連載-ボートデザイン開発編(第9回)


 
試作、試験、評価、承認作業(基本設計図決定:PHASE-4)
5-1試作艇建造(試作、開発日程の検討) 公式試運転前に不都合個所を把握するため社内予備試験を実施する方が良い。 検査機関が要求する縦曲げ試験は2点間で支持した船体の撓みを評価するが小型船舶は 撓みが小さいので社内基準で別に評価する場合もある。 試運転は主機関等の慣らし運転後に軽荷状態で実施し設計者は可能な限り乗船する。 速力試験は軽荷状態と重荷状態で最初に実施するが出力は1/4,2/4,3/4,4/4,Maxで実施する。 旅客船の場合はプロペラ回転数が主機の連続最大出力での規定回転数をクリアすることが重要。 速力試験は潮流や風向を考慮しマイルポストを往復し平均値を採用する。 最近はGPSを使用し往復の平均値を採用。(できればレコーダーで解析) 操縦性試験は左右最大舵角(30°)で航行し支障のないことを確認。 旋回試験は舵角(5°、10°、15°、20°、30°)で旋回径をGPSで確認する。 復元性試験はバラストを左右に移動させ初期復元力(GM値)を計測する GM値は乗り心地にも影響するので船舶の種類により適正値があるが一般的に小型船舶 は1.5m以上のGM値となる。 続航試験は燃料満タンで航行し仕様通りの航続性能を確認する。 その間に各システムに異常がないことを確認する。 社内試験で何も問題が発生しないことは稀である。 最高速力不足、旋回性能不足、振動騒音過大など予想されるが、まず評価基準を作成 することが重要。 耐久試験を求められた場合はABYC(NMMA)をベースにした社内基準で実施。 初号艇完成を公表し取材者や希望者を試乗会招待。 開発技術者は取扱い説明書や整備要領書(サービスガイド)等を準備する。 またマスコミ向け公開可能な技術データ等の資料を作成し、必要なら意匠登録を準備 する。 市場発表は新聞、雑誌、インターネットで公表し、量産モデルはディーラーショーを 開催し試作艇の試乗会も実施。 量産モデルの場合、試作艇をほぼ1年間モニタリングし市場で発生する不都合個所を予 想し対応策を準備する。 5-1-1試作工程検討 試作艇を製作する意義は開発艇の性能確認に加え量産での作業工程の確認や問題点 把握と解決の場でもあり製造上の問題点を事前に知り対策を行う他に更なるコスト 低減や生産準備を行う機会となるのである。      図-191はアルミ艇の作業行程表の例を示す。
実際の作業行程表は流れ図(図-192)を使用する場合が多く、最も効率的な作業行程に より商品力の有る製品が出来上がる。 プレジャーボートではハルとデッキ(上部構造)の組み合わせ(カップリング)をで きるだけ後へずらし、それぞれに関連する艤装品を作業がやり易いカップリング前に 済ませることが艤装コスト低減の秘訣である。 一旦カップリングをしてしまえば室内艤装は大変やり難いのである。 デッキ艤装もカップリング前であれば下からや裏からの作業も容易であることは試作 を行えば一目瞭然である。 量産数が特に多ければ1次試作、2次試作と分ければ更に試作の効果が見込めるはずだ。
5-1-2 現図 船体やデッキ構造物などを製作する場合、各部品は原寸大の現図が必要であり今ま では造船所には必ず現図場が存在した。 そこでは床一面にラインズが描かれ、部材の形状を拾い出す作業が行われてきた。 最近は設計作業がCAD化され、形状が数値制御(NC)されて直接部品を切削加工する ことも可能となったが小型船の造船所は事業規模も小さいので設備投資の余裕がな く依然として現図作業が行われている。 しかし、今後は零細造船所も数値制御(NC)による原図作業工数の低減を積極的に導 入すると予想されている。 図-193はフレームの現図作業中の様子。
5-1-3 木型(オス型)(モックアップ) 量産艇の船体材料はFRP製が主流であるが、総合的に考えて低コスト、高品質の商品 が開発できるからである。 FRP製品は型開発費が必要であるが型製作に特殊な設備投資は不要で小規模造船所で も容易に製作が可能である。 小型艇の型費減価償却は200〜300隻で可能とされ、自動車に比べると開発リスクも 小さく、型償却が終わればモデルチェンジも可能である。
