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Vier ernste Gesänge   Op.121
4つの厳粛な歌

詩: 聖歌 (Hymn,-) 

曲: ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897) ドイツ ドイツ語


1 Denn es gehet dem Menschen wie dem Vieh
1 獣にきたるがごとく人にもきたるものなれば

Denn es gehet dem Menschen wie dem Vieh;
wie dies stirbt,so stirbt er auch;
und haben alle einerlei Odem;
und der Mensch hat nichts mehr denn das Vieh:
denn es ist alles eitel.

Es fährt alles an einem Ort;
es ist alles von Staub gemacht,
und wird wieder zu Staub.
Wer weiß,ob der Geist des Menschen
aufwärts fahre,
und der Odem des Viehes unterwärts unter
die Erde fahre?

Darum sahe ich,daß nichts bessers ist,
denn daß der Mensch fröhlich sei in seiner Arbeit,
denn das ist sein Teil.
Denn wer will ihn dahin bringen,
daß er sehe,was nach ihm geschehen wird?


獣にきたるがごとく人にもきたるものなれば
獣が死せるごとく、人も死すべきものなり
すべてのものは同じ息を持ち
人といえども獣にまさることなし
なぜなら一切は空虚なればなり

すべてのものはひとつの場所に向かう
みな塵より出でて
そして再び塵に帰る
誰が知ろう 人の魂が
天へと昇り
そして獣の息が
地の底に下るか否かなど

ゆえに我は見たり、これに勝れるものなしと
人は己が仕事のもとにおきて幸いなることを
これぞ人の分限なり
なぜなら誰も人をかの地へと導き
人にその行く末を見せることあたわざれば

2 Ich wandte mich und sahe an
2 我は振り返りそして見たり

Ich wandte mich und sahe an
Alle,die Unrecht leiden unter der Sonne;
Und siehe,da waren Tränen derer,
Die Unrecht litten und hatten keinen Tröster;
Und die ihnen Unrecht täten,waren zu mächtig,
Daß sie keinen Tröster haben konnten.

Da lobte ich die Toten,
Die schon gestorben waren
Mehr als die Lebendigen,
Die noch das Leben hatten;
Und der noch nicht ist,ist besser,als alle beide,
Und des Bösen nicht inne wird,
Das unter der Sonne geschieht.

我は振り返りそして見たり
太陽のもとで上正に苦しむすべての者たちを
そして見よ、そこで涙を流す者たちの涙を
彼らは上正に苦しみ慰める者とていない
そして彼らに上正をなす者はあまりに強大なれば
誰も彼らを慰めることあたわざり

ゆえに我は死者を讃えん
もう既に死せる者たちを
生ける者よりも
いまだ生き続ける者たちよりも
然れどもなお未だ生まれざる者はそのいずれよりも幸いなり
かかる悪しきことを未だ見ざれば
この太陽のもとでなされる悪しきことを

3 O Tod,wie bitter bist du
3 おお死よ、なんと汝は苦きことか

O Tod,wie bitter bist du,
Wenn an dich gedenket ein Mensch,
Der gute Tage und genug hat
Und ohne Sorge lebet;
Und dem es wohl geht in allen Dingen
Und noch wohl essen mag!
O Tod,wie bitter bist du.

O Tod,wie wohl tust du dem Dürftigen,
Der da schwach und alt ist,
Der in allen Sorgen steckt,
Und nichts Bessers zu hoffen,
Noch zu erwarten hat!
O Tod,wie wohl tust du!

