フライは9種あればいい
 
 
 品質工学という学問があるのをご存じでしょうか?。
 高品質でロバスト性の高い物作りを効率的に行い、社会損失を少なくする手法を考える学問だそうです。
 
 この学問に初めて触れたのは4年ほど前なのですが、専門家の講演を聴いた時に「これは何にでも使えそうなすごいツールだ!」と直感しました。おそらく数値化できるものについては全てに適用可能なのだと思います。また、 数値化できないものでもどうにかして数値に置き換える工夫をすれば、それこそこの世の全てのことが改善できるのではないかとさえ思える。そういう第一印象でした。
 
 っで、仕事ではなかなか取り組む機会がなかったのですが、ある日ふと、「おれって知らず知らずのうちに頭の中で品質工学やってたじゃん。」っと気づいたわけです。
 自分が行っている物作りといえば毛針だとか竹竿だとか釣りに関するものと、スキーのチューンナップくらいしかない(笑)。っで、この中に品質工学があったのです。
 実は品質工学という学問を知らない人でも、私のように知らず知らずのうちに自然と品質工学的に考えて解決への最短距離を走っていたというケースが多々あるのではないでしょうか?。
 
 まあ小難しい解説や専門用語は極力なしにして、この学問を釣りにどう活かしてゆくか?。 はっきり言って釣りは応用科学であり物作りではないので、品質工学をそのまま取り入れようとすると無理があります。しかし品質工学的な思考は釣りに十分活用可能なのです。「品質工学」ではなく「品質工学的な思考」というのがポイント!
 
 例えば、オリジナルフライを作るにあたって、世の中に出回っているマテリアルからフィールドで見かける水圏昆虫(こういう言葉があるのかどうかは知りませんが、水辺に関わって生きていて、魚の餌になりうる昆虫全般を便宜的にこう呼ばせていただきます。)のイミテーションを作ろうと思うとマテリアルの組み合わせは無限大にあるわけで、とはえ実際にフィールドで使うことのできるフライの本数というのは限りがあって、ティペットを切って結んでの回数が多くなると必然的に毛針を水に浮かべている時間が少なくなるのは想像に難くないでしょう。
 
 たとえば、ウイングの形状、フックのサイズ、ハックルの色、ハックルの厚み、ボディの色、ボディのマテリアル、テールの色、テールのボリューム。これら8項目を3水準づつ想定して全ての組み合わせを網羅しようとすると3の8乗で6,561通りの組み合わせとなります。
 しかしこの6.561通りのフライを各1本ずつ作るにしても膨大な時間がかかります。管理も大変です。そもそも6,561本ものフライをフィールドで持ち運べたとしても、この中からとっかえひっかえ結び直してその日のそのポイントに最適なパターンを見つけ出そうとすると、1日は24時間、つまり86,400秒しかないので、この86,400秒で6,561本を結び変えようと思うと1本あたり13秒少々しかないことになります。
 不眠不休で丸一日フライを結び変えるだけでこれなのでとてもじゃないけどフライをキャストする時間などありません(まあ、たいていは過去の経験から「この場所でこの季節ならこれ」みたいなのが既に頭の中に入っているので、こんなことにはならないのですが、それを言ってしまうとこのネタが終わってしまうので、そんなことは言わずにこのまま続けます・・笑。)
 
 だからフィールドに持ち出すフライは少ない方が良い。しかしながら少ないフライの中にアタリフライが本当に含まれるのか?これが釣り人にとって一番の悩みどころで、結局使うか使わないか分からない無数のフライをフライボックスに入れて持ち運ぶことになってしまうのです。
 無駄にたくさんのマテリアルを消費して使う当てのないフライを大量生産し、結局フライボックスのゴミを増やすことは社会損失以外の何物でもない。これは何とか解決しなけりゃいけない。っと思うわけですよ(メーカーさんからすれば無駄に消費してもらわないと儲からないでしょうけど。。。)。
 
 これを解決するために品質工学的に考えてみましょうというのが今回の話。
 断っておきますが、全てのフィールドで効果的なロバスト性の高い一本をいきなり産みだそうという狙いはありません。まずはテスト用に持ち歩くフライの数とそれらのフライに使うマテリアルの組み合わせをどういうふうに構築するか?っという視点で品質工学で使う直交表というものを使ってみましょう。
 
※ここから先を読むにあたって、とりあえずいったん休憩して、新しいタブを開いて「L18直交表」を検索して専門家が書いてくださったサイトを一読してください。
 
 はい、読み終わりましたね。直交表がどんなものか分かりましたでしょうか?
 分かったという方が多そうなので、このままネタを続けます。
 
 先に記した8項目を直交表に割り付ける訳ですが、よく使われるL18直交表に割り付けようとすると一つは2水準にしなければなりません。とりあえず考えられるのは、ウイングの形状をVかIかというところでしょうか?これはパラシュートかパラシュートでないかという表現に変えることもできます。またウィングの有無で2水準にすることも可能でしょう。他にも項目を変更して、例えばハックルの色とテールの色は同一色にするという制限を加えて、新たに一項目追加しても良いでしょう。他にもいろいろな項目の組み合わせが考えられると思います。
 
 どうでしょう?あなたのL18直交表はできましたか?
 ここで「あれっ?」っと気づかれた方も多いと思います。
 3水準の1,2,3の順番を入れ替えるとまた違ったフライパターンができあがります。
 この直交表に割り付ける項目の選択と水準の考え方は各自のセンスが問われるところです。だからL18直交表から得られるフライパターンはそれを割り付ける人の知識と経験によって千差万別になります。だからといって、他人の直交表の内容と自分の直交表の内容が違うことうことを気にする必要はありません。大切なのは、ご自身のインスピレーションを活かして、より少ないマテリアルで、18通りのフライを作り上げることです。
 
 18通りのフライであれば5〜6分釣ってフライを交換してを繰り返したとして2時間もあれば全てが試せるでしょう。そして、その18通りのフライを使った結果から、実際に釣果に影響する主な要因と釣果に影響しない要因がなんとなく見えてくるはずです。
 品質工学ではこの要因効果を示すために難しい計算を行いますが、そんなことしなくても人の脳、特に釣り人の脳はとても優秀なパターン認識能力を持っていますので、何となくこの項目が重要そうだな〜とか、逆にこれは釣果に関係ないなさそうだな〜とかに気づけるはずです。
 
 一シーズンを通じていろいろな条件下でこの18通りのフライを使い続けることで季節ごとに気にしなければならない要因も分かってきます。途中で項目を見直して新たに18通りのフライを作っても良いでしょう。
 最終的に釣果に影響するであろう重要な項目を4つに絞り込めれば、それを3水準でL9直交表に割り付け、9通りの一軍フライ達ができあがります。
 いろいろな方が作った9通りの一軍フライを集めてその共通要素を見つけ出して整理してを繰り返してゆくと、最終的にスタンダードフライに集約されそうな気がしないでもないですが・・・(笑)。
 
 直交表はフライパターンだけでなく、最初に買いそろえるべきルアーやエギの絞り込みにも使えます。釣具屋の棚を眺めてどれを買うべきか悩んで動けなくなっている方のお役に立てれば幸いです。
 今回の話は専門家から「それは直交表の使い方間違ってるよ」っとお叱りを受けそうですが、あくまでも「品質工学的な思考」ということで、ご勘弁を(笑)。
 
 
 
20160520:up
 
 
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