FRP製品は造形が自由で量産型の管理を確実に行えば製品表面の品質は一定であるが リサイクルが難しいのが欠点だが今後も小型ボートの主流として残るであろう。 さてFRP製品はまず木型(オス型)を製作しFRPメス型を製作する。 木型は木造船の建造と似ており、FRP船建造へと急速に変化した理由は従来の木造船 技術の流用が可能だったからと言える。 木型はフレームを立て、その後、縦通材を通し、その上に外板を張り付けていく。 ハードチャインのある滑走船型は比較的大きな板を張り付けて成形できる。 ヨットのような曲面の多い船型は細長いバテンと呼ばれる角材を張り付けるか、幅 10cmほどの薄いベニヤ板を2層バイヤス方向に張り付ける方法が使用される。 外板の木肌の凹面や外板継ぎ目などの目止め処理が終わるとオス型が完成となる。 ここから離型剤を塗りFRPメス型製作に入る場合と木型にゲルコートを塗り何回もサ ンディングなどの表面仕上げを行い製品と同等の表面に仕上げた後に FRPメス型製 作を作る場合がある。 表面仕上げを木型(オス型)またはメス型のどちらで行なうかは判断が難しいがオス 型は凸面が多く作業がやり易いのでこの段階で表面処理を行う方が良いかもしれない。 木型は実物と全く同じ大きさなので企画や設計を検証するモックアップとして評価を 行う場合も多い。 最終的にオス型の表面を鏡面のように仕上げる。 図-195は53FT艇のオス型製作の工程を示す.
最近は人工木材を使用し、数値制御(NC)のルーターで直接切削し、表面仕上げは 人が行う方法も増えたが、船舶は乗用車などに比べるとサイズが大きいのでNC加工し た小ブロックを組立てる手法が取り入れられた。
5-1-4 FRP型(メス型)(型磨き、仕上げ、からめくり) オス型が完成すると生産型でもあるFRPメス型を製作するが、メス型は量産で酷使さ れるので変形しないように金属パイプなども使用して補強する。 メス型作成の作業手順はオス型表面を滑らかにし、離型ワックスをまんべんなく塗り 表面を磨き上げ、離型を更に確実にするためPVAも塗る。 このPVAはアルコール系の離型剤でどうしてもオス型が抜けない場合隙間に水を注入 するとアルコールが水に溶けて離型が確実になる。 離型剤の塗布が終わると型用ゲルコートを塗布しある程度硬化したのを確認し次に ガラス繊維を績層していくが最初の績層は慎重でなければならない。 樹脂の硬化時間が早すぎると発熱しゲルコートが引きつり表面にしわができたりする。 開発艇のサイズにも依るが、メス型は 7〜10mm の厚さまで績層する。 次に補強材を追加し、更に鉄パイプで補強し、量産用型では作業性を向上させ効率的 な作業姿勢が可能なように回転型とする場合が多い。 オス型からの離型は樹脂が充分に硬化し変形が安定する数日後に行う。 この離型の瞬間は開発担当者にとっては何度見ても感動する瞬間だ。 メス型で表面仕上げは粗めの水ペーパーから最終的には1000番の水ペーパーで表面 仕上げ行ない最後にバフ掛けを行って磨きだす。 出来上がった表面は鏡面仕上げとなっており、1m離れて人の顔が判るほどの鏡面仕上 げだが1m離れて顔が判る程度の基準は少し曖昧でもう少しきちんとした数値で品質 が管理されるべきである。 型が完成すると離型ワックスを塗りゲルコートを塗布し、からめくりをするがこれは 型とゲルコートの馴染みを高める作業と言われ調理用のフライパンで何回か卵焼きを 作ると使い易くなるのと似ている。   図-196はオス型からメス型を離型する作業である。
