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6 Duette   Op.63
6つの二重唱

曲: メンデルスゾーン (Jakob Ludwig Felix Mendelssohn,1809-1847) ドイツ ドイツ語


1 Ich wollt,meine Lieb' ergösse (Heinrich Heine)
1 わたしは願う わたしの愛を伝える (ハイネ)

Ich wollt,meine Lieb' ergösse
Sich all in ein einzig Wort,
Das gäb ich den luft'gen Winden,
Die trügen es lustig fort.

Sie tragen zu dir,Geliebte,
Das lieb-erfüllte Wort;
Du hörst es zu jeder Stunde,
Du hörst es an jedem Ort.

Und hast du zum nächtlichen Schlummer
Geschlossen die Augen kaum,
So wird mein Bild dich verfolgen
Bis in den tiefsten Traum.

わたしは願う わたしの愛を伝える
たったひとつの言葉があればいいのにと
それを軽やかな風に乗せれば
風は喜んで運んでゆくだろう

風は君のところへ運ぶんだ、恋人よ
その愛に満ちた言葉を
君はそれをどんな時でも聞くんだ
君はそれをどんなところでも聞くんだ

そして君は夜のまどろみのときでも
ほとんど目が閉じられなくなる
わたしの姿が君につきまとうんだ
深い夢の中にまで

2 Abschiedslied der Zugvogel (August Heinrich Hoffmann von Fallersleben)
2 渡り鳥のお別れの歌 (ホフマン・フォン・ファラースレーベン)

Wie war so schön doch Wald und Feld!
Wie ist so traurig jetzt die Welt!
Hin ist die schöne Sommerzeit,
Und nach der Freude kam das Leid.

Wir wußten nichts von Ungemach,
Wir saßen unterm Laubesdach
Vergnügt und froh beim Sonnenschein,
Und sangen in die Welt hinein.

Wir armen Vöglein trauern sehr:
Wir haben keine Heimat mehr,
Wir müssen jetzt von hinnen fliehn
Und in die weite Fremde ziehn.

何と美しかったことか 森や野原は!
何と寂しいのか 今 世界は!
過ぎ去ってゆくのは美しき夏の日
そして喜びのあとに来るのは悲しみ

われらは何の苦しみも知らず
過ごしていた 木の葉の屋根の下で
満ち足りて幸せだった 太陽の光の下で
そして歌っていた 世界に向かって

われら哀れな鳥たちは嘆くしかない
われらには故郷がないのだから
われらは今 ここを去らねばならぬ
そしてはるか遠くへと行かねばならぬのだ

3 Gruß (Josef Karl Benedikt von Eichendorff)
3 挨拶 (アイヒェンドルフ)

Wohin ich geh' und schaue,
In Feld und Wald und Tal,
Vom Hügel hinauf die Aue;
Vom Berg aufwärts weit ins Blaue,
Grüß ich dich tausendmal.

In meinem Garten find' ich
Viel' Blümchen schön und fein,
Viel' Kränze wohl draus wind' ich
Und tausend Gedanken bind' ich
Und Grüße mit darein.

Dir darf ich keinen reichen,
Du bist zu hoch und schön,
Die müssen zu bald verbleichen,
Die Liebe nur ohnegleichen
Bleibt ewig im Herzen stehn.

どこに行こうと 眺めようとも
野や 森や谷間で
丘から見おろそうと あの牧場を
山から見上げようと 遠くあの青空を
私はお前に挨拶を送ろう 何千回も

庭の中で私は見つける
たくさんの美しく可憐な花たちを
たくさんの花輪をそれで私は編んで
幾千もの思いを私は込め
そして挨拶をそこに添えよう

でもお前に私はそれを渡せはしない
お前があまりに気高く美しいものだから
花たちもすぐに萎れてしまうに違いない
何物にも比べようのないこの愛は
とどめておこう 永遠にこの胸の中に

4 Herbstlied (Karl Klingemann)
4 秋の歌 (クリンゲマン)

Ach,wie so bald verhallet der Reigen,
Wandelt sich Frühling in Winterzeit!
Ach,wie so bald in trauerndes Schweigen
Wandelt sich alle der Fröhlichkeit!

