連載-ボートデザイン開発編(第6回)


 
4-2 基本設計1(技術検討:PHASE-1)
4-2-1基本設計のながれ   PHASE-0とPHASE-1は合併して計画を進めることも可能である。 PHASE-0で充分な検討が出来ている場合はPHASE-1では機関配置と室内及び艤装品 配置がかなり詳細に決めることができる。。 主機と機関減速比を選択しプロペラサイズを仮決定。 配置検討では操縦区画、化粧室区画、燃料タンク、清水タンク、汚水タンクを検討。 主要な艤装品の配置も仮決定する。 主要構造を検討するが滑走艇の場合は全長の前1/3の個所は波浪荷重が大きいので竜 骨方式(ロンジ方式)を採用する。(軽構造基準、FRP特種基準で検討) 詳細なスケルトン図(レイヤー機能のあるソフト使用)を作成すると基本設計が判り 易くなる。 定員が12名以上の場合は復元性による定員計算で検討。 主要構造図では各部材の寸法を決めて船体重量を推定。 内装重量の把握は特に家具、天井、壁、床の重量管理は重要。 近年は電気艤装が充実し電線やバッテリーの重量が問題となるので要注意。     経験豊富な担当者は基本設計を2〜3ヶ月で完了するが、初心者は検討する資料やツー ルがないので数倍の時間を要する。 社内で技術基準や検討ツールの整備やOJT教育の充実が重要。            ほぼ基本設計が終了すると技術上の課題を明確にし、開発工数やより詳細な開発費お よび大日程を決定し、開発のスピードアップを図ることが重要。 4-2-2一般配置図、ラインズ決定、主要構造図作成   ●一般配置図 一般配置の検討は始まりと終わりがはっきりしない。 初期企画では一般配置図を作成するが限られるので企画の要点を検討する十分な時間 がなく担当者の経験と技量に頼る場合がある。 一般配置図は詳細な検討の後に必要な箇所は少しずつ修正される。
下図のカタマランモーターセーラーは抵抗削減のため両舷ハル後端を0.6m延長する 付加部を設け顧客の要望に応じるために搭載する船外機は50PS〜150PSを想定して おり、室内電源は太陽光充電による大容量バッテリーを使用し、不足分する電力は汎 用発電機(1.6KW〜3KW)で賄う。
●総トン数の検討 総トン数は課税や船舶職員法他の判断基準として使用し、船舶の容積をベースに計算 する。 総トン数の計算は、測度長24m以上と未満では計算方法が若干異なる。 日本独特の免許制度で長年、小型船舶操縦士免許は総トン数20GTで制限を受けていた が、近年、小型船舶免許制度の一部改正により、小型船舶操縦士免許で操船可能なサ イズが全長24m未満へと緩和されたので総トン数20トン以上の小型船舶も増えること が予想される。 総トン数計算は従来の24m未満の小型船舶用の簡易計算と24m以上の計算法では矛盾 が生じることが分っているので総トン数計算を測度長24m未満と24m以上の両方の計 算方法を比較してみた。   全長(Loa):24.00m     測度長(LT):23.60m           積量幅(DT):5.90m     積量深さ(DT):2.32m シヤー深さ(DS):2.89m   カタ深さ(Dm):2.80m
(1)測度長24m未満の計算方法を用いた場合 ◎船体主要部の容積 船体の容積は次の算式により求める。 Vu = 0.65 × LT × BT × Dm = 0.65 × 23.60 × 5.90 × 2.80= 258.417G ◎ 上甲板上の閉囲場所の容積及び除外場所の容積     上甲板下の船体上部の容積=(最大の長さ) × (平均幅) × (平均深さ・高さ) 付加物の容積=(最大の長さ) × (平均幅) × (平均深さ・高さ) 閉囲場所の容積(上甲板上の閉囲場所及び除外場所の容積)=(最大の長さ)×(平均幅)×(平均深さ・高さ) 計算結果 合計容積V¬ = 閉囲場所の合計容積+除外場所の合計容積= 258.417G + 207.572G = 465.989G 国際総トン数t = 118トン 総トン数 GT = 36トン (2)測度長24m以上の計算方法を用いた場合 24m未満の計算方法との違いは、船体容積と総トン数(GT)の計算方法である。 ◎船体主要部の容積:船体主要部の容積はシンプソンの第1法則により計算する。 ただしLppは垂線間長ではなく上甲板の前端から後端までの長さとした。       ◎上甲板上の閉囲場所の容積及び除外場所の容積(上記と同じ計算法) 計算結果     合計容積V¬=閉囲場所の合計容積+除外場所の合計容積= 249.435G+207.572G = 457.007G 国際総トン数t =115トン 総トン数 GT =70トン (3)計算方法の比較 2方法による計算結果を表にして比較する。
計算結果は24m未満の計算方法では総トン数は36トン、24m以上の計算方法は70ト ンと大きく異なり、この結果の違いは総トン数と国際総トン数計算に用いる係数の取 扱いにありそうである。 これらの矛盾はいずれ法律の改正が行われると考えられる。 ●ハル、デッキ、主要ラインズ作成 ハルラインズは基本性能に関わる重要な作業であり、浮力、滑走性能、安定性等を考 慮し、完成状態の重量重心を予想しながら数回のシミュレーションの結果を反映させ た修正を加えて完成させる。 これらの作業を効率的に行うには過去の類似艇を参考にし、普段から自分が手がけた ボートのデータを整理し応用できるようにすると良い。 プレジャーボートで重要なことはハルラインズにも感性を重視することである。 デッキラインズほどではないにしてもボート全体の魅力や雰囲気に合わせたラインズ を作れるようになるには経験と資質(感性)が必要である。
デッキラインズ プレジャーボートは外観のアピール度と性能や機能の両立が必要だ。 機能や性能に詳しい技術者が一人で全体をまとめればベストだが、大企業で意匠  デザイナーと技術者が分業するので同じ感性で統一することが重要だ。 プレジャーボート開発では木型作成段階の現場でチェックする際、数ミリのチャイン ラインの修正にこだわる場合もある。 平面で作成したラインズを立体で見るとイメージと異なることも多く、やはり実物 (木型)で確認することが重要である。(モックアップ評価) 近年はパソコンで3次元モデリングが可能だが、外観イメージをいろんな角度 から検証することが可能にはなったが、木型作成前にクレイモデルなどで外観を検討 するのも良い方法である。
ハルライナーラインズ 狭い区画でギャレーユニットやトイレユニットの艤装工事はFRP型部品として製作するのがハルライナーである。
天井ライナーラインズ  天井裏の艤装工事は狭く作業性の悪い上向き作業なのでFRP型部品として製作するのが天井ライナーである。
