研究調査レポート No.6
2010年6月11日

JR西日本運転操縦理論セミナーにおける実技研修の実施

-  操縦技量確認試運転及び連結試験の実施

  列車の運転操縦を担う運転士の教育は、指導運転士と運転士見習という徒弟制度の中で長年にわたって行われて来ました。車両や運転保安装置が大きく変わりつつある中で、運転士の実務教育を蒸気機関車時代から変わらない姿の行っている問題を改善したいとのJR西日本首脳の意向を受けて筆者は20097月から標題のセミナー( 事務局 JR西日本運輸部・車輌部)を主宰し、その過程で行われた幾つかの試験を本欄でご紹介して参りました。今回は平成226月に紀勢線で実施された走行試験をご紹介します。

現代の動力車は蒸気機関車の時代と大きく異なって、何時でも、何処でも任意の出力を引き出すことが出来ます。すると、運転操縦技量を発揮できるのは入駅時のブレーキ扱、省エネ運転及び上り勾配線上などの制限の大きい曲線通過時のアンダー・シュート防止などに限られることになります。今回は、従前余り重視されて来なかった最後の項目を取り上げ、セミナー受講生各位にハンドルを握って頂くことにしました。



写真  紀伊由良駅停車中の試験列車運転台でハンドルを握る受講生と歓談する筆
(写真 JR西日本和歌山支社撮影) 

問題はこのような試験を行う線区の選定でした。候補線区として、曲線と勾配で有名な山陽線の瀬野~八本松間や山陽線で最も急曲線のある戸田~富海間など、いろいろな箇所が上がりましたが、関西圏にあって車両の確保や時間間合いに比較的自由度があった紀勢線で下記により行うことになりました。この線区は16‰上り勾配の途上にR300600の曲線が連なり、この種の試験を行うには相応しい区間と言えます。

試験施行日 平成22512
試験区間  紀勢線 紀伊由良~蓑島を主体に5往復
試験車両  1174両編成
試験ダイヤ1500V、車輪経820mm、定員乗車、制限速度「-5キロ」の条件で運転時分を査定

テスト・パイロットはJR西の腕自慢メンバーが集うセミナー受講生の中から、希望者を募ることになりました。多くの方が初体験の区間だけに、本人だけでなく現場を知った指導員や試験データを取得する車両関係者にも高い緊張がみなぎる下で試験が行われました。状況は過日に交通新聞でも報じられました。

試験結果は当初の予想に反して、極めて厳しい査定時分をクリア出来ない運転士が続出して関係者を驚かせました。大勢の関係者が見守る緊張した雰囲気の中で、運転が極めて難しい線区での初体験操縦は厳しいものがあったようです。試験終了後には、取得したラン・カーブがモニタに映し出され、これを眺めながら、操縦方法の検討が行われました。その結果的、

勾配途上の急曲線抜け後の僅かな再力行ノッチ投入の遅れが著大なアンダー・シュートを発生させる。
これを防ぐには加速力やノッチ進段速度などの性能を把握して適切なタイミングでノッチ戻しやノッチ・アップを行うことが肝要である。
停止ブレーキについては、ブレーキ空走時間を把握してブレーキ開始位置を決める必要がある。 

などを関係者が実体験し、結果的には貴重な研修の場となりました。

試験の計画と実施を担当された和歌山支社、吹田工場、日根野電車区及び新在家派出所の方々には大変お世話になりました。



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