夕暮れ青物に呆ける
 
 海の異常に気づいたのは9月中旬だった。
 例年であれば河口でカマスが良く釣れる時期なのでカマスでも狙おうかと河口に行ったもののカマスがいない。
 その代わりに,ギンガメアジが釣れた。
 広島湾でギンガメアジが釣れるというのはこれまで見たことも聞いたこともなく,単に外洋から訪れる大型船について入ってきたのだろうくらいにしか思わなかった。
 しかしそれは間違いだった。
 10月になるとカタクチイワシを追ってセイゴが釣れはじめるはずだったのだが,これがまた全く釣れない。代わりにギンガメアジが嫌というほど釣れ続ける。大型船についてたまたま入ってきたレベルをはるかに超える量のギンガメアジが河口界隈を回遊している。時合になると1時間で20尾くらいは平気で釣れる。それくらい濃密なギンガメアジの群れが入ってきていたのだ。
 っで,10月下旬くらいまでライトタックルで朝晩2回ギンガメアジを狙う週末が続いていたのだが,ある日とんでもないものを目にしてしまった。10kgはゆうにあるであろう大型の魚が水面に浮かび上がってきてゴポッゴポッと大きな捕食音を立てながら30cmほどの魚を水面で追い回しているのを目撃したのだ。体系や背鰭の形,サイズからヒラアジ系の魚であることは間違いなくロウニンアジのように見えた。追われていた魚が逃げ切って岸際まで泳いできたのでよく見るとマゴチだった。
 次の週末に私が手にするタックルはライトタックルから10kgオーバーを想定した青物タックルに代わっていた。マゴチを追い上げてきたということは底で餌を追い始めて水面へ追い上げてきたのだろうからまずは底をサーチしながら誘い上げるのがよかろうとマリアのリライズで狙うことにした。そして初日からいきなり間違って78cm 5.5kgほどのブリを釣り上げてしまった。
 これまでもたまにその場所で青物が釣れたという情報は耳にしていたが,自分が釣ってしまうとは思ってもみなかった。そもそも広島市内の河口青物銀座は別の川の河口なのだ。自宅から徒歩圏内にある河口で青物を狙って釣るというイメージはこれまで描いたことさえなかった。
 
 そんなこんなで確率の低いロウニン(あるいは大判ギンガメ)を狙うよりもブリ,ハマチを狙った方が良さそうだということで,少しタックルを弱めて青物狙いに転じた。それ以後は朝マヅメで青物を狙い夕マヅメでギンガメアジを狙うという週末が続いたが,現実はそんなに甘いものではなく,2尾目を釣り上げるまではかなり苦戦した。
 水温が下がってギンガメアジが釣れなくなったので夕方にも少し狙ってみようと日没まで粘ってみたところ,なんと日没前後に朝マヅメ以上のチャンスタイムがあることを発見した。そして1尾目を釣ってから1か月半あまり経過したクリスマスイブの日,日没後に実際に釣り上げてしまった(サンタさんありがとう・・笑)。
 翌週の年末には夕マヅメ狙いで出かけたものの夕マヅメを待たずして2日続けて日中にヒットさせてしまったので夕暮れサーチは行えなかった。
 年が明けてからも夕暮れ調査を進め,いつもではないもののかなりの確率で夕暮れ時に決まった方向から良型の青物が接岸してくることを発見した。
 もともとこの釣り場はとても狭く,3人から4人くらいしか釣り場に立てないことに加えて誰かが1本上げればその日はもう釣れないという感じで,一番よく釣れるポジションも決まっている。基本的には早起きは三文の得みたいに人より早起きして頑張れる人が良い思いのできる釣り場だったのだが,夕方の釣時を見つけたことで早起きして朝マヅメに頑張る必要がなくなり,ゆっくりと起床して釣りに出かけ,午前中は釣り人に状況を聞いたり,既に先行者が帰った後だったとしてもその日に釣れていればブリを〆て抜血した痕跡から釣果を知ることができるので,その日の夕方に向けた準備ができるため,朝マヅメに一本釣ってやろうという気負いがなくなった。
 
 1月の釣果はほぼ夕暮れ時の釣果だったわけだが,夕方に河口で釣っていると堤防を散歩している地元の人に釣果を目撃されることが多い。だんだんとその場所が人に知られるようになり情報が拡散され,別の河口で頑張っていたグループが流れてくるようになり,これまでのように地元常連だけでのんびりと釣り場を独占できる状況ではなくなった。朝よりも夕方が賑わうようになってゆき,ついには朝一から日暮れまで弁当持参で頑張る若者も出てきた。
 その頃には私の家族もブリを食べ飽きてしまい私も釣果にこだわらなくなっていたので,彼らに私の少ない知識やノウハウを伝授しながらわいわいがやがやと一緒に切磋琢磨している。
 
 私はこの釣り場で主に二通りの狙い方をしている。一つは夕暮れ時に青物が沖から入ってくるコースを見つけたので,頃合いを見計らってそのコース上に投げて食性に訴えて食わせる狙い方で,もう一つは日中にボトムの地形変化に付いて休んでいる青物に対してシンキングペンシルで直接アピールしてリアクションバイトさせる狙い方となる。この2つは潮や時間帯がうまく合っていることに加えて前記した一番いいポジションに立たないとピンポイントで狙えないのが難点だ。
 先行者がいて思ったところに投げることができない場合には大きめのトップウォータープラグでアピールして青物が自分の目の前に移動してくれることを期待したり,ミノーをいろいろな方向に投げて巻いてを繰り返しながら新たなピンポイントを探したり,とりあえずどの方法でも同じように釣れているものの,効率という面では最初の二つに敵う釣り方はない。
 
 それにしてもこの秋以降の広島湾は異常だった。
 水温がなかなか下がらない傾向がこれまでよりも一段と酷くなったように感じた。
 ギンガメアジについては,釣れたサイズが沖縄や奄美でフライに釣れてくるサイズよりも一回り以上大きいので,何らかの原因でこのサイズで偶然に大量来遊してきただけだと思われるが,それが12月下旬まで河口あたりに居座っていたというのは,やはり水温が高かったからなのだろう(聞くところによると県中部の島しょ部では1月下旬になってもまだ釣れているらしい。あの辺は火力発電所があるからね〜。)。
 そして青物シーズンの長期化。
 これまで何年も青物を追いかけてコンスタントに釣り続けてきた釣り人から耳にするのは,通常は11月中旬,遅くても12月には青物シーズンは終わるのに今年は・・・という話。
 しかも広島市内ではこの冬いまだに初雪が降っていない。観測史上最も初雪が遅い年になることが確定している。
 結局青物の釣果はこの記事の原稿を書き始めた2月上旬まで続き,この時の水温は12℃を少し切るぐらいだった。例年なら既に10℃台に下がっている時期であることを考えると,まさに地球温暖化がもたらしてくれた天の恵みと言えるだろう。
 
 ここしばらく青物用の大きなルアーばかり使ってきた影響か,これまでスズキ狙いに使ってきた90mmのミノーが頼りなく見えてしょうがない今日この頃である(笑)
 
20200203:up
 
 
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