●ハル、デッキ、主要構造図 FRP量産ボート開発の場合、ラインズが完成すると試作現場では木型製作準備に入 ることになる。 一方、設計者は木型製作のフォローをしながら詳細設計に追われることになる。 木型、FRPメス型が完成し試作艇の積層が始まるまでの期間に構造図を始め試作  に必要な図面の作成と部品の手配を済ませねばならない。 部品はパーツリストを基に手配し試作段階では変更も多いので、設計者は図面修正 を繰り返しながらそのフォローに振り回される。  どの図面を先行させるかは難しい判断だが試作工程を考えるとハル構造図を優先するべきである。 ハル構造図 船舶設計ではまず水面との接する船体設計を優先すべきでハル構造は充分な強度を持 ち、且つ作りやすくコストを出来るだけ低減させる工夫が必要である。 強度検討はFRP船特殊基準を満たしているか確認をすることも重要だが、製造経験の 長いボートビルダーは独自の社内基準やノウハウを持っている場合も多い。     ノウハウとは量産技術に関連する生産技術や過去の試作で発生した不具合点、市場か らのクレーム等による品質改善などの集大成である。 設計者はこれらのノウハウ資料を参考に設計作業を進め試作用ハル構造図を完成させ る。 ハル構造設計の手順としてはハル外板の厚さすなわち積層構成を決めるが、滑走艇で は速力により船底圧力が変化するので最高速力でまず船底圧力を設定し、船底パネル が充分な強度を持つように船底厚さを決定する。 船底はフレームや隔壁で補強するが、補強材が少なければ当然船底外板の厚さは大き くなり重量も増すが補強材が少ない分、取付け工数は少なくなる。 補強材を細かに配置するとハル外板は薄く軽量化にもなるが組立工数は増すことになる。 設計者は企画の原点を考えながら総合的に構造を決定するが、量産数が多い場合は補 強材もFRP一体成形品によるとしコストを低減している。 少数生産では型投資を減らす為に個別の合板補強材を組み合せた構造とする。 図-151、152は補強材を型で一体構造とした場合と合板を組合せた構造を示す。
図-153は最終的に完成したハル構造図(23FT)であるが大型艇では艤装品取付けの 補強材も追加され記載内容も複雑で図面も数枚になる場合もある。
次図は33FTカタマラン艇の船体構造図を示す。
ハル補強材一覧図(23FT艇) 船体製造には多くの補強材が含まれるのでこれらすべてを補強材一覧図にまとめたの が図-154である。 この図面には原価や重量計算の要素である表面積、材料名、重心位置などを記入する と後で技術計算やコスト計算が楽である。
デッキ構造図 デッキ形状や甲板艤装品配置は、プレジャーボートの商品性評価を左右し、デッキ艤 装品の概略配置が決まるとハル構造も当然修正が加えられる。 評価の高いボートはデッキレイアウトと、ハル構造の両立は不可欠である。 デッキ構造設計も安全性、安定性を考慮し堅牢軽量を両立させる必要がある。 軽量化はサンドイッチ構造が代表的でほとんどのFRP艇で採用している。 FRPは引っ張り強度に優れているが剛性(曲げ剛性)が低い材料であるが人や物を載 せるパネル部分をサンドイッチ構造にして、適当に補強している。 サンドイッチ構造用の芯材の選択肢としては合板、バルサ材、樹脂発泡材などがあり ボートの商品性を良く考慮して芯材を選択すべきである。 樹脂発泡材は芯材の比重が0.1以下で軽量化の効果は抜群であるが表面材との接着が不 確実だと剥離してしまいサンドイッチ構造が成り立たない。 サンドイッチ構造は剥離を防ぐ為に樹脂を多く使うので軽量化の効果が少し損なわれ ている。 量産ボートでは顧客が購入後オプション部品を取付ける場合を考慮して部品を取付け そうな場所の芯材は圧縮強度に強い合板を部分的に採用しているが、釣り船のように 改造する可能性の高いボートでは少し軽量化をあきらめ芯材として合板や圧縮強度の あるコアマットなどを採用する場合も多い。  量産艇の軽量化で気をつけるべきことはガラス繊維のオーバーラップである。 それぞれのガラス繊維は25〜30mmラップしていれば強度上問題はないが量産艇では 作業者の技量にもよるがこのラップ代に余裕をもって50mm以上にするとたちまち重 量増加となる。    ラップ率を下げて軽量化を図れば材料使用量(材料費低減)も少なくなり作業工数も 低下し、コストダウンとなり結果的に利益率の高い商品となる。 ラップ率を下げるには生産技術部門の存在を忘れてはならない。 生産技術部門はガラス繊維の型紙を作成し歩留まり改善し総合的に商品性の高いボー トが完成させるのである。(図-155は23FT艇のデッキ構造図)
次図は33FTカタマラン艇のデッキ構造図を示す。
デッキ補強材一覧図(23FT艇) デッキ構造図が完成すると補強材一覧図にまとめ表面積、材料名、重心位置などを記 入する習慣を作ると後で技術計算やコスト計算に役立つ。
天井ライナー 比較的大型艇では作業環境の悪い個所にFRP製天井ライナーを採用する場合がある。
●強度検討(軽構造船暫定基準、FRP船特殊基準) 舟艇の構造材料はアルミニウム合金とFRPが主流で軽構造船暫定基準やFRP船特殊基準 で各部材を検討するがパソコンで簡単なアプリを作成すると便利だ。 表-52は汎用ソフトエクセルを使用した簡単な計算アプリの例である。
FRP船特種基準で船体構造を検討する場合も軽構造船特殊基準と同様にパソコンで簡 単アプリを使うと便利である。(表-53参照)
● 中央断面の検討 滑走艇の強度検討はホギング、サギングといった縦曲げモーメントや静水圧による外 力ではなく走行中の波の衝撃荷重から検討すべきである。 しかし、滑走艇の中央断面における応力検討も比較を行う意味では有効であり断面係 数の計算は是非行うべきである。 図-157は80FTモーターヨットの計算例であるが縦曲げ強度の判定では材料の耐力σ γは船体の縦曲げ応力σに対し安全率が上甲板側で約8倍、船底側では約12倍であることを示す。 結果は走行中の水圧を設計外力として計算した結果が排水量型船舶の船体中央部にお ける縦曲げモーメントと比較すると充分に強度があることを示している。 M:船体の縦曲げモーメント(Ton-m) Z:船底側又は甲板側の船体中央断面係数(A×F)  船体縦曲げ強度の判定
4-2-3主要寸法の決定と排水量計算   ●主要目の決定 企画から基本設計を進めると開発する船舶の寸法を決めないと次のステップへ進めな いので一旦主要目を決定する。 主要目は開発過程で若干修正されることもあるが大きな変更はあり得ない。 寸法決定で最初に決まるのがハルラインズから船体寸法が決まる。 寸法の定義は船舶規則(船舶六法)で決まっているが判り難いのでボートビルダーは 設計標準で決めている場合が多い。(例はアルファクラフトの設計標準の一部)   小型船舶の受験では公表諸元として主要目表を提出することになっている。