おお死よ、なんと汝は苦きことか
汝のことを人が考えるときには
その人が善き日々を送り
悩みごとなく暮らし
万事がつつがなく
食べることにも困らぬときに
おお死よ、なんと汝は苦きことか

おお死よ、なんと汝は貧しき者には心地よきものか
か弱き者や年老いたる者には
あまたの悩みの中に投げ込まれ
もはや何もより良きものを望むことあたわず
期待することあたわざる者には
おお死よ、なんと汝は貧しき者には心地よきものか

4 Wenn ich mit Menschen und mit Engelszungen redete
4 たとえわれが人間の、また天使の言葉で語ろうとも

Wenn ich mit Menschen und mit Engelszungen redete,
Und hätte der Liebe nicht,
So wär' ich ein tönend Erz,
Oder eine klingende Schelle.
Und wenn ich weissagen könnte,
Und wüßte alle Geheimnisse
Und alle Erkenntnis,
Und hätte allen Glauben,also
Daß ich Berge versetzte,
Und hätte der Liebe nicht,
So wäre ich nichts.

Und wenn ich alle meine Habe den Armen gäbe,
Und ließe meinen Leib brennen,
Und hätte der Liebe nicht,
So wäre mir's nichts nütze.

Wir sehen jetzt durch einen Spiegel
In einem dunkeln Worte;
Dann aber von Angesicht zu Angesichte.
Jetzt erkenne ich's stückweise,
Dann aber werd ich's erkennen,
Gleich wie ich erkennet bin.

Nun aber bleibet Glaube,Hoffnung,Liebe,
Diese drei;
Aber die Liebe ist die größeste unter ihnen.

たとえわれが人間の、また天使の言葉で語ろうとも
そこに愛がなかりせば
それは鳴り響く銅鑼と
あるいは鳴り響く鈴と同じものなり
たとえわれが予言をなす力を持ち
あらゆる秘密を知り
あらゆる知識を持っていようとも
そしてまたあらゆる信仰心
山をも動かす信仰心を持っていようとも
そこに愛がなかりせば
われは無に等しき者

たとえわれが貧しき者へと我が持てる物をみな施そうとも
我が身を燃やさせようと
そこに愛がなかりせば
みなわれには無意味なことなり

われらは今 鏡を通して見る
謎めいた言葉もて
だが時来たれば顔と顔を見合わせる
今われが知るのは断片なれど
その時には知ることになる
われが今知られているのと同じ程に

永遠に残りしものは信仰、希望、愛
この三つなり
だが愛こそがこの中でもっとも尊きもの


ブラームス最晩年の作品として知られる「四つの厳粛な歌《は彼の死の前年1896年の作品。この頃彼は親しかった人を次々と亡くしておりましたので、これらの人々の追悼として書いたという説もあるようですが真相はよく分かりません。少なくともこの年5月のクララ・シューマンの追悼式のときにはブラームスによって歌われたようですが。
歌詞はすべてブラームスが座右の書としていたドイツ語口語訳の聖書より。第1曲と第2曲は旧約聖書、伝道者の書 (Ecclesiastes)よりそれぞれ第3章の最後の部分(19~22節)とすぐ後の4章 1~3節。いずれもまるで仏教の教えのようなしみじみとした諦観が印象的な詩です。第3曲も旧約聖書ですが、本編ではなくて外典の「シラクの書《の第41章より取られています。これは通常の聖書には含まれず、カソリックでのみ正典として認められているのだそうです。
第4曲のみは新約聖書より。コリント人への手紙第一の13章、冒頭の1~3節と、それから真ん中を抜いて最後の12~13節を取り上げています。前3つの曲とのテーマの違いもさることながら、ここでの音楽の陽気ささえ感じさせる軽快さには驚かされます。といっても決して破目を外しているというわけではないのですが、このロマンティックなメロディはまるでラブソングのようにも聴こえます。
そうとは言いながらも、ここで歌われている「愛《というのは日本人がよく混同して勘違いしがちな「性愛《ではないことに注意しなくてはならないでしょう。ドイツ語の原詩ではLiebeを使っていますが、私のたまたま見た英語対訳ではこれにLoveではなくCharityをあてていました。私の訳ではうまく言い表せておりませんが、この「チャリティ《といったニュアンスがこの歌の要です。
もっともこの言葉も日本では慈善募金程度の感覚に捻じ曲げられているような感もありますので、日本人にはこの言葉の適切なニュアンスを理解するのはやはり難しいのかも知れません。

( 2009.05.05 藤井宏行 )