和竿を作る:技を創る
 
 
 和竿の作成過程は簡単に書けば
 @素材の確保:材料となる竹を採取し乾燥させる。
 Aブランクの作成:火入れ曲げ直しをして竿を真っ直ぐにし塗装する。継ぎ竿の場合は継を作る。
 Bビルディング:必要に応じてガイドやリールシートを取り付ける。
の三つの段階に集約される。
 しかしこの三段階を実現する手法は、作り手の経験と知恵そして作成環境によって全く異なった手法が用いられている。
 一口に和竿といっても日本国内には京竿、江戸和竿、紀州竿、郡上竿、庄内竿、その他もろもろの地域固有の竿が存在し、その和竿を育んできた背景・文化も多様で、当然その作成過程も様々であったろう。
「和竿」と書いて「わざお」と読む。
「和竿を作る」ことは「技を創る」ことに通ずるのだと私は思う。
 
 以下に私なりの和竿作成手順を公開する。
 ちなみに私は和竿作成に関して正しい指導や教育を受けたことはなく、知識の大部分はネット上で仕入れたものであり、それを自分なりの解釈で実践し会得した全くの我流であるため、用語の使用が誤っている場合や間違った解釈をしていることも予想されるため、鵜呑みにしないようお願いする。
 まあ、メモ書きみたいなもんですな。
 
採取〜乾燥・保管
・竹の種類
 性能や見栄えを言わなければどんな竹でも竿になるはずである。自分の行動範囲で手頃な竹を獲ればいい。
 っというのはあまりにも不親切なのでとりあえずお決まりのヤダケとメダケを採取することをお勧めする。
 園芸用に流通している黒竹は破竹の変種であり、これもよく言うことを聞いてくれる竹である。
 ホテイチクやスズタケはなかなか言うことを聞いてくれず、まだ私の手には負えない。この二種については曲げ直ししなくても良いくらい素性の良い素材を選ぶしかなさそうだ。いわゆる「竿にできる竹は一山に一本」というのはこの2種のために作られた台詞だと思っている。
 
・採取
 採取時期は立冬から立春までが良いと言われているが,その後の晒し工程を考えると冬至までには穫っておきたい。
 採取したときに枝を切り落とすが,ぎりぎりまで切り落とすと乾燥中に節が割れる場合があるため,枝の基部を1〜2cm程度残しておく。
 
・荒火
 害虫やその卵,カビ等を家へ持ち帰ってしまわないよう,現地で竹表面に直火を当てて駆除を行う。
 *雌竹の場合は袴が付いたまま荒火を入れると,袴に火がついて竹を焦がしてしまったり、袴の内側に付いたカイガラムシが駆除しきれない場合があるため,必ず袴を取った後に荒火を入れる。
 
・竹の洗浄
  スコッチブライト等を使っての表面の汚れを大雑把に落とす。
  火で炙って表面に浮き出てくる油分を布で拭き取る。この作業で竹表面の汚れの大部分が綺麗に取れる。
  なお,乾燥後の火入れでも油抜きはできるため必須ではない。
  油抜きを行わなかった場合,乾燥中に表皮にシミや斑が入る場合があるが,これもまた一つの趣である。
 
・晒し
  洗浄した竹を天日に晒す(雨には当てない)。
 
・保管
  竹の緑色が抜けたら屋内で乾燥保管する。
  色が抜けきらなかった場合でも「雛を出したら竹を仕舞え」ということなので雨水頃には屋内へ取り込む。
  屋内保管に移す際に枝の基部を数mm程度まで切りつめて再度竹全体を洗浄する。
  洗浄の済んだ竹は水分をよくふき取って半日〜数日陰干しし,完全に乾いた後に屋内に取り込む。
 
・選別
  保管中に捻れや曲癖がひどく出た竹は廃棄する。
  竹を曲げてみて,粘りや反発が自分のイメージに合うものを残す。
  (選別クズは一定量残して火入れの練習用に使うと良い)
 
ブランクの作成
・芽取り
  残っている枝の基部を小刀や彫刻刀で完全に取り除く。ホビー用のルータの利用が作業性がよい。
 
・火入れ
  竹を焦がさないように火で炙って浮き出てくる油を拭き取り,柔らかくなった竹を「矯め木」などを使って真っ直ぐに矯正する。
  火入れから2〜3日後に両手でグイッと曲げて,手を離した後に元通りに真っ直ぐに戻るか確認する。
  戻らないようであれば再度火入れを繰り返す。
  火入れは「火入れ一生」と言われるほど高度な技術と経験が要求される作業であり,火入れの善し悪しで竿の性能が大きく変わる。
  火入れには炭火を熱源としてカンテキ(七輪)で熱するのが一番と言われているが,一般家庭でカンテキを使って火入れを行うのはなかなか困難である。
  カンテキを使うメリットは遠赤外線が多く発生するため芯まで熱が通りやすいことが理由と思われる。よって,遠赤外線が発生する熱源で有れば応用が利くのではないかという考えで,私の場合はガス式はんだごてのホットブロー機能を使って火入れを行っている。使ったことはないがヒートガンでも良いのではないだろうか。
 