5-1-5 ゲルコート吹付け(バックアップゲルコート) メス型が完成すると試作艇の製造開始で、外装用ゲルコートをメス型に吹き付ける。 吹付量はハルで0.70kg/F、デッキで0.75kg/F程度であるがこの作業は熟練を要する。 薄すぎると完成後裏面が見える場合もあるので充分な厚さが必要だ。 小型の量産ボートでは吹付量がオーバーすると重量超過と原価が高くなってしまう。 外装用ゲルコートの価格は色によって多少違うが、量産ボートでは吹き付け量が10% 多過ぎるとたちまち数千円のコストアップになるのである。 外装用ゲルコートを吹付けた後はバックアップゲルコートを吹付けるが目的は完成後 内側、外側から内側のフレームが透けて見えるので防止するのが目的である。 バックアップゲルコートの色は黒が普通で吹付量は0.3kg/F程度で充分である。 ゲルコート塗布で難しいのが塗り分けで、外観デザインでカラーリングは大事な要素 で、ハルあるいはデッキそれぞれのメス型内に塗り分け位置をマーキングしマスキン グをしてゲルコートを吹付けるので手間は倍以上かかることになるので普通は小型 ボートではあまり採用しない。 近年はラッピング技術が進歩しフィルムシートを貼ることも増えてきた。 図-197はメス型にゲルコートを吹き付け中。
5-1-6 基本積層 船体構造設計が決まると基本績層となるが小型ボートは品質の維持とコスト維持が 重要なので作業基準や生産技術の開発が必要である。 基本績層は決められたガラス繊維に決められたポリエステル樹脂量で績層するが重量 管理と品質管理は熟練が必要である。 樹脂をできるだけ少なくし丁寧に脱泡しガラス繊維に樹脂を含侵させると軽くて強度 のある績層板が出来上がるが作業時間は多くかかることになる。 そこで社内基準として目標値を決めたのが品質管理基準であるが量産基準はどこまで 良質を保つかと言う反面どこまで質を落とせるかの基準でもある。(適正品質) 例を挙げると績層過程で脱泡をどの程度まで行うか、具体的にいえば決まった面積に どの程度気泡があれば強度に影響を与えるかである。 図-198は基本積層が終了した状態である。
5-1-7 補強材取付け 基本積層が終わると補強材の取付けとなるが大型艇のフレームや縦通材は発泡材を 厚い板状や棒状に加工し、その表面をFRPで積層する構造が多い。 ただ、ウレタン発泡材の密度が小さ過ぎると経年変化で粉状に粉砕され、複合材の 強度が失われる場合があるので注意が必要だ。 図-199はウレタン発泡材を補強材に使用した大型艇の例である。
小型量産艇では縦フレームや横フレームも一体構造とした成型品としてハルへ取付 ける場合が多い。(ロンジ構造) こうすると取付け工数は大幅に減るがロンジは型開発費が増えるので量産数が多い 場合に限られる。 図-200はロンジ構造をFRP成型品で取付ける場合の例を示す。 デッキやキャビン天井もFRP型部品として取付ければ手間のかかる室内艤装工数を 減らすことができる。 大型艇では狭小空間を有効に活かすためトイレやシャワールームなどを型で作るの が最も効果的である。  図-201は小型ボートの天井をFRP型で製作し接着した例である。
5-1-8 離 型 補強材の取付けは出来るだけメス型の中で行った方が良い。 なぜならFRPボートの外板は薄く剛性も低いので補強材で全体構造の剛性を高めると 変形を防ぐことができ離型も容易になるからである。 試作では離型剤の利きが悪く簡単に離型できない場合や、どうしても離型しにくい 場所もあるが、小型量産艇ではハルやデッキは10〜20分で離型できることが目標だ。 試作では離型し難い場所を確認し、慎重に対策を考えながら離型する。 離型を容易にする工夫としては離型が困難と予想される個所のメス型に圧縮空気を 取り入れる穴を設け離型を助ける方法もある。 またゴムハンマーでたたいて離型をさせる場所も試作艇で確認しておくと良い。 量産ではこれらの場所を事前に丁寧に離型させると全体の離型作業が容易になる。 こうして離型したハルやデッキ等の製品は変形しないようにしっかりした架台に載せ て次の程へ進むが、FRPが完全に変形しなくなるには数ヶ月かかる場合も有るので その間の保管はしっかりした架台を準備するのが重要である。 図-202はオス型からメス型を離型する作業である。