●排水量計算 近年は船舶専用ソフトが普及し船型を決めると短時間で計算が可能となった。 図-172は船舶専用ソフト(HydroMax)を使用して求めた排水量等曲線である。
●トリム計算(浮き姿) 船舶は完成後の重心位置は滑走艇の走行性能に大きな影響を与えるが静止時の浮き姿 も重要である。 走行中に波浪を受けるので暴露甲板の水はけや船内にはどうしてもビルジが溜まるの でこれらの水はけも考える必要がある。 普通、暴露甲板は水はけを考え静止時に約1°程度の傾斜を持つように設計する。 そこで静止時の浮き姿を確認するトリム計算が重要となる。 トリム計算は船舶専用ソフト(HydroMax)を使うと短時間に検討が可能である。 図-173は80FTモーターヨットの浮き姿の検討例である。
●GM値の検討 船舶の横安定性の目安であるGM値は大きければ良いわけではない。 GM値が大きいと確かに初期復元力は大きいが乗り心地に関しては大き過ぎると波に敏 感に応答し、かえって乗り心地が悪くなってしまうので居住性を重視する客船などは 比較的小さなGM値を採用する。 大型のクルーズ客船は小さなGM値で波への応答を弱めスタビライザーフィン等で横揺 れを制御しているほどである。 小型船では目安としてGM値が1.5m以上となるように検討するのが普通である。 GM値は復元力曲線の1ラジアンにおけるGZ値で表すこともできるが普通は排水量等曲 線のKM値からその船の重心高さKGを引いた値で示される。 ●復元性の検討 復元性の検討では復元力を知ることが重要だが、この復元力曲線の作成は大変手間の かかる作業だが最近は船舶専用ソフトが普及し比較的簡単に計算でき、船型の検討や 重量重心の検討では多くの状態をシミュレーションできるので便利である。 復元力消失角が180°まで失われない船舶は転覆しても元に戻ることを意味し、セー リングクルーザーなどは転覆しても元に戻ることができる。 図-174はある船舶の復元力曲線を表しており最大復元力は約50°で復元力は約85° で消失することを示している。 つまり転覆するわけであるが実船では必ずしもこの通りになるわけではない。 もっと小さな傾斜角でも水密が保てない場合、例えば窓やハッチなどの水密が保 てないと船体に浸水しもっと小さな傾斜角で復元力を失い沈没してしまうのである。 しかしこの復元力曲線が安全性の検討に大いに役立つことには代わりない。
●定員計算 小型船は完成重量と比較すると乗員重量の割合がどうしても大きくなり安定性に 影響を与えるので定員の検討は重要である。 定員の検討では法規上の定員を満たせば良いのではなく、船の目的に合わせ快適 性と 安全性の両立を図らねばならない。                      24m以上の船舶は設備規定が摘要されるが24m未満は小型船舶安全規則が摘要され主 に設備に関する部分と復元性に関する部分で定員を検討する。 ◎設備に関する検討 定員に関する設備としてはベット(寝台)、座席、椅子席、立席に対して検討を行う。 図-175は設備による定員検討の結果である.。
●区画浸水検討 船舶は航行中に不幸にして船内に浸水すると一部の浮力を失い傾斜してしまう。 その傾斜が大きくなりさらに浸水が増すようであれば沈没するので、ある条件下で浸 水する事態が発生すると想定して安全性の検討を行う。 区画は多く分割されているほど安全性は高いが小型船舶は室内配置の都合で水密区画 を多く設けることは困難である。 小型船舶は1区画可浸で検討するのが一般的で図-177はその例である。
図178は8mクラスの小型船舶が船首部分に損傷を受けた場合の検討例を示す。 FRP船は隔壁やフレームの上部を水密にする工事は難しいので区画を検討する際は浸 水後の水面が隔壁を超えないようにすることが重要である。 それが困難な場合は破損部分の区画に浮沈浮力体などを充填し破損後の傾斜を小さく するなどの工夫も採用すべきである。
●フローテーション基準 小型船舶は構造や配置の都合もあり浸水から沈没へ至らないように設計するのは困難 である。 そこで浮力体を装着し沈没しないようにするのがフローテーション基準である。 この基準は12m未満のプレジャーボートに適用する。 基準の適用範囲は次の通りである。
◎レベルフローテーション A-1 レベルフローテーションの要件 レベルフローテーションの要件は次の通りである。    A-1-1 満載状態でも乗員1人が、ドライビングポジションに位置する状態で8" (200mm)の最小乾舷を有すること。    A-1-2 艇が浸水状態でも水平に浮いていること。    A-1-3 艇が浸水状態で乗員が通常の場所で水に浸かって乗船した状態で上向き且 つ、ガンネルが水中に没しないよう予備浮力を持つこと。 A-1-4 浮体材料は必要に応じて溶剤に触れぬよう保護され、且つ、太陽光、振動、 衝撃、温度変化に耐えられる独立気泡であること。   A-1-5 空気室はフローテーションとして認めない。   A-1-6 片舷に全乗員が均等に移動しても転覆しないこと。   A-1-7 本基準に定める試験に合格すること。 A-1-8 キールの両端は解放されていること。 (浸水時エア溜まりが残り転覆する可能性がある。)  A-1-9 浮力体はできるだけハルサイドに寄せて高く取り付けること。   A-2 フローテーション量の計算 A-2-1 水中重量の計算(Ws) Ws = Wh*K + Wd + We Ws:浸水時の重量 Wh:ハル構造の空中重量   K:TABLE 1に示された係数 Wd:デッキ構造の空中重量  We:艤装設備 ハードウェア、ソフトウェア、アクセサリー等の空中重量TABLE 1に示されないものでも比重の 判るものはグラフ1から係数を求めることができる。
A-2-2 機関装置の水中重量計算(G) 1)船外機 TABLE から最高馬力に核当する全水中重量(SWAMPED WEIGHT)を選ぶ。 船外機ではパワーヘッドは空中にあるものとして計算する。
TABLE は各々のクラスで最大重量のエンジンを対象としているので原価上の理由、 フローテーション格納場所の理由等により実際に使用しているエンジンではもっと軽 いと考えられる場合は、次の方法によって計算した数値を使用しても良い      S=0.875[エンジン重量+リモコン重量(ケーブルを含む)]+0.89[バッテリー重量] 2)船内外機及び船内機 G=0.75(エンジン+ドライブ+フュエルシステム) フュエルシステムについて1)で計算が行われた場合はこの計算から除いて良い。
A-2-3 LIVE LOADの空中重量計算(C) 1)MAX WEIGHT CAPACITYの計算(図-180を参照)