・保管
  切り組が決まるまで風通しの良い屋内で保管する。
  保管中も定期的に癖の戻りをチェックし必要に応じて火入れを行う。
  
・切り組
  竹の組み合わせを決め,目的の長さにカットする。
 
・継ぎの作成
 竿の継には並継ぎ、印籠継ぎ、金属フェルールの3つが主に使われる。
 ・並継ぎ
   継雄の作成
    継のテーパーを決める。
    ブランク端の穴の内径を測り,穴の径に合わせた補強芯を作成し穴に突っ込んで接着する。
    雄は予定したテーパーよりも少し太いくらいに削る。
   継雌の作成
    ブランク端に割れ防止の口巻きを施す。
    継のテーパーに合わせて太さの異なる複数のドリル歯を使い穴をテーパー状に広げる。
    細い棒ヤスリ等で,雌穴のドリルの段付きを滑らかに仕上げる。
   継の調整
    先に作成した継雄に薄くロウを塗り,差し込んで回転させる。
    抜いたときに艶にムラがあるはずなので光っている部分をサンドペーパー等を用いて削る。
    上記の摺り合わせ作業を繰り返し,予定の深さまで入るように調整する。
    雄に合成漆等を塗って継ぎ,回転させながら静かに抜いて,立てて乾燥させる。
雄を軽くサンドペーパーで均し,上記作業を繰り返す。
    これを何度か繰り返し,雄雌両方に合成漆の均一な皮膜ができたら完成
 
 ・印籠継ぎ
   継雄の作成
    ブランク端の外形を測り,印籠芯の外径と材質を決める。
    強度を考えると残す肉厚は外径の2割程度必要であり,よって外径の6〜7割程度が印籠の外径となる。
    印籠芯の材質はアクションや負荷を勘案して決める。
    瞬間的に大きな負荷の掛かる竿の場合はグラスやカーボンのパイプ又はソリッド材がよく,スムーズで滑らかなアクションにしたい場合は竹(スズタケ,ヤダケ)がよい。
    印籠芯が決まったら雄のブランク端に割れ防止の口巻きを施す。
    印籠芯の径に合わせてドリル歯を使ってブランク端から穴を広げる。
    印籠芯に接着剤を塗り,ブランク端に差し込んで接着する。
   継雌の作成
    ブランク端に割れ防止の口巻きを施す。
    印籠芯の径に合わせてドリル歯を使ってブランク端の穴を広げる。
   継の調整
    先に作成した継雄にロウを塗り差し込んでみる。    
    継ぎがきつい場合はサンドペーパー等を用いて印籠芯を削って調整する。
    緩い場合はロウを拭き取り,印籠芯に合成漆等を塗って太くする。
    継ぎがきつくなるまで上記作業を繰り返し,差し込み調整する。
    調整が済んだら雄に合成漆等を塗って継ぎ,回転させながら静かに抜いて,立てて乾燥させる。
    雄を軽くサンドペーパーで均し,上記作業を繰り返す。
    これを何度か繰り返し,雄雌両方に合成漆の均一な皮膜ができたら完成
 
 ・金属フェルール
   市販されている万能竿用の金属フェルールは雄側と雌側とでパイプ内径が異なる。
   これらのフェルールを用いる場合は,切り組の段階でフェルールの内径を意識しておく必要がある。
   装着は,ブランクの端に接着剤を塗ってフェルールに突っ込むだけなので,至って簡単である。
 
・塗装
  芽の部分に筆で合成漆を塗り,目止めする。(2〜3回程度。)
  目止めが済んだらブランクの塗装を行う。塗料には市販の合成漆が使い易い。
  布又はキムワイプ等に少量の合成漆を取り,ブランク全体を拭くような感じで塗装する。
  1〜2回目までは塗りムラが気になるが,4〜5回繰り返すと気にならないレベルに落ち着く。
 
竿の組み立て
・ガイド,リールシート等の取り付け
  ここから先は普通のロッドビルディングと一緒なので割愛します。(←単なる手抜き?)
 
おまけ@コーティングに関する効果的裏技
 ラッピング部分にコーティングを塗った場合,糸の隙間の空気が抜けにくく,硬化中に気泡が出てきたり,使用しているうちに糸の隙間が割れたりすることがある。
 これを防止するためには,コーティング直後にラッピング部分を加熱し,糸の隙間の空気を膨張させて追い出してやればよい。冷えるに従ってコーティング材が糸に完全に浸透し,ブランクと糸の隙間までまんべんなく行き渡り,強固な被膜を形成してくれる。
 ただし,ナイロン糸や耐熱性のないコーティング剤を使用している場合、温度を上げすぎると取り返しの付かないことになりかねない。
 加熱による空気の追い出しを行うのであれば「ラッピングには絹糸,コーティングには合成漆」の組み合わせが適当だろう。
 
 さて、ここまで読んでくださった「あ・な・た・」
 和竿作りたくなってきたでしょ〜。
 
 
20040910:up
 
 
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