サイトマスターへの道
「魚を発見したときには既に魚は逃走モード」
こういった経験をされた方は多いのではないでしょうか。
そして釣り人は,魚が見えなかった原因を偏光グラスのせいにしてどんどん高価な偏光グラスに買い換えるスパイラルに陥ってしまうのです。
その結果はどうでしょう。高価な偏光グラスによって魚は逃げなくなったでしょうか?
偏光グラスを使うと確かに水中が見えやすくはなりますが,偏光グラスは水中の見える範囲を広くしてくれるわけではないのです。
偏光グラスだけでは蹴散らす魚の数を減らすには限界があります。
それでも魚を見つけるのがうまい人とそうでない人がいます。
何処が違うのでしょうか?
まず、「見える」と言うことはどういう事か考えてみましょう。
私は「見える」と言うことは「有る物体から発せられた光又は有る物体に反射した光が目に入り網膜にある沢山の視覚細胞を刺激し、その刺激が神経を通じて脳に伝わり、そこで画像として合成されること。」だと考えています。さらに、光が目に入ってくる角度や明暗の差によって、視野の中にある物体をより詳細に知ることができるのです。
この考えの上に立つと、ある物体が見えるためには、観ようとする物体が光を発しているか又は光を反射している、あるいは背景に対してシルエットになっている必要があります。そしてごく当たり前のことですが、この光が目に入るということが必要です。
余談ですが、フィールドにおける光源は殆どの場合太陽光線です。しかし光が太陽の方向からしか来ないので有れば、光のあたる側の裏側や光が遮られた先では光が反射しないわけですからその部分は真っ黒にしか見えないはずです。しかし実際には太陽光線が直接あたっていない場合でも物の形や色が認識できます。これは大気中の水蒸気や塵によって光が反射・屈折し様々な方向へ錯乱しているため、その錯乱光が反射して見えているのです。当然ながら月に反射した光もこれに貢献しています。これらの光は直射日光よりも光量が少ないためそれが反射した部分は直射日光が当たった部分よりも暗く見え、それが影なのです。
本題に戻ります。
ようするに釣り人は、魚に反射した光又は影を目で捕らえることができれば、そこに魚の存在を視覚で認知できるわけです。
ただ、魚は水の中におり、釣り人の目は空中にあります。この両者の間には水面というやっかいな境界があるのです。
では、光がこの境界に出くわした際にどのように振る舞うのかを考えてみましょう。
とはいえここで光の性質について全てを事細かに解説する気はありません。何と言っても気弱な筆者は付け焼き刃の知識で光についてあれこれ述べて知ったかぶりするほどの図々しさも持っていません。よって,ここでは釣り人に最も関係のある「光の反射と屈折」について,中学校の理科で習った知識の範囲で復習してみましょう。
光は基本的には直進するのですが、ある物質から異なる物質へ侵入する時、屈折し,反射もするという性質を持った波であり粒子です。もう少し突っ込んだ言い方をすると、光がある物体から別の物体へ侵入する時、境界面で反射する光と入射する光に分かれ、入射した光は屈折するのです(どうでも良いことですが,屈折と反射は入射点と同じところから起こっているのではなく,少しずれたところで起こっているらしい。この現象は,光学レンズでは無視できる程ものなので釣り人には全く関係ないのですが,光通信では重要な問題のようです。)。
釣り人にとっての反射光とは水面への風景の映り込みという観たくない光であり、屈折光は水底や魚に届き、反射して再び空気中へ出てきて釣り人の目に届くもので是非観たい光なのです。
反射については特に説明の必要は無いと思いますが、念のために復習しましょう。
@「反射角は入射角に等しい」
A「水面で反射した光は偏光しp偏光とs偏光になる」
B「全ての入射角においてp偏光よりもs偏光の方が反射率が大きい」
C「入射角53度ではp偏光は反射しない(ブリュースター角)」
釣り用の偏光レンズはs偏光を通さずp偏光だけを目に届けるように作られています。しかし実際に目に届くp偏光は水中の物体に反射して水中から空気中へ出てきたp偏光だけでなく水面で反射したp偏光もあるのです。これだけでも偏光レンズがその真価を発揮するのは入射角(=反射角)53度の時だけで、他の角度ではp偏光による映り込みが避けられないことは容易にお解りでしょう。しかも入射角が70度を超えた当たりから反射率は急増します。