Bald sind die letzten Klänge verflogen!
Bald sind die letzten Sänger gezogen!
Bald ist das letzte Grün dahin!
Alle sie wollen heimwärts ziehn!

Ach,wie so bald verhallet der Reigen,
Wandelt sich Lust in sehnendes Leid.

Wart ihr ein Traum,ihr Liebesgedanken?
Süß wie der Lenz und schnell verweht?
Eines,nur eines will nimmer wanken:
Es ist das Sehnen,das nimmer vergeht.

Ach,wie so bald verhallet der Reigen!
Ach,wie so bald in trauerndes Schweigen
Wandelt sich alle die Fröhlichkeit!

ああ、なんて素早く踊りの輪は終わってしまうの
春が冬のときへと変わってしまうから!
ああ、なんて素早く悲しみの沈黙へと
すべての幸せは変わってしまうの!

すぐに最後の響きが消えるでしょう!
すぐに最後の歌い手もいなくなる!
すぐに最後の緑も枯れるのです
みんな故郷へと帰って行くつもりなの!

ああ、なんて素早く踊りの輪は終わってしまうの
喜びがあこがれる悲しみへと変わってしまうから

あなたは夢、愛の思いよ?
春のように甘く そしてすぐに消えてゆくの?
ただひとつ、ただひとつだけ消えないもの
それはあこがれ、決して褪せないもの

ああ、なんて素早く踊りの輪は終わってしまうの!
ああ、なんて素早く悲しみの沈黙へと
すべての幸せは変わってしまうの

5 Volkslied (Ferdinand von Freiligrath)
5 民謡 (フライリヒラート)

O Säh ich auf der Heide dort
Im Sturme dich,im Sturme dich!
Mit meinem Mantel vor dem Sturm
Beschütz ich dich,beschütz ich dich!

Und kommt mit seinem Sturme je
Dir Unglück nah,dir Unglück nah,
Dann wär dies Herz dein Zufluchtsort,
Gern teilt ich's ja,gern teilt ich's ja.

O wär ich in der Wüste,die
So braun und dürr,so braun und dürr,
Zum Paradiese würde sie,
Wärst du bei mir,wärst du bei mir.

Und wär ein König ich,und wär
Die Erde mein,die Erde mein,
Du wärst in meiner Krone doch
Der schönste Stein,der schönste Stein!

おお もし私があの荒れ地で見たのなら
嵐の中でお前を 嵐の中でお前を
私のマントで その嵐から
私はお前を守るのに、私はお前を守るのに!

そしてその嵐とともに来ようとも
お前に上幸が お前に上幸が
そのときはこの心がお前の避難所となるのだ
喜んで私はこれを分け合おう 喜んで私はこれを分け合おう 

おお 私がたとえ砂漠の中にいようとも
とても荒涼とした砂漠に
そこは天国に変わるだろう
お前が一緒なら お前が一緒なら

そしてもしも私が王で そしてまた
この地上がわがものなら この地上がわがものなら
お前はわが王冠の中でただひとつ
一番美しい宝石なのだ 一番美しい宝石なのだ

6 Maiglöckchen und die Blümelein (August Heinrich Hoffmann von Fallersleben)
6 スズランと花たち (ホフマン・フォン・ファラースレーベン)

Maiglöckchen läutet in dem Tal,
Das klingt so hell und fein;
So kommt zum Reigen allzumal,
Ihr lieben Blümelein!

Die Blümchen blau und gelb und weiß,
Sie kommen all herbei,
Vergißmeinnicht und Ehrenpreis
Und Veilchen sind dabei.

Maiglöckchen spielt zum Tanz im Nu
Und Alle tanzen dann;
Der Mond sieht ihnen freundlich zu,
Hat seine Freude dran.

Den Junker Reif verdroß das sehr,
Er kommt ins Tal hinein;
Maiglöckchen spielt zum Tanz nicht mehr,
Fort sind die Blümelein.

