「考察」
                〜最も「好ましい世界」とは?〜
            

            注!!:「礼」のネタバレあり!!注意!!

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某県、某ダム。
ダムサイトに佇む人影一人。
「あのとき、あの場所がこんな風になってたのかもしれないんだよな・・・・」
「彼」は、そうつぶやくとダムサイトからダム湖の方、すなわち上流側を見た。
多くの水を湛えるそれは静かにそこにあった。すべては水の底・・・・・・・・
「彼」は後ろ、下流側を振り返った。
ダムサイトの高台から見えたのは緑の木々が生い茂る山々と、点在する集落。
前と後の風景がまるでちがう。「彼」は改めてこう思った。
「すべてのベクトルが正しい方向を向いていたら、あの場所もこんな感じになっていた
のだろうか・・・」
「彼」はそう思った。しかし、
「それが果たして本当にいい結果につながったのだろうか・・・」
確かに皆に罪の無い世界。
これ以上に無い好ましいとも言える世界。
「どっちがいいんだろうか・・・・・・」
「彼」は色々思いあぐねていた。そして、ふと空を見上げて言った。
「なあ・・・・・羽入さぁ、おまえならどっちがいいと思う?」
返事は無かった。
「返事が無いのは当たり前だよな」
向こうは土着信仰の神様なのだから、200km以上離れたここに来るわけが・・・・
「それはですねぇ・・・・」
背後から声が聞こえた。
「それはですねぇ・・・・って・・・・・・・・ぅをい!!」
振り返ると、そこには見たことのある姿が。頭に二本の角が生えているのが特徴の・・・・
「羽入!!おまえ・・・何でこんな所に!?」
「まあ、全然お話に全然関係無いですが、10月の呼び方は“神無月”。日本国中の八百万
の神様が出雲大社に大挙して大移動なのですから、それと比べたら軽いものですよ」
「そりゃ・・・そうだけど・・・・・」
二人はダム湖の方を見た。ダム湖はエメラルドグリーンの水面を湛え、静かに佇んでいた。
「・・・・・・梨花があの時、選択を間違っていたら(間違いって言葉、当てはまらない
のかもな)雛見沢がダム湖の底になる「あの世界」にいることになったのかもしれないん
だよな」
「そうです」
「でも、「あの世界は」・・・皆に元々罪が無い世界。考えようでは「好ましい世界」なの
かもしれないと思うんだけど」
「本当はそうなのかもしれませんね」
「じゃあ、何で梨花は事故前、つまり「元の世界」に戻るようなことを願ったのだろうか」
「梨花にとって、「自分にとって好ましい事柄」が揃っている「元の世界」が好ましいもの
と思ったのでしょう」
「なるほど・・・・確かに。第三者の俺が見て好ましい世界が、必ずしもそうではないの
だからな」
ダム建設が決まった「あの世界」。
「ほぼ」すべての登場人物が正しい方向へと歩んでいる世界。
しかし、「あの世界」の雛見沢は、ダムの建設が近々終わり、湛水が始まり・・・・・・
ダムの底へと沈む・・・・・・・。
しかし、それは見方によっては「好ましい」世界の「好ましい結果」。
梨花はそれでも、「元の世界」に戻ろうとした・・・・。
皆それぞれ罪を背負った、しかしお互いを許しあえた世界に・・・・。
「あの世界」は「いたはずの人間が居ない。あるはずのものが無い」世界だから?・・・。
「だからこそ梨花は、「あの世界」で、あの選択をした・・・・・?」
「もう答えが出ているはずですよ」
「で、梨花は圭一が居なくても自力で「元の世界」に還ることが出来た・・・・・」
羽入がその言葉を聴いて、嬉しそうにこう言った。
「ええ!彼女は何が有っても、もう一人で大丈夫でしょう」
「日々進歩・・・って言うと大げさか?」
「ふふ・・・・進歩かもしれませんね」
「進歩・・・・ねえ。なければ人間そこでお仕舞だ」
「そうですよ」
「ところで、羽入?キムチは大丈夫になったか?」
突然の話動揺を隠せない羽入。
「あぅあぅあぅ・・・・・」
「その顔を見ると・・・・」
「あぅ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・進歩の無い奴・・・・・・・じゃあ、俺が羽入を進歩できるよう
にお手製の自家製キムチ・・・○家のキムチの素+特製激辛唐辛子を調合した物で漬けたも
のをシューの中に入れて、あ、ロシアンルーレット・・・ってかロシアンシューとでも言
言うのかな?それをぜひご馳走・・・・お供えして差し上げましょうではないですか。
多分「死刑執行用」よりさらに上を行くかもしれませんよ・・・・くひひっ」
「な・・・・何か怖いですよ。その笑い方が・・・・」
「まあ、当てなきゃいいんだから。当てなきゃ。はずれが1/6だからね。ちょろいもん
よ」
「え・・あ、あぅ・・・しかし・・・・・・・」
「あら〜奥さん。何かご不満でも〜?あ、そうか、1/6がはずれなのは刺激が少なくて
物足りないのでございますね?じゃあ、確立を逆にいたしましょう。1個だけ本物であと
は・・・・・」
「あ・・・・。さ、最初のほうでいいです」
「じゃあ、決まりね!」
「あぅ・・・・・・・・(--;)」

人間の数だけ希望(欲望とも言うか・・・・)がある。
それの数だけ努力だってあるし。
で、梨花は、
「元の世界に戻りたい」
という希望のために努力したわけだ。
そして、その努力は実った。
ひょっとしたら「たまたま」なのかもしれない。
努力は報われないことだってあるのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・
だから、
「もう、軽率な行動は慎むように!」


同じ頃××県・・・・雛見沢村
「へきしっ!」
「あら?梨花、風邪?」
「み〜・・・・・・・そのようです・・・・・・」
「熱があるようですわね・・・・・お薬飲んで、今日は早く寝たほうがいいですわ」
「そうするです。ところで・・・・」
「はい?」
「羽入はまだ戻らないのですか・・・・?」
「ええ。先ほどからお出かけしたまま・・・」
「そうですか・・・・・一体どこに行ってしまったのでしょうか?です。」
「そうですわね」
羽入が帰ってきたのは夕方も過ぎた頃だった。
真夜中・・・
川の字に寝ている三人。
ふと、目を覚ました梨花が羽入に尋ねる。彼女も起きているようだった。
「ねえ、羽入?」
「はい?」
「今日、どこに行ってたの?」
「内緒です」
「そう・・・・・・」
「ところで、梨花はこの世界に戻ってきて良かったと思いますか?」
「もちろん」
「ところで、「あの世界」はどうでしたか?」
「私には気持ちの悪い世界だったわ。私にとって本当に居るべき人、物事。それが無い
世界なんて・・・・。確かに物事が正しい方向に向いているのは悪くないとは思うけど。
でも、やっぱり、自分にとって好ましいと思う世界が・・・いち・・・ば・・・ん・・・」
「そうですか・・・それを聞いて安心しました」
梨花はどうやら眠ったようだった。多分風邪薬が効いてきたのだろう。
羽入も安心したのか目を閉じるとそのまま深い眠りに落ちていくのだった。
 
	                                                  〜おしまい〜

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最後に・・・・「彼」って一体誰なのでしょうね?(笑)

                             〜本当におしまい〜


戻ります?