おかやどかりの旅
孵化後の一定期間を浮遊生活する生物は、必ずしも生まれたところへ着底するわけではなく、どちらかというと生まれたところとは違う地域へ着底する事の方が多く、これが連鎖して地域個体群を維持している。
このような生物は、何らかの原因である場所で個体数が激減すると連鎖的に他の場所での個体数も減ることになる。ただ、地域の連鎖は多対多であることが多いためか、関係する他の場所での個体数の減少はそれほど急激には起こらないようだ。
浮遊幼生期は概ね一潮(4週間前後)と言われている。
産卵された場所の近くへ帰ってくるものもいれば潮に流されて遠くはなれた他のところへ着底するものもいるだろう。
これをおかやどかりに当てはめてみよう。
黒潮が時速1.5マイルで流れるとすると、浮遊期の4週間で1000km移動することになる。
単純に数字だけ捉えれば、西表島の浜辺で海に放たれた幼生は浮遊期の間に沖縄本島や奄美大島を通り越して高知県の足摺岬くらいまでは流れてくるだろうし、奄美大島で海に放たれた幼生は高知県や和歌山県を余裕で通り越し伊豆諸島まで到達できることになる。
数字だけ見ればそんな感じなのだが実際には、黒潮本線は台湾にぶち当たって跳ね返った後、八重山〜沖縄本島の北200km付近を東北に向かって流れるので、八重山〜沖縄本島の沿岸で放出された幼生が黒潮に乗れることは殆どないだろう。島周りを回る潮流に乗って島全体で個体群を形成・維持しながら一部が他の島へ分散するのが関の山だ。
しかしながら台湾東岸で放出された幼生がトカラ列島を経由して伊豆諸島へ到達する可能性は捨てきれない。高知県や和歌山県で時折発見されるおかやどかりの稚ガニについてもおそらく台湾〜トカラ起源なのではないかと想像している。
小笠原諸島は事情が異なり、サキシマオカヤドカリやオオトゲオカヤドカリが確認されていることや潮流から考えて、北マリアナ諸島からのダイレクトな流入に依存しているのではなかろうか?
いずれにせよ、西表島から奄美大島あたりまでは同一個体群と思われ、島毎や浜毎に違いが有るとは想像し難い。仮に過去に若干の違いがあったとしても、幼生の移動・拡散が多対多であるため、既に混合されているか、又は不連続で流動的なグラデーションを示すと思われる。
また、椰子の実や流木などに乗っかて漂流しながら長旅する幼体や成体も結構居るのではないかな?。
20081216:up