連載-ボートデザイナーの仕事
■7章 生産(量産) 7 生産(量産) 7-1 生産用図の作成(改訂、型改造、生産移行説明) 量産開始に備えて設計や製造部門も最終的な準備が始まるが試作艇で発生した不都 合箇所はすべて修正し、図面は改定通報を添えて関係部署に通知する。また生産技術 部門では製造ラインが無理なく稼働し、また品質を保って生産できる為の準備を行 う。例えば試作で離型に時間がかかり過ぎる場合はその対策を行い型の改造を行うこ ともある。またガラス繊維の裁断は型紙や型板を作成し材料の無駄を省きコスト低減 も図る。資材加工に関するジグや関連資料の作成は重要だ。資材部門も量産に備えて 資材発注を行うが納期が長い輸入部品はリードタイムを把握するのが重要である。 ボート部品に限らないが部品メーカーは効率良く生産するためにまとめて生産する場 合も多く、年に2ケ月しか生産しない場合はこれらも考慮してまとめ買いをしなければ ならず、その判断は設計と良く打ち合わせなければならない。これらの問題点は生産 移行会議などでお互いそれぞれの部門の課題や問題点として認識しておくのである。 7-2 生産試作問題点会議 これでいよいよ量産へ移行するのであるが最初の数十隻までは何かと問題が発生す るので関係者が現場で立会うことが重要で、この時点で問題点を解決し更に生産性が 高まればメーカーにとって利益の高い商品となり、お客にとっても品質の高い商品と なる。 7-3 量産移行(改訂通報、マーケッティングニュース) 量産が軌道に乗っても各部門は忙しい。特に問題点がなくても現場からは更なる改 善提案などが提出され、採用されれば設計は図面を改定しなければならない。また毎 年3月を過ぎ販売されたボートが実際に走り出すと市場から営業を通じてマーケッティ ングニュースが上がってくる。市場での高い評価は良いが改善要望が多い場合は対策 の必要性や対策時期などを回答せねばならず、量産数の多いボートを開発すると量産 後1年間、設計者はその対策で忙しい。その改定通報の発行数は数百枚を越える場合 もある。 7-4 品質管理 量産ボートの品質管理は大変重要である。市場で部品を交換する必要が発生した場 合、取り替えが簡単に行なえるか、市場で同型艇が並んだ場合、違いが合ってはなら ない。更にメーカーのブランドに合致した管理が行なわれているかは極めて重要な項 目である。量産ボートの品質管理は乗物であるから安全性は最重要項目であるが、事 業である限り利益を生み出すのに最適な基準で管理することが求められている。言い 換えればどこまでまずく作っても許されるかと言うこともできるのだ。 7-5 量産艇生産-輸送、保管(シュリンクラップ) 量産はディーラーショーで発表後の10月頃から開始されるがニューモデルが実際に 市場に出回るのは翌年の3月以降である。それまでは生産したボートを作り溜めし一定 期間保管する必要性がある。 舟艇の保管は小型とは言え乗用車に比べるとはるかに 大きく自動車のように場所さえあれば良いわけではなく保管場所の確保と簡単な船台 が必要だ。しかも前述のようにFRPは製造後およそ3ケ月樹脂が完全に固まっていない ので保管の仕方が悪いと船底が変形して思わぬトラブルが発生する。メーカーが保管 する場合は情報も管理されているが一旦工場から出荷されるとその管理は難しい。長 期間の保管が予想される場合は日本ではボートカバーを使用するが外国ではシュリン クラップと称するプラスティクの皮膜で覆うのは前述のとおりである。