5-1-9トリミング トリミング作業では離型したFRP製品の不要な部分である窓やハッチの切り明けや 切捨てるが、作業はディスクサンダーでカットするが、ガラス繊維の粉が舞い上がり 作業環境も悪いので防護服を着るが作業者が最も嫌がる辛い作業である。 最近は全身を被う作業服に呼吸用空気を送り込むなど作業者の環境を少しでも改善す る努力もなされているが、ディスクサンダーを使用しないで済む方法としてはFRPが 半硬化のタイミングを狙いカッターナイフでトリミングをすると簡単に切削できる。 硬化すると固くなるFRPも半硬化では簡単に切れるほど柔らかいのである。 5-1-10 ハル組立(ハルライナー、エンジンベッド、トランサムボード) 取付け可能なハル補強材はできるだけオス型の中で装着すべきである。 ハルライナー、エンジンベッド、トランサムボードなども治具を使えば正確に接着で きるが作業工程の都合もあり離型後に作業を行う場合も多い。 ハルライナーとはキャビン内の艤装品をFRP成型品とした部品で小型ボートでは ギャレーやバース区画、ロッカーなど、大型艇ではトイレやシャワールームなども 型部品としている。 こうすることにより狭い場所での作業を避け環境の良い別の場所で事前加工組立をす ることで組立工数を下げ品質を高めている。 エンジンベットも搭載エンジンに合わせて型部品とすれば僅かの調整だけで正確に セッティングできる。 船外機用のトランサムボードは船外機の重量と推力を船体に伝えなければならず大き な力が加わるので接着は確実に管理されるべきだ。 5-1-11 デッキ艤装(回り止め、デカワッシャー、カップリング前に行う作業) デッキ艤装品、特に安全に関わる部品は確実に取付けるべきだ。例えばクリートや レール等はボルトナットで取付けるがFRPデッキはボルトで締め付けると面圧が高く なり座屈するので荷重を小さくするために普通のワッシャーより遥かに大きなワッシ ャーを使用する。 ナットも弛みが生じないようにナイロンナットなどのリテイナーナットを使用する。 これらは品質管理規定などで厳重に管理してあるはずだが、輸入ボートでクリートを タッピングスクリュウーで固定した例があった。 このようなボートは係船作業でこのクリートが外れてしまう重大事故が発生する可能 性がある。 プレジャーボートの量産ではハルとデッキのカップリングはできるだけ遅らせるべき でカップリング前であればデッキに艤装品を取付ける作業性が良く、カップリング後 は船内と船外からの作業となり2人作業となってしまうからである。 5-1-12 電気艤装(ワイヤーハーネス) 近年は室内に多くの電装品が取り付けられるので電線工事は重要になった。 大型艇は室内も広いので作業員が配線を行なうことも可能であるが、小型艇では場所 も狭く作業が困難なので事前に配線を部品として組立てたワイヤーハーネス(電線を 束ねた部品)を組み込む方が効率的である。
5-1-13 プールテスト、完成検査 試作艇が完成すると品質管理部門により様々なテストが行われる。 電装品の作動チェック、ハッチやドアなどの開閉確認など多数のチェック項目があり 正常であればOKマークを添付する。 造船所が海辺にない場合は小型ボートをプールに浮かべて機能テストを実施する。 プールテストは傾斜なく正常に浮かぶか、浸水はないか、ポンプ類は正常かなど実際 に浮かべないと判らない項目をテストする。 シャワーテストは集中豪雨を想定した射水を実施しボートの水密や水はけを確認する。 どの程度の降雨量とするかは難しく、以前は1時間に30mm以上は集中豪雨と言われる が最近の災害ニュースではこれ以上の降雨量を聞く事が多く現在はもっと高い設定値 が必要と思われる。
