五つの断章 |
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1 野辺
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あたたかに夕日にほひ たんぽぽのやはき溜息 野に蒸して甘くちらぼふ さるを女 なにゆゑに汝は泣く |
2 舟歌
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かはたれの秋の光にちるぞえな。 片恋かたこひの薄着のねるのわがうれひ 「曳舟《の水のほとりをゆくころを。 やはらかな君が吐息のちるぞえな。 あかしやの金と赤とがちるぞえな。 |
3 あかき木の実
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あかき木の実ぞほの見ゆる しかはあれども 昼はまた 君といふ日にわすれしか 暗きこころのゆふぐれに あかき木の実ぞほの見ゆる |
4 朝明
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しをらしきすみれの花よ 汝(な)はかなし 色あかき煉瓦の竈(かま)の かげに咲く汝(な)はかなし はや朝明の露ふみて われこそ今し 妹の骨ひろひにと来しものを |
5 希望
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面(かほ)も紅めず うちいでて あまりりす眩ゆき園を 明日こそは 手とり行かまし |
( 2017.04.26 藤井宏行 )