@図に示すように核当するケースに従いSTATIC FLOAT LINEを引く。 ガンネル最下端ではそれ以下の最小乾舷位置。 ASTATIC FLOAT LINEを4等分して断面毎にシンプソン公式に従い面積計算する。 A=h/3(a+4b+2c+4d+e) B 各断面図を更にシンプソン公式により体積計算する。 V=L/12(A+4B+2C+4D+E)= 15.57 (G) C 次の各々のケースに従いMAX WEIGHT CAPACITYを計算する。
A)船外機 M.W.C.={最大排水量(Bの計算)-船体重量}/5 B)船内外機及び船内機 次の二つのうち小さい方を選択する。 M.W.C.=(最大排水量-常備艇体重量-4x機関重量)/5= 2.36 M.W.C.=(最大排水量-常備艇体重量)/7= 1.95 常備艇体重量:(船体重量+機関重量) 機関重量:エンジン+フュエルシステム+フュエル+リモコン+バッテリー+ドライブ     2)LIVE LOADの計算 A)船外機 C=MAX WEIGHT CAPACITY-機関関係空中重量(TABLEによる。) B)船内外機及び船内機 C=MAX WEIGHT CAPACITY 1.95 A-2-4 必要浮力の計算(W) W=Ws+G+0.25C 2.26 A-2-5 必要浮体体積(F) =W/B 2.29 B:浮体単位体積当りの浮力 ρ=0.015の場合=1-0.015=0.985(t) A-2-6 ハルサイドに配置すべき最小浮体量(Fs) Fs=0.25C/B 0.49     A-2-7 ボート後部30%に配置すべき最小浮体量(Fa) Fa=0.5xF 1.14 A-2-8 居住スペースの前30%に配置すべき最小浮体量(Ff)     Ff=0.25xF 0.57 注) 2-2-6、2-2-7、2-2-8で求めた浮体の和は2-2-5で求めた浮体量と必ずしも 一致しない。     また2-2-5で求めた量以上の浮体を入れる必要はない。 A-3 材料 ●ウレタンフォーム ρ=0.02〜0.04     ●ポリエチレンフォーム ●耐油性スチロフォーム ρ=0.015 耐油性スチロフォームはBASIC FLOATATION量を越える分について使用しても良い が、PVAフィルムに包み保護すること。 A-4 浮力テスト A-4-1 浮力テスト ●3〜6mのボート 常備状態(携行缶は除く)で1人当り15kgのバラスト(定員分)を通常すわる場所に置 き、更にボート備品の水中重量として 1人当り2kgで定員分をミッドシップフロアに置 き、この状態で注水し上向きに浮きかつガンネルが水上にあること。 ●3m未満のボート 定員1人当りの重量を7.5kgにしてテストする。 A-4-2 浸水ボートの安定 ●5〜6mのボート 定員1人当り15kgの荷重を定員分、片舷居住スペースに均等に分布させて転覆しない こと              ●3〜5mのボート 常備状態で人間だけ全ておろして、30kgの荷重を最大ガンネル幅又はその近くにおい てボートが転覆しないこと。 ●3m未満のボート 前項荷重を15kgにしてテストする。
◎ベーシックフローテーション          B-1 ベーシックフローテーションの要件            B-1-1 満載状態で浸水した状態において艇が浮かんでいること。       但し、人間は水に浸かって艇に掴まった状態である。 B-1-2 浮体量は計算に求めた値より20%増分すること。 B-1-3 浮体材料はレベルフローテーションに準ずることとする。      B-1-4 空気室はフローテーションとして認めない。        但し、上記20%の余裕に関しては空気室を使用してもかまわない。(インテグラル式は不可) B-1-5 浮力体は、浸水後24時間は有効に働くものであること。 B-2 フローテーション量の計算    B-2-1 水中重量の計算(Ws)    Ws = Wh*K1 + Wd *K2+ 0.69We     Ws:浸水時の重量(水中重量)   Wh:ハル構造の空中重量 Wd:デッキ構造の空中重量    We:艤装設備(ハードウェア、ソフトウェア、アクセサリ等)の空中重量 K1、K2:TABLE 1に示された係数 TABLE 1に示されないものでも比重の判るものはグラフ1から係数を求めることがで きる。 B-2-2 機関装置の水中重量計算(G) 1)船外機 TABLE から最高保証馬力に核当する全水中重量(SWAMPED WEIGHT)を選ぶ。 船外機ではパワーヘッドは空中にあるものとして計算する。 2)船内外機及び船内機 G=0.75(エンジン+ドライブ+フュエルシステム)        フュエルシステムについて3-2-1で計算が行われた場合はこの 計算から除いて良い。(レベルフローテーション参照) B-2-3  LIVE LOADの空中重量計算(C)                A)船外機 C=MAX WEIGHT CAPACITY-機関関係空中重量(TABLEによる。) B)船内外機及び船内機 C=MAX WEIGHT CAPACITY *詳細はレベルフローテーション参照 B-2-4 必要浮力の計算(W) W=Ws+G+0.25C B-2-5 必要浮体体積(F) F=1.2*W/B B:浮体単位体積当りの浮力
コスト的にメリットがあると考えられる場合にはレベルフローテーションの計算表に 基づき計算してよい。 但し、デッキ関係についても水中重量を計算すること。
C 区画浸水 C-1 計 算 区画浸水の計算は満載状態で実施し、手計算またはコンピュータプログラムにて行う。   C-1-1 浸水率 浸水率は、ある区画に浸水しうる水の容積とその場所の全容積との百分率を言う。
注1) 浸水率は海上保安庁の巡視艇に対して決められている数値をベースに区画規定 も参考にして決定した。 *1)80%は巡視船の機関室の浸水率である。 *2)80%は巡視船の諸倉庫の浸水率である。 *3)97%は巡視船の諸倉庫の浸水率である。 *4)99%は巡視船のタンクの浸水率である。 注2)詳細計算 機関室にいろいろな区画があって、前記浸水率より小さい数値となると考えられる場 合は、別表に従い詳細計算を行いその値を採用しても良い。 C-1-2 具体例 A) 一般的なパワーボート
隣の区画に浸水しうる限界まで(上記ハッチング部)を浸水率計算の対象とする。 上記の区画計算では、3区画について各々浸水率を決定し計算する。
上甲板までBHDが達しているとする。 上甲板に平行に76mm下方に線を引き(限界線)そこまでの区画について計算する。 ==「=95(%) 。=85(%) プレジャーボートの貨物倉は格納物が少ないので居室と同じ扱いとする。 (但し、タンク等がある場合にはその分修正すること。) C-2 評 価 評価は各区画につき次のように行う。 1) 求められた各区画の浸水状態の図を書く。
