B 0.49 A-2-7 ボート後部30%に配置すべき最小浮体量(Fa) Fa=0.5xF 1.14 A-2-8 居住スペースの前30%に配置すべき最小浮体量(Ff) Ff=0.25xF 0.57 注) 2-2-6、2-2-7、2-2-8で求めた浮体の和は2-2-5で求めた浮体量と必ずし も一致しない。また2-2-5で求めた量以上の浮体を入れる必要はない。 A-3 材料 ●ウレタンフォーム ρ=0.02〜0.04 ●ポリエチレンフォーム ●耐油性スチロフォーム ρ=0.015 耐油性スチロフォームはBASIC FLOATATION量を越える分について使 用しても良いがPVAフィルムに包み保護すること。 A-4 浮力テスト A-4-1 浮力テスト ●3〜6mのボート 常備状態(携行缶は除く)で1人当り15kgのバラスト(定員分)を通常すわ る場所に置き、更にボート備品の水中重量として1人当り2kgで定員分をミッ ドシップフロアに置き、この状態で注水し上向きに浮きかつガンネルが水上 にあること。 ●3m未満のボート 定員1人当りの重量を7.5kgにしてテストする。 A-4-2 浸水ボートの安定 ●5〜6mのボート 定員1人当り15kgの荷重を定員分、片舷居住スペースに均等に分布させて転 覆しないこと。 ●3〜5mのボート 常備状態で人間だけ全ておろして、30kgの荷重を最大ガンネル幅又はその近 くにおいてボートが転覆しないこと。 ●3m未満のボート 前項荷重を15kgにしてテストする。 5-12-7-2 ベーシックフローテーション B-1 ベーシックフローテーションの要件 B-1-1 満載状態で浸水した状態において艇が浮かんでいること。 但し、人間は水に浸かって艇に掴まった状態である。 B-1-2 浮体量は計算に求めた値より20%増分すること。 B-1-3 浮体材料はレベルフローテーションに準ずることとする。 B-1-4 空気室はフローテーションとして認めない。 但し、上記20%の余裕に関しては空気室を使用してもかまわない。 (インテグラル式は不可) B-1-5 浮力体は、浸水後24時間は有効に働くものであること。 B-2 フローテーション量の計算 B-2-1 水中重量の計算(Ws) Ws = Wh*K1 + Wd *K2+ 0.69We Ws:浸水時の重量(水中重量) Wh:ハル構造の空中重量 Wd:デッキ構造の空中重量 We:艤装設備(ハードウェア、ソフトウェア、アクセサリ等)の空中重量 K1、K2:TABLE 1に示された係数 TABLE 1に示されないものでも比重の判るものはグラフ1から係数を求 めることができる。 B-2-2 機関装置の水中重量計算(G) 1)船外機 TABLE から最高保証馬力に核当する全水中重量(SWAMPED WEIGHT)を 選ぶ。船外機ではパワーヘッドは空中にあるものとして計算する。 2)船内外機及び船内機 G=0.75(エンジン+ドライブ+フュエルシステム) フュエルシステムについて3-2-1で計算が行われた場合はこの計算から 除いて良い。(レベルフローテーション参照) B-2-3 LIVE LOADの空中重量計算(C) A)船外機 C=MAX WEIGHT CAPACITY-機関関係空中重量(TABLEによる。) B)船内外機及び船内機 C=MAX WEIGHT CAPACITY *詳細はレベルフローテーション参照 B-2-4 必要浮力の計算(W) W=Ws+G+0.25C B-2-5 必要浮体体積(F) F=1.2*W/B B:浮体単位体積当りの浮力 詳細計算がコスト的にメリットがあると考えられる場合にはレベルフローテー ションの計算表に基づき計算してよい。但し、デッキ関係についても水中重量 を計算すること。 C 区画浸水 C-1 計 算 区画浸水計算は満載状態で実施し、手計算またはコンピュータプログラムに て行う。 C-1-1 浸水率 浸水率は、ある区画に浸水しうる水の容積とその場所の全容積との百分 率を言う。 注1)浸水率は海上保安庁の巡視艇に対して決められている数値をベースに区画規定も 参考にして決定した。 *1)80%は巡視船の機関室の浸水率である。 *2)80%は巡視船の諸倉庫の浸水率である。 *3)97%は巡視船の諸倉庫の浸水率である。 *4)99%は巡視船のタンクの浸水率である。 