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An die ferne Geliebte   Op.98
遥かな恋人に

詩: ヤイテレス (Alois Isidor Jeitteles,1794-1858) オーストリア

曲: ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven,1770-1827) ドイツ ドイツ語


1 Auf dem Hügel sitz ich spähend
1 丘の上に登って座り

  Auf dem Hügel sitz' ich,spähend
  In das blaue Nebelland,
  Nach den fernen Triften sehend,
  Wo ich dich,Geliebte,fand.

  Weit bin ich von dir geschieden,
  Trennend liegen Berg und Tal
  Zwischen uns und unserm Frieden,
  Unserm Glück und uns'rer Qual.

  Ach,den Blick kannst du nicht sehen,
  Der zu dir so glühend eilt,
  Und die Seufzer,sie verwehen
  In dem Raume der uns teilt.

  Will denn nichts mehr zu dir dringen,
  Nichts der Liebe Bote sein?
  Singen will ich,Lieder singen,
  Die dir klagen meine Pein!

  Denn vor Liedesklang entweichet
  Jeder Raum und jede Zeit,
  Und ein liebend Herz erreichet,
  Was ein liebend Herz geweiht!


 丘の上に登って座り、
 青い雲を見つめ、
 遠くの牧場を探すのだ。
 愛する君と始めて会った場所を

 君から遠く離れて、
 僕らの間には山や谷があり、
 それが我々二人を、二人の安らぎや
 幸せや悲しみをも引き離している。

 ああ、このまなざしに君は気付かないのだ
 君を求める僕のまなざしに
 そしてため息も消えてしまうだろう
 この隔たりの中では

 君のところへ届くものは何もないのか、
 愛の便りになるものは?
 僕は歌おう、歌を歌おう
 この嘆きを君に届ける歌を

 何故なら愛を歌う声は、
 この遠い隔たりで消えることがないのだ、
 そして君を愛する心はかなえてくれるだろう。 
 こころから大事にしているものを

2 Wo die Berge so blau
2 そこでは、山々が青く

  Wo die Berge so blau
  Aus dem nebligen Grau
  Schauen herein,
  Wo die Sonne verglüht,
  Wo die Wolke umzieht,
  Möchte ich sein!
  Möchte ich sein!

  Dort im ruhigen Tal
  Schweigen Schmerzen und Qual,
  Wo im Gestein
  Still die Primel dort sinnt,
  Weht so leise der Wind,
  Möchte ich sein!
  Möchte ich sein!

  Hin zum sinnigen Wald
  Drängt mich Liebesgewalt,
  Innere Pein,
  Ach,mich zög's nicht von hier,
  könnt' ich Traute,bei dir,
  Ewiglich sein!


 そこでは、山々が青く
 灰色の霧の中から
 そびえ、見下ろしている、
 太陽の光が消え入るところ、
 雲が集まっているところ
 そこへどうしても行きたい。
 そこへどうしても行きたい。

 静かな谷があり、
 悲しみや苦しみは静まり
 岩の間に
 静かに桜草が憩い、
 風がたおやかに吹く、
 そこへどうしても行きたい。
 そこへどうしても行きたい。

 ここからもの悲しい森へと
 僕を追い立てようとする。愛の情熱や
 この心の苦しみは、
 ああ,私をここから連れ去るものなどありはしない
 いつまでも君の傍にいたいのだ。愛する人よ、
 永遠に!


3 Leichte Segler in den Höhen
3 空高く飛ぶ雲よ

  Leichte Segler in den Höhen,
  Und du Bächlein klein und schmal,
  Könnt mein Liebchen ihr erspähen,
  Grüsst sie mir viel tausendmal.

  Seht ihr Wolken sie dann gehen
  Sinnend in dem stillen Tal,
  lasst mein Bild vor ihr entstehen
  In dem luft'gen Himmelssaal.

  Wird sie an den Büschen stehen,
  Die nun herbstlich falb und kahl,
  Klagt ihr,wie mir ist geschehen,
  Klagt ihr,Vöglein,meine Qual!

  Stille Weste,bringt im Wehen
  Hin zu meiner Herzenswahl
  Meine Seufzer,die vergehen
  Wie der Sonne letzter Strahl.