2)水線の位置が隣区画へ乗り越える限界より76mm下方居かならば区画可浸域として有効である。 3)浸水状態での横メタセンター(GM)は5cm以上あること。 4)水線の位置が76mmより上方にある場合には、浮力体を入れるか、新しくBHDを設 けるか、限界点の位置を高くする必要がある。 必要浮力(B)は浮体格納場所、又は新しい区画増設位置までのミッドシップからの平 均距離をLとし、浮面心及び限界点を通る直線を引いた時のトリム変化を船首でa、船 尾でbとする。 B*L/M.T.C=a + b B=(a + b)*M.T.C/L M.T.C:毎センチトリムモーメント
5)上記浮力を加えた場合の浸水率を計算し、再度計算して、新しい水線面が限界点以 下となるよう確認する。 C-3 開発艇への対策 1) 区画浸水の要件を満足しない場合には、可能な限り浮体を入れるか、新しい区画を 増設することにより、限界点の位置を移動させて区画可浸を満足させること。 2)機能上の理由その他で区画可浸を達成できない場合は、船底強度を2割アップすること。
●耐久テスト 高速で走行する多くの小型船舶は大きな船底衝撃受けるので耐久テストが必要だ。 大手ボートビルダーは次のような耐久テスト基準を設定している。 1. 耐久テスト負荷計算手順 この耐久テスト基準はプレジャーボートの開発に適用する。 @構造標準計算グラフ氓ゥら船底水圧を求める。 A耐久テスト負荷計算表から10〜15Gの耐久負荷数を読み取る。 開発艇は航行区域と操縦士の運転方法によりランク分けされる。
2. テスト条件 @満載状態で実施し、シート等の上にバラストを載せる。 Aエンジン、ドライバーが危険を感じない範囲で最高回転数とする。 Bフルジャンプ時の着水姿勢は、故意に艇体を斜めに落とさないようジャンプする 瞬間はステアリングを操作しないこと。 C テスト走行時、波に対する角度は向波及び追波をメインとし左斜向、右斜向、左斜 追、右斜追でもテストしエンジン出力回転数は80%程度とする。 Dテスト時間 第1段階 平水で2時間走行し特に弱い部分があるかどうかチェックし本格的な耐久テ スト前に補強を加えるか修理をする。 第2段階  限定沿海(小波)の海域で6時間走行 第3段階 本格的耐久テスト E Gメータセット位置 ドライバー席近くのBHD(船底に固定された)の中央にセットする。
3. チェック方法 @大きなトラブルが発生しない限り30分毎にチェックのこと。 A小型艇の場合、テストの初期段階では4時間毎に上架し船底をチェックする。 B1日に1回は上架し船底をチェックする。 4. 評価基準 規定の耐久テスト終了後、下記のトラブルが発生していないか確認する。 @船底にゲルコートクラックがないこと。(チャイン上100mmまでを船底とする。) A船側にゲルコートクラックがないこと。 Bデッキ、フロア各部でFRPに達するクラックがない。 Cロンジ、BHD、主要構造物に目張りの切断、はがれ、白化がない。 D構造材に決定的なダメージ(切断、座屈、はがれ)がない。 *1 マニュアル操作船の耐久テストでは、多少現実と異なる点があるので、2.5mか らの落下テストを行い、これらを耐久テストに替えても良い。 *2 ゲルコートクラックで発達の傾向のないものは技術部門の判断で許容することがある。 5. 判 定 評価後、重要な問題が発生した場合は再度耐久テストを行う場合もある。 構造強化や補強対策を実施し、明らかに必要がないと判断される場合は再テストを行わない。 尚、試験艇は可能な限り問題点に対策を講じ、少なくとも1年間はモニター艇として実 際に使用し、市場で発生に問題に対応するデータを集積する。 船底外板の受ける水圧は軽構造船基準に準じて計算する。
耐久テストマニュアル(サンプル) L=26ft LWL=26x0.85x0.3048=6.74m V=29kt VxV/L=29*29/26=32.3 グラフより6.5〜10.5G 耐久加速度 1項表より限定沿海リモートステアリングなのでCランクとなる。 グラフ2より耐久加速度回数は135回となる。
4-2-4機関機器配置図、配管系統図、電気系統図の作成   基本的な船体構造が決まると機関機器および室内配置の詳細検討を進める。 機関機器と室内配置検討では効率的な配置と重量重心の配分に充分考慮する。 配置が決まると全体の概略重心位置を確認するが多少の重心位置変動に応じられるよ うバラスト配置には主任設計者(ボートデザイナー)の手腕が求められる。 ●機関機器配置図(換気計算、機関関連配管、排気装置、燃料配管) 下図は33FTカタマランボートの例であるが更に大型の船舶でも重量物の配置と重心位 置への配慮は常に意識しなければならない。
● プロペラ軸系図(プロペラ直径、ピッチ、プロペラ軸の検討) 船内機艇ではプロペラ軸系図を決めるのは重要な作業だ。 効率的な機関室配置が求められるが、まずは速力性能に関連するプロペラサイズを決 めることから開始する。 推進効率を重視すると大直径プロペラを出来るだけ低回転にすると良いが小型船舶で は使用業種により何を重視するか判断が求められる。 ◎漁船、作業船:低速で大推力が必要なので低回転で大直径を重視。 ◎高速旅客船:軽量高速を重視するので高効率の小直径プロペラを選択。 ◎プレジャーボート:軽量高速でコンパクトな機関室を重視するので高効率の小直径 プロペラを選択。 機関室の配置にプロペラ直径は大きな影響を与える。 大直径プロペラと浅いプロペラ軸傾斜を採用すると主機関の位置が前方に移動するの で多くの不都合が発生する。 プロペラ軸傾斜は主機関の許容傾斜角で決まるが普通は12°以内とする。 最近はエンジン傾斜を小さくする減速機も準備されている。 市販主機関には使用業種により対応できる数種類の減速比が設定されている。 高速艇ではプロペラ先端と船底のクリアランスが小さいと船底の振動を誘発する恐れ が大きくなるので直径の10%あるいは最小クリアランス50mmは必要。 プロペラ直径やピッチはプロペラ翼形や展開面積比で決まる。 検討例は汎用ソフトを使用したサンプルである。
●プロペラシャフト計算 船外機艇や船内外機艇ではプロペラシャフトを設計することはほとんどないが船内機 艇ではプロペラと共にオリジナルのシャフトを検討する必要がある。 大型艇では捻り振動の複雑な計算も必要であるがこれらの計算は専門メーカーに任 せ、基本設計ではシャフト直径と材質およびシャフトベアリングのサイズを決める ことが重要である。 表は最適シャフトを設計する簡単なプログラの例である。 機関規則に合わせて直径を決めるが決定するシャフト径は市販されているシャフト ベアリングのサイズに合わせて選択するように設定されている。
●機関室配置図 次図は53FTモーターヨットの機関室配置図で排気管や燃料タンク、バッテリー 発電機、舵取り装置などの配置が決められている
