クロダイに至る道
これまで長年フライフィッシング一本で遊んできたわけだが、最近は家の近所で磯竿を使ってクロダイを狙うことが多くなってきた。
別にフライフィッシングが嫌いになったわけではないのだが、いまどきの渓流魚の資源状態を考えるとどうも自分から行こうという気にはなれない。景色は綺麗なのだが、わざわざ放流魚を釣るだけのために高いガソリン使って暑苦しいウェーダー履いて熊に出会うリスクのある渓流なんて行かなくても・・・
これまで長年フライフィッシング一本といっても全く餌釣りをしなかったわけではなく、合間合間に近所の海で餌釣りも嗜んでいた。
自分の釣り歴を紐解いてみると、まず最初に釣りをしたのは釣堀でのニジマス釣りとコイ釣りだったと記憶している。グラスの振り出し竿を買ってもらってからは、夏は家族で川へ遊びに行き栗虫を餌にオイカワを釣って河原で焼いて食べたり、冬には近所のカキ打ち場でイダ(ウグイ)を釣っていた。そのうち、大手スーパーに入店していた釣具店で煌びやかなスピナーを見てその魅力にはまりルアー釣りを覚え、冬場のイダ釣りはルアー一辺倒になった。
何時だったか、家族で山へ遊びに行った帰りに、ちょっと川を見ようと覗いたら、そこは一面のオイカワのライズ。それを観て以来カガシラ(流し毛鉤)釣りをするようになり、中学校に進学した頃、なんとハヤ釣りの最中に従兄弟がアマゴを釣ってしまい、私親子と従兄弟親子でそろって渓流釣りにハマってしまった。 最初はハヤ釣りの延長であるから当然餌釣りであるが、ある日、渓流での食いが悪くなった時間に本流に出てカガシラでハヤを狙っていたところ、なんとまあ、アマゴを釣ってしまい、当然のようにテンカラ釣りへと趣向が変化していった。そのうちに渓流でもルアーを使うようになり、バス用のミノープラグを使ってダムこの流れ込みで大型のニジマスを釣ったりもしていた。そして大学に入った頃からフライフィッシングをするようになった。
渓流釣りに行き始めてからも禁漁期間となる9月以降は近所の海でのちょい投げ釣りでハゼやアナゴ、冬にはカレイを狙っていたが、当時クロダイはあまり釣れなかったし、大物が泳いでいるのも目にすることはほとんど無かった。
昭和60年代に入った頃だったと記憶しているが、大学の秋休みに実家に帰った時、その頃は既に釣りといえば殆どが渓流のフライフィッシングのみで、海の釣りといえばルアーでスズキを狙う程度、餌釣りは一時休業状態にあったのだが、父がぼそっと
「最近近所で手のひらクラスのチヌが釣れよるらしいが、行ってみんかい。」
チヌなんてハゼ釣りの外道で当歳魚を釣ったことがある程度で、2歳魚を狙って釣るなんて想像できるものではなかったが、なぜが釣れる気がして、早速隣町の釣具店に行き、グラスの磯竿2本とリアドラグの付いた小型リール2台、そして電気ウキやクロダイ釣りに使えそうな小物類を買い揃えたのだった。当時はその釣具店の近くの干潟でいくらでもチゴガニが獲れたのでさすがに餌まで買うことは無かったね。笑!
そういえば、チゴガニがそこにいるというのをどうやって知ったのかを思い出せない。とにかく干潟が出る時間に合わせてバケツとスプーンを持って自転車漕いで、二週間分のチゴガニをせっせと獲ったことだけ覚えている。
そしてクロダイ釣り初挑戦にして、2時間ほどで何も苦労することなく結構な数の手のひらクラス尾クロダイを釣ることができた。
釣ったうちの何尾かを家に持ち帰って水槽で飼育したのだが、クロダイという魚は警戒心が強いとか賢いとか言われていたが、飼育した経験からはそのようなそぶりは全く感じられず、すぐに懐いて人に餌を媚びるようになり、人の噂とは間逆にかなりバカな魚だと思った。知り合いの漁師さんからウミフクロウをたくさん貰った時、クロダイ水層に入れると早速クロダイがそれに飛びかかった。そこでクロダイが食べようとした瞬間にガラス壁を叩いて驚かして食べないように教育しようとしたのじゃが、何度やっても結果は同じで、結局ウミフクロウは全て食べられてしまった。クロダイという魚はバカなばかりでなく相当な悪食だ。
結局、
「こんなバカで悪食な魚、釣れて当然」
みたいな感じでクロダイ釣りはすぐに飽きてしまったのだが、その頃から近所では毎年秋になると大量のクロダイが釣れるようになり、近所の海は電気ウキの赤い灯でにぎやかに飾られるようになった。おそらく広島市による種苗放流の効果が出始めたのがこの頃だったのだろう。
時は流れ、海のフライフィッシングに興味を持ち始め、昭和の終わり頃からメバルやセイゴをフライで狙ったり、ハネムーンで行ったクリスマス島でボーンフィッシュのサイトフィッシングも経験し、少し天狗になっていた頃、近所の海で2kgクラスのクロダイを頻繁に見かけるようになり、
「あのバカなクロダイならフライでも簡単に釣れるのではないか?」
っとの思いから、日中のクロダイのサイトフィッシングを試みるようになった。
しかし、しかしながら、しかしである。釣れないのだ。釣れないというよりは釣りにならないのだ。原因は人の動き。つまり竿を立てるだけでクロダイが逃げていく。キャスティングができないので釣りそのものが成り立たないのである。
