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Trost   Op.62-29  
  Das Holdes Bescheiden
慰め  
     歌曲集「善き慎み」

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Trost

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Ja,mein Glück,das lang gewohnte,
Endlich hat es mich verlassen!
- Ja,die liebsten Freunde seh' ich
Achselzuckend von mir weichen,
Und die gnadenreichen Götter,
Die am besten Hülfe wüßten,
Kehren höhnisch mir den Rücken.
Was beginnen? werd ich etwa,
Meinen Lebenstag verwünschend,
Rasch nach Gift und Messer greifen?
Das sei ferne! Vielmehr muß man
Stille sich im Herzen fassen.

Und ich sprach zu meinem Herzen:
Laß uns fest zusammenhalten!
Denn wir kennen uns einander,
Wie ihr Nest die Schwalbe kennet,
Wie die Zither kennt den Sänger,
Wie sich Schwert und Schild erkennen,
Schild und Schwert einander lieben
Solch ein Paar,wer scheidet es?
Als ich dieses Wort gesprochen,
Hüpfte mir das Herz im Busen,
Das noch erst geweinet hatte.

そうだ、長いこと慣れきっていた幸せが
ついにわたしを見限ってしまったのだ!
・・・そう、親しい友もわたしを見て
肩をすくめて立ち去ってゆく
そして慈悲深い神、
一番の頼みの神さえも
わたしを嘲り背を向ける
どうすればいい? いっそのこと
この人生を呪い
さっさと毒か短刀でも手にするか?
早まるな! それより
心を落ち着かせるのだ

そこで自分の心に語りかけた:
しっかり手を取り合おう!
僕らは良く知った仲じゃないか
燕がその巣を知るように
チターが歌手を知るように
剣と楯が互いに良く知り
楯と剣が睦み合うように
この仲を誰が裂けると言うんだい?
こんな言葉をかけると
心はわたしの胸で喜び跳ねた
さっきまで泣いていたくせに


 ドイツリートの詩を読んでいて、日本人の感覚と違うなと思うことのひとつに、自分の意思と心を独立したものとする考え方があります。シューベルトの『冬の旅』などに頻出する「おお、わが心よ」といった呼びかけは日本語に無いだけに自然に訳するのは困難ですが、考えてみると確かに人間には意思ではコントロールしきれない感情というものがあります。何かを決断しなければならない状況に直面して迷うとき、自分の本心は何なのだと考えることがありますが、それこそが「おお、心よ」の感覚なのでしょうか。このメーリケの詩では、その自分と心との関わりが擬人化されユーモラスに描かれています。シェックの作曲は例によってテキストを誠実に音にしようとするもの。二種の全集盤での演奏は、フィッシャー=ディースカウももちろん素晴らしいですが、ボストリッジの軽やかな歌は大変好ましいです。

( 2005.06.05 甲斐貴也 )


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