●舵断面形状の検討 舵断面は流線型舵、平板舵、楔形舵などがあり、高速艇の舵は楔形が良い。 しかし、大型の貨物船、軍艦や客船などと異なり、舟艇はコストや船価の低減が重視 され、多少舵の性能が悪くても採用される場合も多く、小型漁船などは、ほとんど平 板舵が採用されている。 これらの舵形状の差はあまり知られていないが舵直圧力に付いて調べてみると舵の効 きは直圧力で決まるが意外にも操舵角15°未満では舵断面形状の差はないことが判る。 高速で走行中は緊急時を除いて大きな舵角をとることはないので特別に高速を求めな い限り、製造費の高い楔型舵は採用する必要はなさそうである。
● 舵取り装置検討(舵軸強度検討、舵取り装置力量検討) 舵サイズや形状は業種により決めることになる。 ◎漁船、作業船:低速で旋回性を重視で大面積の舵を採用。 ◎高速旅客船:軽量高速を重視するので低抵抗の小面積舵を選択。 ◎プレジャーボート:軽量高速を重視するので低抵抗の小面積舵を選択。 近年の高速艇は低速ではサイドスラスターを併用することが多い。
舵軸の強度計算は軽構造船規則とJossel Beaufoy式のどちらを採用するかは設計者 の判断によるが高速艇では後者の方が厳しい結果になるようだ。
●換気計算書 機関室は機関が充分に性能を発揮するよう充分な空気量を取入れる必要がり、特に過 給器を備えるディーゼル機関は大量に空気を消費し、発生する熱量も大きいので機関 室の換気は重要である。  理想的には機関室温は40℃程度が良いが現実には難しいようである。 換気が不足すると機関自体が機関室の空気を吸い込み気圧が下がりキャビン床が沈む などのトラブルも発生するので注意が必要である。
●諸管艤装の検討 小型艇の諸管装置はビルジ配管、簡単なギャレー装置用の清水配管くらいであるが 業務艇や大型のキャビンクルーザーになると一般家庭の諸設備は完備しており システムは結構複雑である。 最近は海洋環境対策で汚水の投棄が制限されており一時的に保管するタンクも装備 せねばならない。      配管自体は家庭用とさほど変わらないが海上で使用するので材質は耐食性に優れた ステンレス、青銅、プラスティックが多用されている。 配管で留意する点は多く、例えば温水系統にエンジンの冷却水を使用する場合は 取付けと点検には注意が必要で温水器の熱源としてエンジンの冷却用温水を耐熱ホー スでなく普通のゴムホースを使用すると破裂しエンジン冷却水が抜けてしまいエンジ ンはオーバーヒートして航行不能になる恐れがあるからだ。 また配管に使用するポンプの能力も良く理解し、ポンプの吸上げ能力と押上げ能力 をうまく考慮して取付け位置を決めなければ必要な流量が得られないのである。 海水配管では船底に取付けるスルーハルの位置は操作がしやすいように注意が必要 である。 このように注意すべき点は多々あるが造船所では作業マニュアルや設計マニュアル や技術基準等を整備することが大事である。 諸管系統図 図-164は30FTキャビンクルーザーの諸管系統図を示す。 表現法法としては電気系統図のように系統重視の線図で表現する場合もあるが小型 艇ではできるだけ判り易く表現する為に管関連部品の図を表示する方が良い。
●ビルジ経路図 小型艇の床下のビルジ経路水抜き穴(φ15程度)はフロア工事開始前に必ず確認 が必要でドレンプラグ及びビルジプラグは通常は閉鎖された状態で使用し浸水や ビルジ水が確認された場合に解放する。(点検口設置) 区画浸水の考え方を採用する少し大型の小型船舶では区画に溜まったビルジ水を舷 外へ排出する配管設備が必要となる。 小型船舶でオートスイッチ付きビルジポンプを採用する場合は注意が必要である。 オートスイッチが故障しビルジポンプが作動を続けてバッテリーが放電して空にな る事故が多いのでマニュアルスイッチと併用することが望ましい。
4-2-5室内配置   ●室内配置図 業務艇、旅客船、プレジャーボートでは室内配置を重視する視点に違いがある。 旅客船は快適性と安全性重視だが業務艇では必要最小限の配慮で構わない プレジャーボートは外観を重視する場合も有り室内配置はかなり制限を受ける。  下図は33FTカタマラン艇では日本人の平均身長172cmの男性が支障なく行動できる 室内高さ(185cm)を確保し、8名分のバース、化粧室、ギャレー、リビングス ペースやロッカーも配置し、数日の船内泊も考慮し小型洗濯機やエアコン装置の搭 載も考慮した。(参考資料 製造仕様書)
4-2-6甲板艤装検討図(係船装置、ハッチ、窓、換気装置他) 甲板艤装品の配置では係船装置の配置を優先し、一般人が乗る旅客船では安全性には万全の注意が必要である。 デッキ上の通路は適当な幅と体を保持するレールを配置することが重要だ。
4-2-7電気艤装検討図 ●電源装置の検討 小型船舶で使用する電源系統は主にDC-12V, DC-24V、AC-100Vで近年は環境保全 意識の高まりも有り太陽光発電の利用も重視されている。 直流電源は主機のオルタネータ、ソーラーパネルから給電される。 直流電源はインバーターで交流に変換し、エアコンや大容量家電の利用にはできるだ け別置きの交流発電機を利用する方が良い。
●総合電源系統図
●電動船外機による簡易ハイブリッド推進の検討 業務用小型船舶の太陽光発電量は小さく居住区の室内電源をまかなう程度だがプレ ジャーボートの係留時間は長く太陽光発電の充電量をもっと活用でき入出港を電気推 進化することは充分可能である。
●本格的なハイブリッド推進の検討 業務用として使用する場合はディーゼルハイブリッドが望ましいが信頼性のある市販 ハイブリッドエンジンはまだ普及段階ではないが次に参考図を示す。
4-2-8製造仕様書の作成 ●製造仕様書 製造仕様書は営業活動、資材手配、詳細設計、建造に関係するそれぞれの部門で活用 する重要な資料である。 内容は船舶を構成する資材、艤装品、システムに関する仕様が含まれている。 例は33FTカタマランクルーザーだが更に大型の客船などの製造仕様書は更に 詳細な内容で数百ページになる場合もある。