注2)詳細計算 機関室にいろいろな区画があって、前記浸水率より小さい数値となると考えら れる場合は、別表に従い詳細計算を行いその値を採用しても良い。 C-1-2 具体例 A) 一般的なパワーボート 隣の区画に浸水しうる限界まで(上記ハッチング部)を浸水率計算の対象とする。 上記の区画計算では、3区画について各々浸水率を決定し計算する。 浸水率 1 95(%) 2 95*(V-G)/V(%) G:タンク容量 3 85(%) 但し、3の区画は断面変化が大きいので左図のように適当に分割して各区画 が同時に破損したとして計算する方が望ましい。 B) フィッシングボートタイプ 上甲板までBHDが達しているとする。 上甲板に平行に76mm下方に線を引き(限界線)そこまでの区画について計算す る。 1=2=4=95(%) 3=85(%) プレジャーボートの貨物倉は格納物が少ないので居室と同じ扱とする。 (但し、タンク等がある場合にはその分修正すること。) C-2 評 価 評価は各区画につき次のように行う。 1) 求められた各区画の浸水状態の図を書く。 2)水線の位置が隣区画へ乗り越える限界より76mm下方居かならば区画可浸 域として有効である。 3)浸水状態での横メタセンター(GM)は5cm以上あること。 4)水線の位置が76mmより上方にある場合には、浮力体を入れるか、新し くBHDを設けるか、限界点の位置を高くする必要がある。必要浮力(B) は浮体格納場所、又は新しい区画増設位置までのミッドシップからの平 均距離をLとし、浮面心及び限界点を通る直線を引いた時のトリム変化を 船首でa、船尾でbとする。 B*L/M.T.C=a + b B=(a + b)*M.T.C/L M.T.C:毎センチトリムモーメント 5)上記浮力を加えた場合の浸水率を計算し、再度計算して、新しい水線面が 限界点以下となるよう確認する。 C-3 開発艇への対策 1) 区画浸水の要件を満足しない場合には、可能な限り浮体を入れるか、新しい区画 を増設することにより、限界点の位置を移動させて区画可浸を満足させること。 2)機能上の理由その他で区画可浸を達成できない場合は、船底強度を2割アップす ること。 5-12-8 耐久テスト 1. 耐久テスト負荷計算手順 この耐久テスト基準はプレジャーボートの開発に適用する。 1-1 構造標準計算グラフ氓ゥら船底水圧を求める。 1-2 耐久テスト負荷計算表から10〜15Gの耐久負荷数を読み取る。 開発艇のランクについては下記の通り。 2. テスト条件 ●満載状態で実施し、シート等の上にバラストを載せる。 ●エンジン、ドライバーが危険を感じない範囲で最高回転数とする。 ●フルジャンプ時の着水姿勢は、故意に艇体を斜めに落とさないようジャンプす る瞬間はステアリングを操作しないこと。 ●テスト走行時、波に対する角度は向波及び追波をメインとし左斜向、右斜向、 左斜追、右斜追においてもテストする。エンジン回転数は80%程度とする。 ●テスト時間 第1段階 平水 2時間 特に弱い部分があるかどうかチェックし本格的 な耐久テスト前に補強を加えるか修理をする。 第2段階 限定沿海(小波) 6時間 第3段階 本格的耐久テスト ● Gメータセット位置 ドライバー席近くのBHD(船底に固定された)の中央に セットする。 3. チェック方法 ●大きなトラブルが発生しない限り30分毎にチェックのこと。 ●小型艇の場合、テストの初期段階では4時間毎に上架し船底をチェックする。 ●1日に1回は上架し船底をチェックする。 4. 評価基準 規定の耐久テスト終了後、下記のトラブルが発生していないか確認する。 1) 船底にゲルコートクラックがないこと。(チャイン上100mmまでを船底とす る。) 2) 船側にゲルコートクラックがないこと。 3)デッキ、フロア各部でFRPに達するクラックがない。 4)ロンジ、BHD、主要構造物に目張りの切断、はがれ、白化がない。 5)構造材に決定的なダメージ(切断、座屈、はがれ)がない。 *1 マニュアル操作船の耐久テストでは、多少現実と異なる点があるので、 2.5mからの落下テストを行い、これらを耐久テストに替えても良い。 *2 ゲルコートクラックで発達の傾向のないものは技術部門の判断で許容する ことがある。 5. 判 定 評価後、重要な問題が発生した場合は再度耐久テストを行う場合もある。 構造強化や補強を実施し明らかに必要がないと判断される場合は再テストを行わ ない。 尚、試験艇は可能な限り問題点に対策を講じ、少なくとも1年間はモニター艇と して実際に使用 し、市場で発生に問題に対応するデータを集積する。船底外板の 受ける水圧は軽構造船基準に準じて計算する。本書で検討する際に使用する寸法 等の定義は下記の通りとする。
