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A vucchella    
 
かわいい口もと  
    

詩: ダンヌンツィオ (Gabriele d'Annunzio,1863-1938) イタリア
      A vucchella

曲: トスティ (Francesco Paolo Tosti,1846-1916) イタリア   歌詞言語: イタリア語


Si,comm'a nu sciorillo
tu tiene na vucchella
nu poco pocorillo
appassuliatella.

Meh,dammillo,dammillo,
- e comm'a na rusella -
dammillo nu vasillo,
dammillo, Cannetella!

Dammillo e pigliatillo,
nu vaso piccerillo
comm'a chesta vucchella,

che pare na rusella
nu poco pocorillo
appassuliatella...
ああ 小さな花のような
可愛い口だね
ほんのちょっとだけ
しおれてるけれど

ぼくにそれをおくれ おくれ
小さなバラのようなその口で
ぼくに口づけておくれ
さあ カンネテッラ!

口づけてくれればぼくも返そう
小さなくちづけ
君の口のように小さなのをね

小さなバラのように可愛い口
ほんのちょっとだけ
しおれているけれど


三島由紀夫やヴィスコンティなどとも縁の深いイタリアの大詩人・耽美的なダヌンツィオの詩に付けたトスティの歌曲はたくさんあり、そのすべてがとても魅力的な作品ですが、ナポリの方言で書かれたこの詩に付けた曲は他の繊細な曲とは少々趣きを異にしています。イタリアの往年の名歌手たち、ティト・スキーパやディ・ステファノ、フランコ・コレルリなどの歌う管弦楽伴奏によるこの歌はまるで小粋なナポリの小唄。実際ナポリ民謡集のようなレコードに一緒に収録されていることも多く、その熱いカンタービレに痺れます。
この俗っぽさを極限まで追求することによって実に素晴らしい歌にしてくれているのがアメリカで大活躍していたマリオ・ランツァ。彼の録音がこの曲に関しては私のベストチョイスです。

さて、歌詞は上で書きましたようにナポリ方言...
手持ちの安いイタリア語の辞書には載っていないような言葉ばかりで非常に難儀しました。
中でも一番困ったのは、”appassuliatella”の訳語。多くの対訳では(英語でも日本語でも)これに「枯れた」とか「しおれた」の言葉を充て、ほんの一部のみが「情熱的」の語を充てています。
恋人の唇の描写に「枯れた」もないもんだろう(張り倒されそう...)と思うのですが、この詩を取り上げながら少し詳しくナポリ方言を解説していたサイトでもappassuliatella=appassitaとなっていましたので、疑問を残しつつも「しおれた」の語を当てておきました。まあ、もしかしたら熟年カップルがしみじみと愛を語る、という歌かもしれないので。

ということで、あまり格調高く訳すとしっくりこないので、ちょっと稚拙な感じを出してみました。
(「いつもお前の訳は稚拙だろう」っていうツッコミはナシですよ)
風呂で鼻歌混じりに歌うのが多分この歌の正しい楽しみ方、とさえ思います。

( 2005.05.14 藤井宏行 )


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