4-2-9重量重心計算1(主要構造、艤装品) 船舶の重量重心の検討は速力性能、復原性などの諸性能を検討するうえで重要で滑走 艇は速力に最適な重心位置が存在する。 フルード数が大きい高速艇は造波抵抗が小さく摩擦抵抗の割合が大きくなるので重心 が後方になるよう設計すれば良いが重心が過ぎると滑走に入り難くなるので総合的に 判断して重心位置を決定しなければならない。 重心位置が高過ぎると復元力が小さくなるので注意が必要だが、乗り心地を考慮し比 較的低いGM値を採用する場合もあるので企画に合わせた重心位置となるよう設計すべ きである。 重量重心計算は、船体構造重心計算及びデッキ構造重心計算に加え、艤装品を記載し たパーツリストから求めた重量重心を集計し完成重量重心を計算する。 さらに軽荷状態及び重荷状態などの運航状態での重量重心計算もおこなう。 船体構造重心計算はハル構造図からハル外板、バルクヘッド、フレーム類、フロア及 び縦通材類の重量重心を集計する。 しかし、極めて多くの部材の集計は手数がかかる作業である。 ●ハル外板重量重心 船体の外板形状は複雑で表面積や外板重量を計算するのは面倒なので船舶3次元ソフト を使用すると良い。 図-171は船舶3次元ソフトMaxsurfを使用しハル外板の表面積及び重量重心 を計算した例で、船型を決めるとハル外板の表面積と面積中心は瞬時に計算できる が、関連ソフト(構造設計)Work Shopを使用しフレームや補強材などの部材を検討 し重量重心等を計算することも可能である。
●ハル補強材重量重心 ハル構造の補強材であるBHD(バルクヘッド)、フレーム、ストリンガー、フロアなどの 重量重心位置は作成した構造図から各部材の表面積、重心、位置などを求め集計する。 これらの計算にも船舶3次元ソフトWork Shopを使用すればさらに詳細に計算することも可能である。  表-58は重量重心集計結果である。
●デッキ構造重心計算 デッキ構造重心の計算も船舶3次元ソフトMaxsurfやWork Shopを使用し計算すると便利である。 表-59はデッキ構造図からデッキ外板、フレーム類、フロア及び補強材、縦通材類に 加え上甲板、キャビン内の居室に使用するチーク材などの床材等を統べて集計した重 量重心の結果である。
●艤装品重心計算 艤装品の重量重心は関連システムの総てを部品表(パーツリスト)で集計する。 部品表(パーツリスト)は重量重心の集計以外に艤装品の価格や艤装時間も集計し、 原価計算も同時に計算できるマスターパーツリストを作成するのが良い。 これらの計算はエクセルなどの汎用ソフトを使用すれば便利である。 パーツリストで集計するシステムは次の通りである。 ◎HULL CONSTRUCTION  ◎DECK CONSTRUCTION  ◎FRP MOULD PARTS    ◎MACHINERY SYSTEM-SHAFTING    ◎STEERING & ENGINE CONTROL SYSTEM   ◎AIR-COND.& VENTILATION SYSTEM ◎DOMESTIC FRESH WATER PIPING SYSTEM   ◎DOMESTIC SEA WATER PIPING SYSTEM ◎SANITARY SYSTEM   ◎DRAINAGE SYSTEM   ◎ELECTRICALSYSTEM ◎INTERIOR  ◎LABEL,STICKER  ◎SAFETY EQUIPMENT ◎NAVIGATION & OPTION      下記にパーツリストとして集計例を示す。
●完成、軽荷および重荷重量重心計算 船体構造重量と艤装品を集計して完成状態の重量重心が決まると運航状態の重量も判明する。 船舶雑誌などに記載されている重量は完成重量の定義が定かではなく試運転時やテス ト時の重量の場合があるので設計に利用するデータとしてはチェックが必要だ。 軽荷重量とはその船舶を走行させるのに最小限必要な状態で小型船舶の完成重量に燃 料1/3、清水1/3、乗員2人(70kg/人)を搭載した状態を言う。 重荷重量は、完成重量に燃料100%、清水100%、乗員100%(70kg/人)を搭載し た状態であるが近年は海洋汚染防止で近海に汚水を海上へ投棄しない船舶もあり汚水 タンク(ブラックウォーターとグレーウォーター)が満タンの場合を重荷重量と定義 している場合もあるようだ。 表-61は完成状態表、表-62は重荷重量の重量重心計算書の例である。
●速力性能と安全性検討 船舶の性能検討は主に速力性能、安定性、操縦性、居住性などがある。 商船や軍艦は特に性能確認を重視するので机上の検討だけではなく水槽試験や縮尺模 型船による試験を実施する。 小型船舶では水槽試験の代わりに実物大試験船を製作することもある。
◎速力性能検討 基本設計で機関の選定や速力性能を推定することは重要である。 大型船舶の抵抗検討では船型を決め模型を製作し水槽試験を行う場合が多いが、小型 船では開発コストや時間的にも制限が有り簡易な方法で性能を予測する。 類似船や同型船のデータが豊富にあればこれらの性能データをチャートにし推測でき るが船型がV型であればサビツキー法によりかなり高い精度で抵抗を計算できる。 以下はサビツキー法を利用し速力計算プログラムを作成し性能を推定する方法を説明 する。 サビツキー法による抵抗推定 ここではサビツキー理論の詳細は述べないが要点は次の通りである。 サビツキー法は船底がV型滑走体の基本的特性について述べており、滑走体の揚力、 抵抗、接水面積、圧力中心、速度、トリム角、上半角、荷重等の関数として記述す る実験式について述べている。 サビツキー法による抵抗計算では艇のある状態での速度Vに対して走行トリムを複数設 定し、各々の釣合方程式を計算し、内挿法で釣合方程 式が0になる走行トリムを求める。 すなわち、艇の重量重心等を入力して走行トリムを計算し、その走行トリムにおける 抵抗を計算している。  この理論ではV型滑走体の必要馬力、走行姿勢等を計算していく簡単な手法につい ても述べている。 サビツキー理論による抵抗計算 サビツキー法で抵抗を計算する方法について概略手順を示す。 1)速度Vを設定する。 2)速度Vに対しトリム角τを複数設定し各々にA式を計算し内挿法でA式=0となる τ0を求める。
  3)求めたτ0に対して抵抗、圧力中心等を求める。              注)(ただしサビツキーのチャートはフィートポンドであるから換算が必要。) ここでV型滑走体の定義は次の通りである。
インプットデータは チャイン幅(滑走面の最大幅):b デッドライズ(トランサム部分のV角度):β 排水量(計算する状態の重量):Δ プロペラ軸位置(プロペラ軸と重心高さの距離):f 走行中の立てトリム:τ プロペラ軸とキール軸の角度:ε 重心高さ位置:KG 重心前後位置:LCG  である。 釣り合い式(A式)を解く手順のフローを次ページに示す。
