Tre sonetti di Petrarca S.270 |
3つのペトラルカのソネット |
1 Pace non trovo,e non ho da far guerra
|
1 平和が見つからず、さりとて戦う気にもならず
|
E temo,e spero,ed ardo,e son un ghiaccio: E volo sopra 'l cielo,e giaccio in terra; E nulla stringo,e tutto 'l mondo abbraccio. Tal m'ha in priggion,che non m'apre,né serra, Né per suo mi ritien,né scioglie il laccio, E non m'uccide Amor,e non mi sferra; Né mi vuol vivo,né mi trahe d'impaccio. Veggio senz'occhi; e non ho lingua e grido; E bramo di perir,e cheggio aita; Ed ho in odio me stesso,ed amo altrui: Pascomi di dolor; piangendo rido; Egualmente mi spiace morte e vita. In questo stato son,Donna,per Voi. |
恐れ また希望し、燃えては氷となり、 空高く飛ぶかと思えば地上で凍える 何も持たないが 世界を抱いている 僕を牢獄に入れ、開放しなければ閉じ込めもしない。 自分のものだとも言わず、だが縄は解かず 殺しもせず、愛は 自由にもせず、 生かしておこうともせず、枷をはずしてもくれない。 目がないのに見ようとし、口がないのに叫ぼうとする、 死を望みながら、命乞いをし 自分が嫌になりながら、他人を愛している。 苦しみを糧として、泣きながら笑い、 死も生も同じようにいとおしい、 こんな私にしたのは、奥様、あなたなのです。 |
2 Benedetto sia 'l giorno,e 'l mese,e l'anno
|
2 祝福あれ、あの日、あの月、あの年
|
E la stagione,e 'l tempo,e l'ora,e 'l punto E 'l bel paese e 'l loco,ov'io fui giunto Da'duo begli occhi che legato m'ànno; E benedetto il primo dolce affanno Ch'i' ebbi ad esser con Amor congiunto, E l'arco e la saette ond' i' fui punto, E le piaghe,ch'infino al cor mi vanno. Benedette le voci tante,ch'io Chiamando il nome di Laura ho sparte, E i sospiri e le lagrime e 'l desio. E benedette sian tutte le carte Ov'io fama le acquisto,e il pensier mio, Ch'è sol di lei,si ch'altra non v'ha parte. |
あの季節、あの時間、あの時、あの一瞬 あの場所で私は捕われたのだ 美しい二つの目に、そしてあなたの奴隷となった。 また祝福あれ、はじめて知ったあの甘美な苦しみに、 それに私は苦しむ 愛に圧倒されつつ 私を射当てたあの弓に祝福あれ、 そして私の心臓にまで達したあの傷に。 祝福あれ、多くの声 私がラウラの吊を何度も叫んだあの声に、 そしてため息と涙とあこがれに。 また祝福あれ、すべての恋文に ただ彼女のことだけを胸にわずらい、 彼女だけしか見ることのできない私の想いに。 |
3 I' vidi in terra angelici costumi
|
3 私はこの地上で天使の姿を
|
E celesti bellezze al mondo sole; Tal che di rimembrar mi giova,e dole: Che quant'io miro,par sogni,ombre,e fumi. E vidi lagrimar que' duo bei lumi, Ch'han fatto mille volte invidia al sole; Ed udì' sospirando dir parole Che farian gir i monti,e stare i fiumi. Amor! senno! valor,pietate,e doglia Facean piangendo un più dolce concento D'ogni altro,che nel mondo udir si soglia. Ed era 'l cielo all'armonia s'intento Che non si vedea in ramo mover foglia. Tanta dolcezza avea pien l'aer e 'l vento. |
比類なき美をこの目で見た。 それを想うと嬉しくなり、悲しくもなる。 目に見えるものはすべて、まるで夢か幻のようだ。 また、太陽を何度も嫉妬させた、 あの二つの美しい目から涙がこぼれるのを見た。 そして大地を揺らぐほどの言葉が、 ため息と共に語られていた。 愛が! 知が! 徳・憐れみ・そして悲しみが、 泣きながら甘美な音楽をかなでたのだ、 それはこの地上におけるどの美しい音楽よりも甘美だった。 そして大空はそのハーモニーに耳を澄まし、 枝の上の木の葉一枚とてそよぎもしない。 それほどの甘美さが、この地上全てを覆っていたのだ。 |
リストの「三つのペトラルカのソネット《は、ピアノ曲としても「巡礼の年
第2年・イタリア《に含まれているものである。実際にペトラルカの詞に
作曲されたこの歌曲は、ピアノ曲と同一のメロディラインを奏でるものの、
ピアノ曲ほど激しくは音楽は揺さぶられない。1本のメロディを基本として
丹念に展開された音楽であるとも言える。
曲想は詞の内容と同様、甘美な雰囲気でおおわれている。歌手もピアノパート
も技術的に難しいこの曲を甘美さとともに表現しなければ、この音楽から何も
汲み取ることはできないであろう。この曲に要求されるものはそのくらい高い
のである。しかしそれが実現できる演奏に出会えると、この曲の素晴らしさが
見えるだけでなく、作曲家リストが歌曲において実に高い理想像を描いていた
かが理解出来るのではないかと思う。
そのせいか、この曲が収められているCDは少ない。演奏会で取り上げられる
ことも滅多にないであろう。
純粋におすすめできるのは、
フィッシャー=ディースカウ(Br)、ダニエル・バレンボイム(P)
のDGへの録音だろう。原曲の調が高いため、ディースカウは原曲より4度
下げて歌っているが、それでも最高でAの音が出てくる。しかしディースカウ
は、この詞そして曲の持つ甘美さを十二分に表現している。聴いている方が
とろけてしまうような、素晴らしい歌唱がここでは聴ける。バレンボイムの
ピアノも実に美しい。
もう一つ
アルフレート・クラウス(T)、エデルミロ・アルナルデス(P)
CAPRICCIO 10272
も是非お聴き頂きたい。残念ながら、アルナルデスのピアノパートに全く表情
がなく、伴奏の域を出ていないのが惜しまれるが、クラウスの歌唱がそれを
補うかのごとく、本当に素晴らしい。原調で歌っているので高音の連続となる
この曲を、全く力みを見せず、軽やかに気品高く歌いきっている。1曲目にお
いては3点Dが出てくるが、全く苦しさを感じさせず、当たり前のごとく気高い
歌を聴かせている。リストの求めた通りの歌唱で、さらに原調のまま歌える
テノール歌手は、現在ではクラウス以外には見当たらないであろう。
このディスクを録音したのが1989年であるから、当時でもクラウスはもう
還暦を過ぎていたことになる。それでもこれだけの歌を聴かせるクラウスとは、
いったいどんな声帯の持ち主なのであろうか。
ちなみにクラウスはこの曲をリサイタルでも取り上げており、FMで放送され
たことがあった。この時のクラウスは曲順をNo123→104→47と、逆
に歌っていて、最後に3点Dを朗々と響かせていた。私はこのときのテープを
今も大事に持っている。
( 1999.03.07 Hisato )