l=L/10(4+0.1*V/W1/6) (m) 4.57 L:船の長さ(m) 7.11 V:船の最強速力(ノット) 29.0 W:満載排水量(Ton) 2.90 耐久テストマニュアル(サンプル) L=26ft LWL=26x0.85x0.3048=6.74m V=29kt VxV/L=29*29/26=32.3 グラフより6.5〜10.5G 耐久加速度 1項表より限定沿海リモートステアリングなのでCランクとなる。 グラフ2より耐久加速度回数は135回となる。 5-13 模型製作 模型は新商品開発のプレゼンテーションで使用する他に販売促進でも役立つ。企画初期段階 では外観を示すソリッドモデルやインテリアカットモデルを製作し、走行性能を確認する場合 は縮尺模型の曳航試験を実施する。詳細な艤装を検討する場合、航空機は実物大のモックアップ を製作する場合も有るが船舶では製作されることはあまりない。最近は3D-CADが発達しコンピ ュター画面により検討する場合も多い。以下に制作する模型について解説する。 5-13-1 外観モデル 開発初期の企画検討段階ではエクステリアデザイナーが魅力ある外観を検討する為に粘土 で制作するのがクレイモデルである。自動車の開発ではよく利用するクレイモデルはボート の開発ではあまり実施しない。理由は少しでも開発費を押さえたいことと最近は3D-CADが 発達しある程度外観を検討することができるからだ。 しかし3D-CADも検討に使うデータ入力が結構時間を要するのでクレイモデルで外観を決めた後 に3次元計測器でCADデータとして呼び込めば効率的である。外観モデルはデザイナーの感性 を直接形にできるので今後も重要な表現方法であるのは変わらないであろう。 5-13-2 室内モデル インテリアデザインは商品性を高める大きな要素でもありその完成度の高さは重要である。 乗用車のインテリアデザインと同様に小型船舶の室内は狭小空間であり限られたスペースを機能 的にまた魅力的に仕上げるにはデザイナーの能力にかかってくる。特に小型ボートでは数センチ 単位で寸法を検討せねばならない。このような場合、室内モデルを制作するとデザイナー自身も 新たなアイデアを生み出すと共に製造上の技術的な問題も検討することができるのである。 できれば実物大モデルで室内を検討できれば最も良いが縮尺モデルでも良い。コストを考えると ペーパーモックアップを製作すれば効果的である。以下は筆者が企画したオフィスボートの1/10 室内モデルである。部品はほとんど紙とバルサ材を使用している。艤装品の配置はもちろん、 配管や配線の検討や、作業の難易度や製造工程の検討にも役立つ。 ●船体、上部構造の製作 ●艤装品の製作 ●艤装品の取付け1 ●艤装品の取付け2 5-13-3 水槽試験モデル 船体抵抗や復元性能などの検討に縮尺モデルを使うことは大型船舶と同じである。た だ高速力の小型船舶は力学的な相似則で抵抗試験を行う場合、水槽の曳航速度と模型 のサイズにより制限を受ける場合があるので注意が必要である。研究所や大学の多く の水槽は曳航速度が低いので小型艇はどうしても模型の縮尺比が大きくなり小さい模 型を使用せざるを得ないので得られたデータの信用性に限界がある。それでも得られ るデータや情報は多いので貴重である。定量的なデータを重視するか定性的なデータ を重視するかは滑走艇では重量重心位置などで走行性能が変わるので定性的な特性を 知るだけでも水槽試験を行うことは意義がある。 5-13-4 マンドモデル 小型船舶の走行性能を評価する場合、単に抵抗や復元性だけの評価を行うわけではない。乗員 が危険を感じないか、また乗り心地はどうかなど数値では評価が難しい項目はできるだけ現物の サイズで試験を行なうのが良いのは当然である。試作はその為に行なうのであるが開発初期には 原寸大で簡単な木製構造やFRP簡易試作艇を建造し基本的な性能を評価する場合もある。