サビツキ−法による速力性能推定法の応用 高速パワーボートの設計ではV型船型の性能をより現実的に推定するには空気抵抗や 付加物抵抗を無視できないので筆者は造波抵抗と摩擦抵抗はこのサビツキー理論を 応用し、空気抵抗や付加物抵抗を加えた抵抗推定方法を開発した。 ●新しい抵抗計算法 高速艇、特にプレジャーボートに多いディープV船型はサビツキーの理論を応用するのに適している。 サビツキー法は全抵抗を圧力抵抗と摩擦抵抗からなると想定しているが、新推定法は 実艇の抵抗推定をより実際に近づけるために付加物抵抗や空気抵抗を追加した修正式 を使用した。 修正式     Dt=Dp + Df + Da + Dad  全抵抗   : Dt(kg)       圧力抵抗(造波抵抗):Dp(kg) 摩擦抵抗  :Df(kg)        空気抵抗   :Da(kg)  付加物抵抗 :Dad(kg)       速 力       :V(kt) 全 長   :L (m)         重量       :W(kg)  重心位置 :LCG(m) トランサム後端からの距離   VCG(m)   :キール下端からの距離 滑走面幅  :b(m)トランサム後端で計測  デッドライズ角:β(deg)トランサム後端で計測 BL-推力軸角 :ε(deg)        推力軸-重心 :f (m)    水中付加物前面投影面積:(F) 水中付加物抵抗係数:0.12(形状により異なる)    船体前面投影面積:(F) 船体空気抵抗係数:0.50(形状により異なる) 表-56はプレジャーボートの主要な情報を入力し得られた最高速力の計算例である。
図-168は、新推定法による抵抗計算結果をグラフで表示した結果であるが滑走領域に 移行する過程で圧力抵抗が最大となるハンプが存在し、その後は次第に摩擦抵抗の 割合が増大し、さらに高速になると水中付加物の抵抗が無視できないほど増大する 高速艇の抵抗成分の特徴を良く示している。 高速艇では重心位置LCGが抵抗に影響を与えるので、実際の舟艇開発では速力性能を 検討する際に重心位置を決定することは重要である。 図-169は重心変化によりどのように抵抗が変化するかを計算した例である。 一般的に重心が船尾方向に移動するとハンプ付近の低速域ではより圧力抵抗が増大し 高速域では摩擦抵抗が減少する傾向にある。 
図-170は走行トリムを計算した例であるが重心が船尾に移動するとハンプ付近で 抵抗が増大すると共に走行トリムも増えることを示している。
新抵抗推定法は過去の実際のボートデータと比較検証すると実用的でV型高速艇の 抵抗推定に役立つ方法であることは確認することができた。 そこでこの抵抗特性計算プログラムを更に発展させ同時に4種類の状態をシミュレ ーションできるようにしたのが次ページの表-57である。 このプログラムは企画初期段階で開発目標となる主要寸法や重量重心が速力性能に 与える影響を知ることができ基本設計の検討に大変役立っている。
マルチハル船型の抵抗を計算で推定することは難しい。 下図はカタマラン船の場合それぞれの船体抵抗をサビツキー法などで推定し2倍に足し 合わせて検討したがそれぞれの船体間の干渉抵抗を無視しているので精度には    疑問があるが小型マルチハル艇の初期検討としてはましな推定法である。 参考として33FTカタマラン艇の重荷状態での推定必要馬力曲線を示す。
●水槽試験(性能検討) 船体抵抗や復元性能などの検討に縮尺モデルを使うことは大型船舶と同じである。 高速力の小型船舶は力学的な相似則で抵抗試験を行う場合、水槽の曳航速度と模型の サイズにより制限を受ける場合があるので注意が必要である。 研究所や大学の多くの水槽は曳航速度が低いので小型艇はどうしても模型の縮尺比が 大きくなり小さい模型を使用せざるを得ないので取得データの信用性に限界がある。 それでも得られるデータや情報は多いので貴重である。 大型船の水槽試験では定量的なデータを重視するが小型滑走艇の場合は重量重心位置 などで走行性能が変わるので定性的な特性を知るだけでも水槽試験の意義がある。
●マンドモデル 小型船舶の走行性能を評価する場合、抵抗推進性能や復元性だけの評価を行うわけ ではない。 乗員が危険を感じないか、また乗り心地はどうかなど数値では評価が難しい項目は できるだけ現物のサイズで試験を行なうのが良いのは当然である。 試作はその為に行なうのであるが開発初期には原寸大で簡単な木製構造やFRP簡易 試作艇を建造し基本的な性能を評価する場合もある。
●モデリング  模型は新商品開発のプレゼンテーションで使用する他に販売促進でも役立つ。  企画初期段階では外観を示すソリッドモデルやインテリアカットモデルを製作する  こともある。  詳細な艤装を検討する場合、航空機は実物大のモックアップを製作する場合も有る  が船舶では製作されることはめったにない。  外観モデル  開発初期の企画検討段階ではエクステリアデザイナーが魅力ある外観を検討する  為に粘土で制作するのがクレイモデルで、自動車の開発ではよく利用するがボー   トの開発ではあまり実施しない。  理由は少しでもコスト低減と近年は3D-CADが発達しある程度外観を検討するこ  とができるからだ。  しかし3D-CADも検討に使うデータ入力が結構時間を要するのでクレイモデルで  外観を決めた後に3次元計測器でCADデータとして呼び込めば効率的である。  外観モデルはデザイナーの感性を直接形にできるので今後も重要な表現方法であ  るのは変わらないであろう。
室内モデル インテリアデザインは商品性を高める大きな要素であるのは乗用車のインテリア デザインと同様に小型船舶の室内は狭小空間なのでスペースを機能的で魅力的に 仕上げるにはデザイナーの能力にかかってくる。 小型ボートは室内配置を数センチ単位で寸法を検討せねばならないが室内モデル を制作するとデザイナー自身も新たなアイデアを生み出すと共に製造上の技術的 な問題も検討することができる。 できれば実物大モデルで室内を検討できれば最も良いが縮尺モデルでも良い。 コストを考えるとペーパーモックアップを製作すれば効果的である。 以下は筆者が企画したオフィスボートの1/10室内モデルである。 部品はほとんど紙とバルサ材を使用している。 艤装品の配置はもちろん、配管や配線の検討や、作業の難易度や製造工程の検討 にも役立つ。 ●船体、上部構造の製作
●艤装品の製作
●艤装品の取付け1
●艤装品の取付け2
4-2-10基本設計検討報告会議1 基本設計検討報告会は企画プレゼンテーションと異なり基本設計や製造に関す る検討結果の報告会となる。 基本設計は企画を充分に理解し顧客が満足し製造側も充分な利益を生み出す 事業となるように間違いのない検討が求められる。 造船業は労働集約型の事業なので完成時期の遵守は絶対であり開発大日程は 慎重に検討されなくてはならない。 特に納期に時間がかかる発注品は注意が必要で基本設計も納期に合せて設計計画 を進めるべきで主機関は金額も高く納期もかかるので速力性能に関わる設計は優先  されるべきでラインズや完成重量の把握は重要なので開発主任設計者の実力と組織 力が問われることになる。 開発会議は基本設計内容と開発作業の進捗状況の確認にある。     開発大日程遵守は絶対なので開発の業務の一部を外注することもある。   しかし企画の重要な部分となるラインズ、性能、構造、コストの検討などは自前  の開発スタッフで実施すべきである。