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『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』 | |||||
NHKスペシャル | |||||
陸軍登戸研究所のことは、むかしNHKのドキュメンタリーで観たり、十二年前に観たドキュメンタリー映画で知っていたが、総力戦研究所のほうは、朝ドラ「虎に翼」で観るまで研究所名が付けられていたことを知らずにいた。 開戦前から日米戦は必敗に終るという分析がされていたという話は知っていたが、武官だけでなく各分野に渡って幅広く若き英才が集められて、それこそ総力を挙げてシミュレーション分析していたとは思っていなかったのだ。 ドラマが何処まで史実に沿っているかについては、番組内でも注釈があったとおり、あくまでドラマ的構図や場面を引き立てるための潤色が施されているわけだが、そのあたりの勘違いを招かないようドキュメンタリー部分をドラマとは明確に区分して添えてあるところに大いに感心するとともに、いろいろ窮屈な時代になっているのだなと改めて思った。 SNS時代の訪れとともに、世の中には思いの他、断片的物事を真に受ける人々が多い状況を目の当たりにすることになり、ドラマだろうがドキュメンタリーだろうが、報道番組であろうが井戸端会議的バラエティであろうが、インプレ稼ぎの煽情動画であろうが、ほとんど無検証に、ただ自分にとってのインパクトのみで真に受ける人の多さに吃驚している。それに伴い、苦情であれ、誹謗中傷であれ、物言うに憚らぬ風潮が言ったもん勝ちのように蔓延っているから、ドラマであっても、このような番組構成をしなくてはいけなくなっているのだろう。 すると「見応えのあるドラマでしたね。あの猪瀬直樹の原作でしたが、どこまでが史実でどこまでが虚構なのか、分かりませんでしたね。確かに、今でも断片的事実を上手に並べられると、S.N.S.しかり、新聞や週刊誌の記事などを見て鵜呑みにしてしまう観客がいるでしょうね。これだけ情報過多の時代に、もう一度リテラシーを促すような番組でした。」とのコメントが寄せられた。 何処まで史実に沿っているかについては、本作に限らず、ドラマにおける登場人物の言動、人物像は、すべて基本、想像の産物だとしたものだ。総力戦研究所が首相直属機関として設置されていたこと、それに陸軍大臣の意向が強く働いていたこと、民間を含めて幅広く人材が集められて驚嘆すべき研究分析が果されていたこと、といったレベルの事象については史実なのだろうが、観てきたようにものをいうドラマ部分までの詳細な記録は、残っていないように思う。 ましてや人物像であって、残っていたとすれば、記録者による評価が投影されているはずで、史実としては「記録されている」までであって、記録内容がまるまる事実とは限らないと解するべきものだ。記録を足掛かりに解釈するのが資料研究であって、記録内容をまるまる史実と受け取るのも、フェイクだとするのも、かなり幼稚というか、乱暴な扱いだという気がする。 | |||||
by ヤマ '25. 8.23. NHKプラス | |||||
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