  Flüstr' ihr zu mein Liebesflehen,
  Lass sie,Bächlein klein und schmal,
  Treu in deinen Wogen sehen
  Meine Tränen ohne Zahl

 空高く飛ぶ雲よ、
 小さい小川よ、
 愛する人を探し出して
 何千という僕の挨拶の言葉を伝えておくれ。

 雲よ、彼女の後を追い
 静かな谷間で憩う彼女の前に
 僕の姿が見えるようにしておくれ。
 神々しい空のもとで

 もし彼女が繁みの傍らに立っているのなら
 秋の葉の落ちかけた繁みの傍に
 彼女に伝えてくれ 私がどうしているか、 
 彼女に伝えてくれ、鳥達よ、この悲しみを

 心和ませる西風よ、やさしいそよかぜで
 僕の変わらぬ気持と、
 僕のため息を伝えてくれ。
 最後の太陽の光のように消えようとしているため息を

 僕の愛の望みをささやいてくれ、
 小さい小川よ、
 さざなみの間に僕の数知れぬ涙が
 流れていることを彼女に話しておくれ。

4 Diese Wolken in den Höhen,Dieser Vöglein muntrer Zug
4 高みにいる雲や、にぎやかな鳥達よ

  Diese Wolken in den Höhen,
  Dieser Vöglein munt'rer Zug
  Werden dich,o Huldin,sehen.
  Nehmt mich mit im leichten Flug!

  Diese Weste werden spielen
  Scherzend dir um Wang' und Brust,
  In den seid'nen Locken wühlen.
  Teilt' ich mit euch diese Lust!

  Hin zu dir von jenen Hügeln
  Emsig dieses Bächlein eilt.
  Wird ihr Bild sich in dir spiegeln,
  Fliess zurück dann unverweilt!


 高みにいる雲や、
 にぎやかな鳥達は
 僕の愛する君を眼にすることが出来るだろう
 僕もあの空へ上りたい。

 西風が戯れるように
 君の頬や胸に吹きかかる
 絹のような巻毛をゆれ動かしている
 僕も君といて一緒にその喜びを感じたい。

 向こうの丘から、
 君のところへ急ぐ小川よ、
 彼女の姿が水面に写ったなら
 遅れず、それを僕のところへ持ってきておくれ。



5 Es kehret der Maien,es blühet die Au
5 五月がきて、牧場は繁り

  Es kehret der Maien,es blühet die Au',
  Die Lüfte,sie wehen so milde,so lau,
  Geschwätzig die Bäche nun rinnen.
  Die Schwalbe,die kehret zum wirtlichen Dach,
  Sie baut sich so emsig ihr bräutlich Gemach.
  Die Liebe soll wohnen da drinnen.
  Die Liebe soll wohnen da drinnen.

  Sie bringt sich geschäftig von Kreuz und von Quer,
  Manch' weicheres Stück zu dem Brautbett hieher,
  Manch' wärmendes Stück für die Kleinen.
  Nun wohnen die Gatten beisammen so treu,
  Was Winter geschieden verband nun der Mai,
  Was liebet,das weiss er zu einen.

  Es kehret der Maien,es blühet die Au',
  Die Lüfte,sie wehen so milde,so lau,
  Nur ich kann nicht ziehen von hinnen.
  Wenn Alles,was liebet,der Frühling vereint,
  Nur unserer Liebe kein Frühling erscheint,
  Und Tränen sind all ihr Gewinnen.


 五月がきて、牧場は繁り
 そよ風がやさしく暖かく吹いて
 小川は音を立てて流れる。
 ツバメは、ねぐらの屋根へ帰ってきて
 花嫁を迎える部屋つくりにいそしんでいる。
 そこには愛が住みつくのだ
 そこには愛が住みつくのだ

 色々な所から運んでくるのに忙しくしている
 柔らかいものをたくさん新婚の寝床に並べ
 暖かいものを子供達のために並べてている
 結ばれたつがいは信じ合って暮らすだろう。
 冬が別れ別れにしていたものを、春が結びつけた。
 春は愛するもの達を結びつけるすべを知っている。

 五月がきて、牧場は繁り
 そよ風がやさしく暖かく吹いているが
 僕だけはここから動くことはない。
 春が愛し合っている全てを結びつけているというのに、
 僕達の愛には春は来ない
 そしてあるものは涙のみ
 そしてあるものは、そうだ、あるものは涙のみ


6 Es Nimm sie hin denn,diese Lieder
6 さあ愛する君よ

  Nimm sie hin denn,diese Lieder,
  Die ich dir,Geliebte,sang.
  Singe sie dann Abends wieder
  Zu der Laute süssem Klang!