Doch kaum der Reif das Tal verläßt,
Da rufet wieder schnell
Maiglöckchen zu den Frühlingsfest
Und läutet doppelt hell.

Nun hält's auch mich nicht mehr zu Haus,
Maiglöckchen ruft auch mich:
Die Blümchen geh'n zum Tanz hinaus,
Zum Tanze geh' auch ich.

スズランが谷間で鳴り響く
その響きはとても明るく繊細だ
それで踊りの輪へとみなやってくる
おまえたち かわいい花たちが!

その花たちは 青や黄色や白
彼女らはやってくる まわりじゅうから
忘れな草や クワガタソウ
それにスミレたちもこっちへと

スズランは奏でる ダンスの曲をすぐさま
そしてみんなは踊りだす
月は彼らを見下ろす 親しげな様子で
とても楽しそうに

地主の霜さま そいつがとても気に入らなくて
彼は谷間へと踏み込んでくる
スズランは奏でない ダンスの曲はもう
逃げ去ってしまった 花たちも

けれど霜さま 谷間から去れば
急いでふたたび呼びかける
スズランが 春のお祭りにおいでよと
二倊も明るい響きで

さあ ぼくもじっとしてなんて居られない 家になんか
スズランが呼んでいるのだから ぼくにも
花たちが踊りに出かけているんだ
踊りに出かけよう ぼくだって


メンデルスゾーンにも同世代のシューマン同様、大変に魅力的な重唱作品がいくつかあります。残念なことに独唱の歌曲すら一部の作品を除いてほとんど省みられないような状況にあっては演奏者が増える重唱は更に耳にする機会が少なくなり寂しい限りです。そんなわけで私もメンデルスゾーンの重唱作品はあまり知る機会もなかったのですが、このたびバーバラ・ボニーとアンジェリカ・キルヒシュラーガーの初デュエットアルバム“First Encounter”というジャケットのふたりの写真がポップシンガーみたいに見えるCDを聴く機会がありましたら、その冒頭に収録されていたこれら6曲が実に美しく印象的でしたので取り上げてみることとしました。
暗く寂しい秋の歌を2曲挟んで、愛らしい恋の歌が3曲、それに最後にうきうきするような春の歌が続いています。
第1曲目はハイネの詩、たいへんストレートな愛の歌です。ところがこれ、ハイネの原詩を見ると、伝えるのは「私の愛《ではなくて「私の苦しみ《、そいつがお前に付きまとってやるんだ、といういかにも彼らしい呪詛に満ちたものでした。メンデルスゾーンはこれに手を入れて、全く逆の意味にしてしまったのですね。音楽も屈託のない愛の調べです。
第2曲は去り行く渡り鳥に仮託して一年の終わる寂しさを嘆きます。第3曲はアイヒェンドルフのちょっと屈折した愛の歌。原詩では実際はこのあとにもう1節あって、その思いを墓場まで持っていくぞといったことが歌われていますが、メンデルスゾーンはカットしています。
第4曲は再び寂しい秋の歌、「ああ《という溜息が美しく響きます。詩のクリンゲマンは作曲者の友人ということで、メンデルスゾーン歌曲の中でも良く吊前を見かけます。作品84にも彼の詩による秋の歌がありますが詩は別のものでした。
第5曲はバーンズの美しい愛の詩。バーンズの最後の作品のひとつなのだそうですが、病に倒れた詩人とその家族を献身的に助けた女性、ジェシー・ルウォーズ(Jessy Lewars 1778-1855)に捧げられたものです。ロシア語訳されたものにはショスタコーヴィチが曲をつけていますが、ドイツ語訳の方はフライリヒラート、メンデルスゾーンやシューマンがトマス・ムーアやこのバーンズの詩による歌曲を書いた際に、このフライリヒラートが独訳したものをよく用いています。
最後はうきうきする春の歌。情景描写が素敵ですね。音楽もデュエットの美質を見事に活かして爽やかにこの楽しい春の野原のダンスを描き出しています。

( 2010.11.22 藤井宏行 )