5-1-14完成艇の重量重心確認 基本設計で充分に重量重心を検討し詳細設計で大きな変更がなければ重量重心位置が 大きく変化することはないが復原性などの安全性に関係するので完成後に検査機関か ら実際の重量重心試験や復原性計算書を求められる場合もある。 特に小型船舶でも旅客12名以上の客船は復原性確認書類の提出は必要だ。 5-2完成、試運転 5-2-1完成、軽荷および重荷重量重心計算 前述のように重量重心位置の確認は安全性に直結するので確認が必要であるが 小型船舶は艤装品数も少なくパーツリストで重量重心は正確に把握が可能だ。 艦船では進水後の艤装工事で積み込む重量を確認する検査も実施されている。 5-2-2重量重心査定試験 重量重心の確認は計算だけではなく実船の重心査定試験で確認することも出来る。 特に検査機関は重心査定試験を検査項目に指定し安全性を確認している。 重心査定試験ではGM値がプラスの値で復元力があることを求めるが、GM値は船舶の 使用目的で適正な値があり知る必要が有る。 小型船舶では乗り心地も含めてGM値が1.5m程度を基準としている。 大きすぎると初期復元力は大きいが横揺れ周期が短く乗り心地が悪いことを意味する。 計算による重量重心の確認とともに完成時に傾斜試験を行い既に計算で求めた排水量 等曲線から特性を算出する。 排水量等曲線 従来はラインズオフセット数値を排水量計算法を使い計算して排水量等曲線を作成した。 近年は船型ラインズを船舶ソフト(MaxSurf他)に入力し求める。
排水量の計測 排水量を計算するには正確に吃水を知ることが重要である。 浮き姿が船体ラインズのベースラインと平行であれば前後の吃水を計測し排水量等曲 線から直ちに排水量を求められる。 縦に傾斜している場合には特別に修正計算により求める。 前後の吃水を知り排水量を知る方法 実際の計測は船体のステムとトランサム部分に最少0.5cm単位の目盛りを描いた テープを貼り目視にて計測する。
傾斜試験 傾斜試験で使用する基本式 GM=wP/Wotanθ   KG=KM-GM     w:移動させるバラスト重量(kg) P:バラストの移動距離(m) W:試験の排水量(kg) θ:錘子(すいし)の角度変化(°)  傾斜測定      図のように天井から錘子を吊り下げ下方hに目盛尺を水平に置き傾斜時の片寄り 量sを読み取る。  錘子の動きを早く制止させるには容器に入れた水中に錘子を入れると良い。 tanθ=s/h  s:片寄り量(mm) h:錘子の吊り下げ高さ(mm)
傾斜試験の手順 1.傾斜試験は水面が静穏で風がない日が望ましい。 2.開始前に試験艇を直立状態にし、錘子を中心位置に合わせる。 3.船首は風上に向け、係船ロープは緩める。 4.計測時の計測員は必ず船体中央に位置する事。
事前準備 船体の前後に吃水計測目盛りを貼付ける
準備1(計測関連備品) o錘子(建築用市販品)  o水糸用糸(0.8mm程度)  oガムテープ o錘子吊り下げ用フック oカメラ o記録用紙   o水箱 o双眼鏡(吃水目盛りを確認のため)o体重計 準備2(計測員配置と水糸のセッティング) 試験艇を着水させた後、まずトリムが水平となるようバラスト要員と計測員の 位置を決める。 この時点で前後の吃水位置を岸壁から目視で確認し記録する。(下記参照) 船内では水糸と水箱等のセッティング。(30分程度)
軽荷状態の吃水計測と係船要領
重心査定試験の計測作業(軽荷状態で実施) 第1回計測 @ バラスト要員と計測員は船体中心線に位置し、揺れが収まった時点で錘子の位置を読み取る。(5分程度) Aバラストは中央より右舷へ移動し揺れが収まった時点で錘子の位置を計測。 Bバラストは右舷より中央へ移動し揺れが収まった時点で錘子の位置を計測。 Cバラストは中央より左舷へ移動し揺れが収まった時点で錘子の位置を計測。   Dバラストは左舷より中央へ移動し揺れが収まった時点で錘子の位置を計測。   計測終わり 第2回計測は第1回計測と同じ要領で実施する。 前後の吃水から重心位置を計算 前後の吃水値が判れば排水量等曲線から読み取り次表の計算法で長さ方向の重心位置 を計算できる。