かみさんの実家へ遊びに行った際にその近くの島でウェーディングしてクレージーチャーリーを投げたことがあるのじゃが、その時は手のひらクラスのクロダイが大歓迎してくれた。しかし我が家のすぐそこの海ではそうはいかなかった。
近所の海でも秋になれば、極小のニンフを使って岸壁ぎりぎりを引っ張ると当歳クロダイはいくらでも釣れる。しかしわしはサイトフィッシングでキロ越えのクロダイを釣りたいのじゃ。
そうこうするうちにイガイフライで落とし込みすると釣れることを某サイトで知ったのじゃが、キャスティングのないフライフィシングなんてクリープのないコーヒーみたいなもので何か物足りない(わしはブラック党なので実はクリープ要らんのじゃがね。)。ということで超前にブラインドキャストしてやっとこさ人様に見せられるクロダイを釣ったのが2003年の盆明け。
奄美にミナミクロダイを釣りに行き始めたのがちょうどこの年の9月からで、それ以来、南の島のミナミクロダイはサイトフィッシングで狙えるけど、地元のクロダイをサイトフィッシングで狙うのはかなり困難っと諦めムードです。
っで、なんで餌釣りでクロダイを狙い始めたかというと、これまでリールファイトの練習にと秋になると某排水口に群がるボラをフライで釣って遊んでいたわけだが、運がよければセイゴのボイルに出くわし、たまに釣れてくれたりするわけですね。っで何かの間違いで、セイゴではなくクロダイを釣ってしまったわけです。いつの間にか広島湾は日本で一番クロダイがたくさん泳いでいる海となってたんですね。そして個体数が増えすぎて餌に困ったクロダイさんたちがあちこち徘徊するようになり、岸壁のカキやらイガイやらを食い尽くす状況になってます。ついには地元の基幹水産業であるカキ養殖に被害が出はじめ、近所にたくさんいるカキ養殖業者さんたちがクロダイの被害で困ってるという話も耳にするようになってきたし、そいじゃ私が一肌脱ぎましょうってことで、近所限定のクロダイ退治を始めることになったわけです。
とはいえ、フライで狙っても駆除といえるほどの釣果は得られないでしょうから、当然開き直って餌釣りです。しかも動機が動機なので高価な磯竿とかスピニングリールとか買う気にもなれず、ふと覗いた釣具店で見つけた格安の磯竿に、何年か前にシャレで買ったチヌアクタスという片軸リールを組み合わせて単純仕掛けで狙い始めたら、これが結構はまってしまって。。。。
1号の磯竿に片軸リール。道糸3号+ハリス1.5号。環付きチヌ針1号の20cmほど上にガン玉をかましただけのシンプル仕掛け。渓流の脈釣りの要領で潮の流れの乗せてクロダイのいるであろう海底に餌を先行させて流し込んでいくと、糸がフッと緩んだり、キュンッと引っ張られたり、渓流でアマゴ餌で釣るのと同じようなアタリが出る。ここで早合わせがいいのか送り込んだ方がいいのかはまだ極めてないのじゃが、餌がカニやイガイの場合は早合わせ、オキアミや多毛類の場合は送り込んで本アタリを待つのがよさそうな感じです。夜釣りの時は糸の変化が見えないので餌を完全に底へ這わせて軽く糸を張った状態で待ちながらたまに誘いをかけると、一気に竿先を絞り込むアタリがきて、たいていが向こうアワセで針掛りします。ただこれはゲーム性に少し欠ける嫌いはありますね。でも遊びではなく駆除ですから四の五の言ってられません。暇があればクロダイ釣って食害を減らさないと、うまいカキが食えなくなっちゃ困るからね。
クロダイは針掛りしてからは首振りと底を這う走りで柔らかい磯竿を胴から曲げて楽しませてくれます。逆転する片軸リールのスプールに指先を当てて糸の出をコントロールしながら海底の岩礁を巻く様に泳ぐクロダイをいなして浮かせるまでが勝負どころで、勝負に勝ってひとたび浮かしてしまえばあとはすんなりタモに入ってくれます。
難しい部分と簡単な部分がうまくバランス取れてるのがクロダイ釣りのいいところですね。
ちなみに、この脈釣りに行き着くまでに、落とし込みや前打ち、団栗浮きを使ったフカセも試しましたが、フカセは撒餌の準備やらなんやら面倒だし、なんと言っても道糸にいろんなものがぶら下がってるのでクロダイの引きをダイレクトに楽しめる気がしないですね。落とし込みは潮位が高くてクロダイが岸壁に着いている時しか釣りにならないし、うちの近所は海底にカキ殻礁多くて前打ちでは根掛りが多いんですよね。
結局、潮位や時刻にとらわれず比較的コンスタントに成果が出るのが脈釣りでした。脈釣りって仕掛けが落とし込みや前打ちとおなじシンプル仕掛けで、見方を替えれば浮きを使わないフカセ釣りですからね。まあ、釣り方を明確に線引きする必要は無く、状況に応じていろんなアプローチを使い分ければいいのだと考えてます。
っで、思うのじゃが、駆除が進んでクロダイの個体数が減ってくると、それこそフライで狙うのが難しくなるねぇ。とりあえず魚影が濃いうちにフライでも狙っておくかの?
でも竿立てただけで逃げるんで、どんなに魚影が濃かろうと結果は同じような気が・・・。
20100309:up