The rain it raineth every day Op.65-3 The Clown's Songs from Twelfth Night |
雨が毎日降るからさ ”十二夜”の道化の歌 |
When that I was and a little tiny boy, With hey,ho,the wind and the rain, A foolish thing was but a toy, For the rain it raineth every day. But when I came to man's estate, With hey,ho,the wind and the rain, 'Gainst knaves and thieves men shut their gate, For the rain it raineth every day. But when I came,alas! to wive, With hey,ho,the wind and the rain, By swaggering could I never thrive, For the rain it raineth every day. A great while ago the world begun, With hey,ho,the wind and the rain, But that's all one,our play is done, And we'll strive to please you every day. |
おいらがちっちゃなガキだったころ、 ヘイ・ホウ、風に雨、 馬鹿をやろうが大ごとにならなかったもんだ、 なぜって雨が毎日降るからさ。 でもおいらが大人になった時、 ヘイ・ホウ、風に雨、 悪さや盗みをしたら扉を開けてくれなくなった、 なぜって雨が毎日降るからさ。 おいらが、ああ、女房を娶ったら、 ヘイ・ホウ、風に雨、 ふんぞり返って見せようが効き目なしときたもんだ、 なぜって雨が毎日降るからさ。 むかしむかし、この世が始まった、 ヘイ・ホウ、風に雨、 でもどうでもいい、芝居はこれまで、 そして俺たちゃ皆様を来る日も来る日も楽しまそうとするまでさ。 |
「十二夜」の締めとして道化フェステが歌う歌である(第5幕第1場)。この詩の出来栄えについては過去のシェイクスピア研究者たちの評判が悪いらしいが、人の一生を順に並べて人の行いは自然の摂理に従っているに過ぎないという一つの見解を道化に軽く歌わせているのはなかなか意義深いような気がする。各節2行目と4行目がリフレインとなっているが、一見ナンセンスに思える雨降りのくだりは人生のあらゆる事象は自然現象の一部として片付けてしまえるのだというシェイクスピアの人生観なのかもしれない。入り組んだ人間関係の引き起こした「十二夜」という喜劇は結局「雨が毎日降るからさ」の一言で済まされてしまう。トレヴァー・ナン監督の映画でベン・キングズレーが哀愁たっぷりの歌と演技で締めくくるところが強く印象に残っている(フェステが主役かと錯覚してしまうほど)。安西徹雄編注の「十二夜」(大修館)にシェイクスピア時代にこの詩に作曲された可能性のある楽譜が掲載されているので興味のある方は御覧いただきたい。
スタンフォードSir Charles Villiers Stanford(1852.9.30-1924.3.29)の歌曲といえば”La Belle Dame sans merci”がイギリス歌曲アンソロジーに含まれているぐらいでイギリス以外ではあまり知られていないのではないだろうか。この「雨が毎日降るからさ」は「”十二夜”の道化の歌Op. 65」(全3曲:1896年10月完成、1897年出版)の第3曲で、他は有名なフェステの歌”O mistress mine”(第1曲)と”Come away,death”(第2曲)である。
スタンフォードの曲では全5節中第4節が省かれているが、これは彼だけでなく、クィルター(Op. 23-5)やコルンゴルト(Op. 29-5)も同様に第4節を省いて4節からなる歌曲として作曲しているのが面白い。省かれた本来の第4節は「おいらが床についた時、酒飲み連中といつも酔っ払い」と歌われ、「床につく」というのが「死」を暗示しているという解釈もされている。
スタンフォードの曲は各節軽快だが短調の変形有節形式で成っている。リズミカルなピアノにのって早口言葉のように進むが、ときおり一つの音節に装飾的なメロディーが付けられるメリスマで飾られる(特に各節最後の”rain”はメリスマで強調されている)。風雨の暗示であると同時に人生を軽く笑い飛ばしているかのようだ。また同じく各節最終行の”day”の音節内で(おそらく)3度下行するのはもったいぶった講釈を垂れているような感じを出そうとしているのかもしれない。華やかな後奏が締めにふさわしい。
ヴァーコウStephen Varcoe(BR)&ベンソンClifford Benson(P):Hyperion:1999年10月:2枚のスタンフォード歌曲アルバムを録音したヴァーコウは、その声のあたたかい温度感がとても心地よい。ベンソンは美しい音色で変幻自在に作品を構築していく、いいピアニストだ。
ロルフ・ジョンソンAnthony Rolfe Johnson(T)&ジョンソンGraham Johnson(P):Hyperion:1991年2月:シェイクスピア歌曲のアンソロジーを若々しい美声で編み上げたロルフ・ジョンソンは、ここでゆっくり目のテンポで各節の表情の変化を丁寧、繊細に歌い分けている。ジョンソンのピアノも節ごとの弾き分けがよく考えられている。
ちなみにスタンフォードはKarel Drofnatskiという名義でも曲を書いており、最近出たブリン・ターフェル&マーティノーの「サイレント・ヌーン」というアルバムで聴くことが出来る。
( 2005.07.18 フランツ・ペーター )