5-2-3試運転 試作艇の完成検査が済むと試運転で様々な項目のテストを行う。 性能テストとしては最高速力、加速試験、プロペラ選定試験、航続性能試験、 燃料消費試験、旋回試験、耐久テストなどがある。 強度試験は安全規則以外に社内基準による試験も行う。 小型船舶検査機構による試験は縦曲げ試験が代表的であるが、小型艇はこの試験に 関しては充分に強度を有しており真の強度を満たすと判断するわけにはいかない。 その点で、耐久試験は高速艇の強度判定には適しているといえる。 量産メーカーの耐久試験はABYC(現NMMA)をベースにした社内基準が多い。 基準の基本的な考え方は所定の重力加速度計を船体中心付近にセットし、所定の速力 で走行し、所定の加速度を所定の回数記録し異常がないか確認する試験である耐久試 験は実験担当者にとっては結構辛い試験で全長7m程度の高速艇が40ノットの スピードで波間をフルジャンプすると数十Gを記録することがある。 クラックがゲルコートの部分だけなら問題はないがFRP績層部分まで達していると 補強が必要である。(参照:4-2-3) ●試験データ収集 新開発艇の試験では可能な限り様々なデータを収集し分析する。 得られたデータを分析し次回の開発に活かせばより良い商品が開発できるはずだ。 試験項目はいろんな要素が関係し合っている場合が多いのでレコーダーで多くの項目 を同時に計測するのが望ましい。 図-207は試験で計測するデータ項目の例と関連を示している。 データの計測方法はいろいろな方法があるが図-208は船外機や船内外機の推力(スラ スト)計測方法の例を示している。 スラストが計測できればこれは実際の抵抗を知ることにもなるので新開発のボートで は是非計測したい項目である。
●速力試験 小型船舶の速力試験も大型船と基本的に同じで機関出力は4〜5段階に分けて実施する。   通常は1/4出力、2/4出力、3/4出力、4/4出力、及び全力である。 機関の最高出力の定義は船の種類により異なり、大洋を航行する大型船舶は連続して 数十日を一定出力で航行するのでプロペラは4/4出力で設計する。(連続最大出力) 一方、プレジャーボートの最大出力は短時間に許される出力なので、長時間最高出力 で連続航行することは避けるべきだ。 近年のプレジャーボートの最高出力は30分定格が多いようだができれば急激な加速や 一時的に最高速力を出す場合のエンジンの出力特性と理解すべきだ。  いずれにしてもプロペラは満載状態で4/4出力の回転数をクリアするように設計する。 速力試験はこのプロペラ特性を確認する為に機関の最高出力または11/10出力の回転 数まで速力試験を行ない、もし4/4出力でプロペラ回転数が予定より低ければ機関に 負担がかかり過ぎているのである。 小型船舶では4/4出力でプロペラを設計する必要はなく、高い費用で専用プロペラを 製造することは適当でないからである。 代わりに交換する可能性のある業務艇ではピッチや直径の異なる数種類のプロペラが メーカーで標準化されているので使用状況に対応すれば良い。  速力試験のコースの例を図-209に示す。
●急速停止試験 舟艇の急速停止に関する試験結果を数値で表すことはかなり難しかった。 滑走艇は機関出力を絞れば急速に速力は低下し、車のように停止距離を水上で正確に 計ることは困難である。 今でも検査機関の試験では目視で1/2艇身などで表現しているがメーカーの社内試験 ではもう少し精度のあるデータで評価すべきである。 方法としては船内の重心付近に加速度計を装着し、進行方向の加速度を計測し積分し 速力が求められ更に速力を積分すれば停止までの航走距離を求めることができる。 図-210はその計測結果例を示す。
●旋回試験 旋回試験は急速に旋回しても支障がないかを確認するのが目的である。 排水量型大型船と高速滑走艇では評価の仕方は少し異なる。 排水量型船は旋回時に外傾斜するが滑走艇は内傾斜する違いがある。 舟艇の旋回試験の結果を評価基準は安全性の確認を重視する。 旋回径は小さい方が良いが危険を感じ操縦が難しくなるような旋回特性は好まし くない。(図-211は試験時の回頭角と速力から旋回径を求めた例である。)
