早春の風 |
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けふ一日(ひとひ)また金の風 大きい風には銀の鈴 けふ一日また金の風 女王の冠さながらに 卓(たく)の前には腰を掛け かびろき窓にむかひます 外吹く風は金の風 大きい風には銀の鈴 けふ一日また金の風 枯草の音のかなしくて 煙は空に身をすさび 日影たのしく身を嫋(なよ)ぶ 鳶色(とびいろ)の土かをるれば 物干竿は空に往き 登る坂道なごめども 青き女(をみな)の顎(あぎと)かと 岡に梢のとげとげし 今日一日また金の風…… |
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きれいな詩ですね。これを見ているだけでも自然に音楽が聞こえるような。
それだけにこれにメロディを付けるのはとても勇気が要るように思えます。
中原中也の詩を読んでいると、ヴェルレーヌやランボーなどのフランス詩の雰囲気をとても強く感じ、詩だけ読んでも音楽の響きが聴こえてくるかのよう。
海潮音で上田敏が評している「ヴェルレエヌに至りて音楽の声を伝え」を日本の詩では中也に強く感じるのです。
インドネシア人を父に、日本人を母に持つピアニスト&作曲家、フェビアン・レザ・パネさんは、環境音楽からジャズ、前衛音楽に至るまで幅広い活躍をしていますが、そんな彼が付けたこの曲は歌姫・おおたか静流さんのしみじみした歌唱もあいまってとても素敵。
ただそんな彼も、いくつかの節ではメロディーを付けずに詩をそのまま朗読させています。でもおかげで印象的な冒頭のメロディが繰り返し響き絶妙の美しさとなりました。まだ目覚めぬ早春の自然が目の前に広がってきます。
中原中也生誕祭である4月29日に、山口にある中原中也記念館はこの10年あまり、中也の詩に付けた曲の紹介や詩の朗読を行う試みを続けているのだそうで、その中からよりすぐりを選んだベストアルバムとして「サーカス」というCDが作られています。
その冒頭に収められたこのうた、確かにそれだけの力のある傑作だと私は思いました。
( 2005.04.11 藤井宏行 )