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Four Indian Love Lyrics  
4つのインドの恋歌

詩: ホープ (Laurence Hope,1865-1904) イギリス

曲: ウッドフォルデ=フィンデン (Amy Woodforde-Finden,1860-1919) イギリス 英語


1 The Temple Bells
1 お寺の鐘が

The Temple bells are ringing,
The young green corn is springing,
And the marriage month is drawing very near.
I lie hidden in the grass,
And I count the moments pass,
For the month of marriages is drawing near.

Soon,ah,soon,the women spread
The appointed bridal bed
With hibiscus buds and crimson marriage flowers,
Where,when all the songs are done,
And the dear dark night begun,
I shall hold her in my happy arms for hours.

She is young and very sweet,
From the silver on her feet
To the silver and the flowers in her hair,
And her beauty makes me swoon,
As the Moghra trees at noon
Intoxicate the hot and quivering air.

Ah,I would the hours were fleet
As her silver circled feet,
I am weary of the daytime and the night;
I am weary unto death,
Oh my rose with jasmin breath,
With this longing for your beauty and your light.

お寺の鐘が鳴っている
青いとうもろこしは芽ぶいてる
婚礼の月がもうすぐやってくる
草の陰に寝そべって
ぼくはその日が来るのを数えてる
婚礼の月がもうすぐやってくるのだから

すぐに、ああすぐに女たちが飾るのだ
婚礼のベッドを
ハイビスカスのつぼみと真っ赤な婚礼の花で
そこで、すべての歌が終わったら
そして素敵な暗い夜が始まったなら
ぼくはあの子をこの幸せな腕でずっと抱き続けるんだ

あの子は若くてとっても奇麗
足に付けた銀の飾りから
髪に飾った銀と花の飾りまで
あの子の美しさは私を夢中にさせる
モフラの木が昼の日中
焼け付くような空気の中でかぐわしく香るように

ああ、時がもっと早く過ぎてくれたなら
ちょうどあの子の銀の輪の付いた足のように
僕はへとへとだ、昼も夜も
死ぬまでへとへとだ
おお、ジャスミンの香りのバラのような恋人よ
君の美しさと君の輝きにずっと焦がれ続けているから

2 Less than the Dust
2 埃以下だ

Less than the dust,beneath thy Chariot wheel,
Less than the rust,that never stained thy Sword,
Less than the trust thou hast in me,O Lord,
Even less than these!

Less than the weed,that grows beside thy door,
Less than the speed of hours spent far from thee,
Less than the need thou hast in life of me.
Even less am I.

Since I,O Lord,am nothing unto thee,
See here thy Sword,I make it keen and bright,
Love's last reward,Death,comes to me to-night,
Farewell,Zahir-u-din.

あなたの馬車の下の埃よりも
あなたの刀に決して付くことのない錆よりも
あなたの私に抱いているわずかな愛情よりも、ああ神様
   もっとちっぽけな

あなたの戸口の脇に生える雑草よりも
あなたと離れて過ごす時間の速さよりも
あなたが人生で私を必要としている度合よりも
   もっとちっぽけな私

私はあなたにとって何でもないのだから、
ほら、ここに剣があるわ、私はこれをぴかぴかに砥いだ
愛の最後の報いは、今夜私が迎える死
   さようなら、ザヒルディン

3 Kashmiri song
3 カシミールの歌

Pale hands I loved beside the Shalimar,
Where are you now? Who lies beneath your spell?
Whom do you lead on Rapture's roadway,far,
Before you agonise them in farewell?

Oh,pale dispensers of my Joys and Pains,
Holding the doors of Heaven and of Hell,
How the hot blood rushed wildly through the veins
Beneath your touch,until you waved farewell.

Pale hands,pink tipped,like Lotus buds that float
On those cool waters where we used to dwell,
I would have rather felt you round my throat,
Crushing out life,than waving me farewell!

私の愛したシャリマーよりも白いあの手
今どこにいるのか? 誰に魔法をかけているのか?
誰を喜びの道に導いているのか?
最後は別れのどん底に突き落とすのに

おお、私の喜びと苦しみを分配する白い手は
天国と地獄のドアを掴んでいる
どれほど私の血管の中を激しく血がたぎったことか
お前の触れた手の下で、お前が別れを告げた時には

あの白い手、ピンク色の指、まるで浮かぶ蓮のつぼみのような
私たちが住んでいた冷たい水の上を漂うつぼみ
その手で私の首を絞めて欲しかった
命を砕かれる方が良い、別れにその手を振られるよりは。

4 Till I wake
4 目覚めるまで

When I am dying,lean over me tenderly,softly,
Stoop,as the yellow roses droop in the wind from the South;
So I may,when I wake,if there be an Awakening,
Keep,what lulled me to sleep,the touch of your lips on my mouth.