5-2-4 完成仕上げ(ショーモデル) 試作艇が完成すると試運転や評価を行うがボートショーへ出品する展示艇は特別に 展示場のカクテル光線に合わせ磨き揚げ表面の質感を高めることがある。 大型艇のキャビン内には花や雑誌等を並べいかにもボートを楽しく使っている雰囲気 を出し見学者にアピールする。 日本では新型モデルは9月か10月に新聞や雑誌に発表され、一般人は雑誌の試乗記事 などを見て購入しようと考える。 もちろん顧客はメーカーの営業担当者から情報を得て試乗会などに出かけるのである。 最終的には翌年春のボートショーで他社艇も見て確認し納得して購入する場合が多い。 図-204は量産モデルではないがボートショーに展示されたショーモデルである。
5-2-5船体検査(型式承認、予備検査) 量産艇は試作艇の耐久試験が終わり特に問題がなければ量産となるが、量産ボートは 型式承認や予備検査の承認を受けなくてはならない。 一般ユーザーはボートを購入すると小型船舶検査機構の船体検査を受けなくてはなら ないが個人で検査機関へ資料を添えて受験することはかなり難しい。 そこで量産メーカーがあらかじめその試験項目を検査機関で承認してもらうのが型式 承認、予備検査である。 型式承認は量産艇としてあらかじめ設計承認を受け購入者が受験する際の項目を減ら しまた事前に承認を受けて検査を簡素にしている。 予備検査はエンジンや安全備品などの重要部品をあらかじめ検査機関の承認を得る 制度である。 このような検査済みのシールは船体の判り易い場所に添付してある。 5-2-6 保管、輸送 小型船舶は乗用車と比べるとはるかに大きいので保管や輸送は大変である。 ボートビルダーは毎年ニューモデルを発表し翌年のマリンシーズンに備え量産するが 販売店で展示するボート意外は基本的にボートビルダーでストック(保管)すること になる。 長期保管の場合は船体を防水カバーで覆い、輸入艇では薄いプラスティック板に熱を 加えボートに密着させた皮膜でカバーするよう場合も多いようだ。 5-2-7商品プレゼンテーション(商品性、カタログ、マニュアル、意匠登録) 量産開始と前後するが量産艇は商品魅力を高める為に魅力的なオプションを設定し、 販売価格は慎重に決定される。 試作艇の問題も解決し、量産仕様が確定すればいよいよ生産移行のための最終的に 社内プレゼンテーションを行い量産が決定される。 量産準備と平行してカタログや取扱い説明書、マニュアルなどが作成されるがこれら は設計と営業の共同作業である。 また意匠登録も同時期に行われるがこれはスタイリングを真似るのを防ぐと言うよ り市販されたボートから型を取り量産する不届きなメーカーが存在するからである。 実際に和船や漁船などは日本国内でもその例は後を断たないと言われている。 このような不正が行なわれるのはFRPの型を製品から容易に製作可能だからであり 外国では特に多いようである。 5-2-8市場発表(取材、ディーラーショー) 量産が決定されると新聞紙や雑誌に新艇発表が紹介されディーラーショーも開催さ れ、新艇発表会開催時期(ディーラーショー)は9〜10月に全国のディーラーを 招待し開催され市場の評価を受ける。 ディーラーも様々な立場やランクがありいわゆるメーカーからの仕入価格のランク が細かく分けられている。 これは外国も同じで販売量の多いディーラーほど仕入れ価格が安いので利益が大き いようだ。 また他社メーカーのボートも販売する併売ディーラーにとっても販売力の商品を欲 しいのでディーラーショーでのメーカーへの意見や要望は真剣である。 5-2-9モニタリング 試作艇は量産が始まると一応役目を終わるがその後の使い方は様々である。 新しいコンセプトで開発されたモデルは約1年間モニタリングの為にメーカーで 所有し雑用に使用される。 市場からクレームがあると原因を究明し生産途中でも改良を行う。 試作艇は問題点を再現し対策を確認するのに極めて有効である。 マイナーチェンジや大型艇ではテストが終了しあまり雑用に使用することもないと 判断されると量産艇と同じ品質まで手を加えて仕上げを行い市販される場合もある。 但し、量産艇と同じ扱いはできないのでメーカーではクレームを受け付けないなど の条件を付けて特定のお客に販売するようだ。