  Wenn das Dämm'rungsrot dann ziehet
  Nach dem stillen blauen See,
  Und sein letzter Strahl verglühet
  Hinter jener Bergeshöh',

  Und du singst,was ich gesungen,
  Was mir aus der vollen Brust
  Ohne Kunstgepräng' erklungen,
  Nur der Sehnsucht sich bewusst,

  Dann vor diesen Liedern weichet,
  Was geschieden uns so weit,
  Und ein liebend Herz erreichet,
  Was ein liebend Herz geweiht.
  Und ein liebend Herz erreichet,
  Was ein liebend Herz geweiht.

 さあ愛する君よ、受け取っておくれ。
 以前に歌ったこの歌を
 夕方、リュートの甘い伴奏に合わせて
 もう一度歌っておくれ。

 赤い夕陽が静かな青い湖に
 向って射して行き、
 そして最後の光が
 かなたの山の高みに消える頃に

 そう、君は歌う、僕が歌っていた、
 心の中からほとばしる、
 なんの飾りもない、
 ただ憧れだけがこめられた歌を。

 そして、この歌で消してしまおう
 我々を隔てる邪魔物を
 そして君を愛する心はかなえてくれるだろう。
 こころから大事にしているものを
 そして君を愛する心はかなえてくれるだろう。
 こころから大事にしているものを
 


ベートーベンの「遥かな恋人に《の詩はビーダーマイヤー風というのか、ロマン派の大詩人達と比べると素朴で、私も下手な訳を作ってみて恥ずかしくなるようなものです。ベートーベンのいわゆる「上滅の恋人《にたいする憧憬をぴったり表現している内容であったにしても、どうして、彼がこのような素朴な詩に惹かれたのか、作曲当時の彼の年齢からしても、私にはわからないところがあります。
しかし、もちろんこれは、ベートーベンの作った歌曲の最上のものの一つであり、この曲と後期の作品101のピアノソナタとの関係もよくいわれている。
この曲が、シューマンを限りなく魅了した事も付け加える必要があるでしょう。(ご存知の通り、ピアノのための「幻想曲《、弦楽四重奏2番等を始めとして自作に、この歌曲のテーマの引用がたくさんある)
ここではベートーベンは寡黙でp(ピアノ)で語ることが多いけれど、第1、第2曲は本当にすばらしい。それにまた各歌の簡単なつなぎが素敵です。
この曲は歌手にとっては見せ所がないだけに難しいものでしょう。有吊な割には演奏されない曲という感じがします。さて、私の聞いた演奏は以下の5種、
1. フィッシャーディースカウとデムス(DG)
2. ヘルマン・プライとレナード・ホカンソン(Philips)
3.トマス・ハンプソンとジェフリー・パーソンズ(EMI、1993年のエジンバラ音楽祭でのリサイタルのライブ録音)
4.イリス・フェルミリオンとペーター・シュタム(CPO)
5.ペーター・シュライヤーとアンドラーシュ・シフ(DECCA)

始めて知ったこの曲の演奏がフィッシャーディースカウとデムスによるものなので、それが私の頭に刷り込まれています。
それ以外では、ヘルマン・プライを選びます。彼の明るい声には向かない曲の様に見えますが、これは若者の歌なのです。
(稲傘武雄)99.7/22

以前作成したこの歌曲の詩の訳を使いたいと言う方がおられまして、内容を見直しました。恥ずかしいことにいくつか間違いが見つかり、今回訂正をしました。(稲傘武雄、2003.9.11)

( 2003.09.11 稲傘武雄 )