水上(みなかみ) 三つの無伴奏混声合唱曲 |
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水上(みなかみ)は思ふべきかな。 苔清水湧きしたたり、 日の光透きしたたり、 橿(かし)、馬酔木(あしび)、枝さし蔽ひ、 鏡葉(かがみは)の湯津真椿(ゆづまつばき)の真洞(まほら)なす 水上は思ふべきかな。 水上は思ふべきかな。 山の気の神処(こころど)の澄み、 岩が根の言問(ことと)ひ止み、 かいかがむ荒素膚(あらすはだ)の 荒魂(あらみたま)の神魂(かみむす)び、神つどへる 水上は思ふべきかな。 水上は思ふべきかな。 雲、狭霧、立ちはばかり、 丹(に)の雉子(きぎし)立ちはばかり、 白き猪(ゐ)の横伏し喘(あへ)ぎ、 毛の荒物のことごとに道塞(ふた)ぎ寝(ぬ)る 水上は思ふべきかな。 水上は思ふべきかな。 清清(さわさわ)に湧きしたたり、 いやさやに透きしたたり、 神ながら神寂(さ)び古る うづの、をを、うづの幣帛(みてぐら)の緒の鎮もる 水上は思ふべきかな。 水上は思ふべきかな。 青水沫(あをみなわ)とよたぎち、 うろくづの堰(せ)かれたぎち、 たまきはる命の渦の 渦巻の湯津石村(ゆづいはむら)をとどろき揺る 水上は思ふべきかな。 |
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白秋の詩集「海豹と雲」冒頭のセクション「古代新頌」の一番初めにある詩です。古事記や日本書紀を題材にしたちょっと言葉が難しい詩ですが柴田は堂々たる西洋風のアンセムにしています。
( 2017.07.02 藤井宏行 )