山中節 |
|
ハア 忘れしゃんすな 山中路(みち)を 東ゃ松山 西ゃ薬師 ハア 送りましょうか 送られましょうか せめて二天の 橋までも ハア 山が高うて 山中見えぬ 山中恋しや 山憎や |
|
石井歓さんの日本民謡編曲の特徴はその精緻な味わいでしょうか。フォーレやドビュッシーが書いたかのようなその繊細な響きは、民謡の持つ土臭さをあまり感じさせない不思議なものになっているように思います。関定子さんの歌う日本民謡集でもしっとりと丁寧に歌われており、特にこの山中節(石川)。温泉街のお座敷などで歌われるひそやかな恋の鞘当てのような洗練された歌なので、石井歓さん編曲のスタイルにピッタリはまった作品ではないでしょうか。ピアノの表すしんしんと降る北国の雪、その雪に溶けて消え行くように静かに歌われる声。昔は宿には湯屋はなく宿泊客は街の共同浴場に行ったのですが、彼らの着物を外で預かっている役割の娘(浴衣女:ゆかたべ)がいて、元は彼女たちによって歌い継がれた歌なのだそうです。
冬の加賀路の温泉街に静かに響く歌声。私は残念ながら北陸の冬を体験したことはないのですが、寒さの中にも暖かい情緒に触れるようでほっとします。
石井歓さんの編曲では、他に「貝殻節(鳥取)」のほか「ずいずいずっころばし」と「お月様いくつ」のわらべうたが2曲、関さんの民謡集には収録されています。
( 2005.01.12 藤井宏行 )