私が死ぬ時には、私の上にやさしくしなだれて欲しい
黄色い薔薇が南からくる風に吹かれて倒れ掛かるように
そうすれば私が目覚めた時に、もしも目覚めがあればだけれど
私を寝かしつけている、あなたとのくちづけをずっと続けていられるのだから


19世紀末から20世紀初めにかけて、イギリスのヴィクトリア朝からエドワード朝にかけては、イギリスでも東洋に対する関心が非常に高まった頃なのでしょうか。音楽の世界でもインドや中国・日本にインスピレーションを得た作品が色々現れてきています。
この曲もそんな中のひとつに数えられるでしょう。
但し詩も曲のイメージにもインドの情緒は全くありません。1曲目に中近東風のリズムと旋律を取り入れてはいますが、安っぽい映画の主題歌みたいですし、他の3曲は丸っきり西洋の音楽です。
 
この詩が取られた「カルマの庭」という詩集は、イギリス士官の奥さんとしてインドに赴任したローレンス・ホープ (ペンネームで男性の名前ですが本名はヴァイオレット・ニコルソンです)が纏めたもので、これにやはりイギリス士官の奥さんでインドのみならずエジプトやシリア、それに日本にまで来たことのあるというエイミー・ウッドフォルデ?フィンデンが曲を付けました。
4曲の中では3曲目の「カシミールの歌」が有名で、多くのイギリス歌曲アンソロジーにも入っていますので耳にされた方も多いかも知れません。インド風の異国情緒は微塵もありませんが、サロンミュージック風の非常に美しい歌です。
そもそも「カルマの庭 The Garden of Kama」という題名からして怪しさいっぱいですが、この詩集、インドに題材を得て書かれた恋愛詩集で、当時大ベストセラーになったのみならず今でも売られているみたいです(Amazon.comで見つけました)。
作詩者(詩の収集者?)のMrs.ニコルソンは夫の急死のあと後追い自殺したほどの熱烈な情愛の持ち主だったようで、詩も熱い恋の喜び・悩み・苦しみでいっぱいです。
作曲者もそれに共感してか、細やかにも分かりやすい曲を付けました。2人は一度も会ったことはないそうですし、この曲集の楽譜も初めは自家出版だったのだそうですがベストセラーになり、作詩者だけでなく作曲者の方も有名になったようです。
なにより当時の名バリトン、ピーター・ドウソンが録音したのがブレイクのきっかけのようです。

クラシック歌曲というよりは、1903のポピュラーヒットソングという趣ですが、こうして今でも歌い継がれているというのはクラシックと認定しても良いでしょう。
4曲揃って聴けるCDはなかなかありませんが、3曲目と4曲目はHyperionから出ている、この時代の名曲を素晴らしい歌唱で紹介している、ロバート・ホワイトのテノール、ステファン・ホウのピアノによる「Bird Songs at Eventide」が素敵です。
4曲全部であればMeridianレーベルに2つ録音があって、ヘンリー・ヴィッカムのバリトンにスージー・アレンのピアノ伴奏のもの(Pale Hand I LovedというCDのタイトルはカシミールの歌の出だしのフレーズです)と、ロンドンサロンアンサンブルの伴奏にドナルド・マックスウエルのバリトンの録音(Love's Dream)です。
前者は多くのイギリス歌曲集に顔を出している人だけに本格的歌唱で、カップリングのパリー「シェイクスピアの花束」やテニスンの詩によるサマヴェルの連作歌曲集「モード」共々大変渋いイギリス歌曲集になっています。
この歌曲集を味わうのであればこちらでしょう。
後者は歌はいまいちですが、この歌曲集のサロンミュージック的雰囲気を味わうにはなかなか良いと思います。小品として有名なモンティの「チャルダーシュ」やフィビヒの「詩曲」、スヴェンセンの「ロマンス」などの器楽アンサンブルに時折入るゴダールの「子守歌」などの歌曲、その中にこのインドの歌も非常にしっくりと収まっています。
100年前の社交サロンというのもこんな感じだったのでしょうか。 非常に興味深いところです。

( 2003.05.24 藤井宏行 )