続いて今回のメインの話題である屈折について勉強してみましょう。
光の屈折とは,ある物質から別の物質へ光が斜めに侵入する時に光の進む速度が変化し,結果として光の進む角度が変化する現象です。
この屈折によって
・水の中にある物体は空気中から見ると浮き上がって見える(水深が実際よりも浅く見える。)。
・横を向いた魚は細長く見え,こちらを向いた魚(又は逆)は短く(ずんぐりと)見える。
といった現象が引き起こされています。
ある物質Aから入射角(θ)によって別の物質Bに入った光の角度(屈折角(r))の関係は
物質Aの絶対屈折率×sin(θ)=物質Bの絶対屈折率×sin(r)
と表すことができますので,入射される側における屈折角は
sin(r)=sin(θ)÷物質Bの物質Aに対する相対屈折率
で計算されることになります。
言い忘れてましたが,入射角・反射角・屈折角は境界面に対する光の角度ではなく境界面に垂直な軸に対する角度です。
また,水の空気に対する相対屈折率は1.3330
です。
よって,これらから任意の入射角について屈折角を計算すれば,空気と水との間の光の出入りが解け,続いて48.6度という角度が鍵を握っていることがわかるでしょう。
「空気中から水中へは全ての角度で光が入射できるが,水中から空気中へ出ていく光は,入射角48.6度を超えると水面で全反射し,水中へ戻る。」のです(この角度を臨界角と呼ぶ。)。
以上から、「魚からは水面上にあるものは比較的明確に形を認識できるが、釣り人からは遠くの水中ほど水面近くに偏ってへちゃげて見え、しかもある距離以上になると風景の映り込みが強くなり、水中にある物を認識し難くなる。」ということなのです。
つまり,釣り人が魚を発見する前から魚からは釣り人が見えているという現象は,どんなに高性能な偏光グラスをかけたとしても完全に解消することはできないのです。
ただ幸いなことに,魚の目は魚眼レンズだと言っても360度全てが見えているわけではありません。どんな魚でもやや前向きに目が傾いておりしかも体の幅があるため真後ろの一定角度は見ることができないのです。しかも屈折というやっかいな現象のおかげで魚眼レンズとはいえ水中では空気中での広角レンズ並の画角しかありません。よって魚の視野は一般に言われているよりも狭いのではないでしょうか。
どうやら,光の屈折は我々釣り人に試練を与えると同時にチャンスも与えてくれていたようです。
っと,ここで疑問がわきます。
常識を超えた距離の魚を見つけるサイトフィッシングの達人いわゆる「サイトマスター」がこの世にはいるのです。
彼等はどうやって常識を越えた遠いところにいる魚を発見しているのでしょう?
答えは水面のうねりと波です。
実際の釣り場では水面がうねっていたり波が立っていることが多いでしょう。うねりや波によって水面の傾きが変わり,つぶされた水中の世界を改善して見せてくれているのです。当然,水面の傾きによっては水面での反射光が多くて見え難い部分もできます。うねりも波も常に動いており,水中の特定部分は見える見えないを繰り返しているのです。しかも人の目はつい動いている物を追ってしまいますので水中の見える部分を波の動きに連動して追ってしまう傾向があり,これが魚の発見を困難にしているのです(但し、波に乗って波と同じ速度で移動している魚は発見できます)。ですから、最終段階として、波を目で追わないように訓練し,屈折角の変化によって見える見えないを繰り返している水中画像を、パラパラ漫画を見るように脳内で連続した動画に変換する能力も鍛える必要があります。そう、最終的にはこの画像合成能力が物を言うのです。
とにかく波があるところで水中の風景や魚を観て、ぱらぱら魚群探知眼を鍛えましょう。そして魚が見えるようになることであなたの釣りが劇的に変わること間違いなしです。
最後に、
「手前はよく見えるけど途中からちょっと見えにくい部分があって、、、っで、条件が良いとその先がまたみえるんだよ。ただ不思議なことになぜか魚が逆立ちして見えるんだよね〜。」
あるサイトマスターがぽつりとつぶやいた台詞です。
なぜ逆さまに見えるのか?、どんな条件でそれが見えるのか?。それは、ここまで書いたことをもう一度じっくり読んで考えてみてください。
それが解明し実際に観ることができた時、あなたは真のサイトマスターになるのです。
20050825:up