Erinna an Sappho Op.62-22 Das Holdes Bescheiden |
エリンナよりサッフォーへ 歌曲集「善き慎み」 |
“Vielfach sind zum Hades die Pfade”,heisst ein Altes Liedchen - “und einen gehst du selber, Zweifle nicht!” Wer,suesseste Sappho,zweifelt? Sagt es nicht jeglicher Tag? Doch den Lebenden haftet nur leicht im Busen Solch ein Wort,und dem Meer anwohnend ein Fischer von Kind auf Hoert im stumpferen Ohr der Wogen Geraeusch nicht mehr. - Wundersam aber erschrak mir heute das Herz. Vernimm! Sonniger Morgenglanz im Garten, Ergossen um der Baeume Wipfel, Lockte die Langschlaeferin (denn so schaltest du juengst Erinna!) Frueh vom schwueligen Lager hinweg. Stille war mein Gemuet; in den Adern aber Unstet klopfte das Blut bei der Wangen Blaesse. Als ich am Putztisch jetzo die Flechten loes'te, Dann mit nardeduftendem Kamm vor der Stirn den Haar- Schleier teilte,- seltsam betraf mich im Spiegel Blick in Blick. Augen,sagt ich,ihr Augen,was wollt ihr? Du,mein Geist,heute noch sicher behaus't da drinne, Lebendigen Sinnen traulich vermaehlt, Wie mit fremdendem Ernst,laechelnd halb,ein Daemon, Nickst du mich an,Tod weissagend! - Ha,da mit eins durchzuckt' es mich Wie Wetterschein! wie wenn schwarzgefiedert ein toedlicher Pfeil Streifte die Schlaefe hart vorbei, Dass ich,die Haende gedeckt aufs Antlitz,lange Staunend blieb,in die nachtschaurige Kluft schwindelnd hinab. Und das eigene Todesgeschick erwog ich; Trockenen Augs noch erst, Bis da ich dein,o Sappho,dachte, Und der Freundinnen all, Und anmutiger Musenkunst, Gleich da quollen die Traenen mir. Und dort blinkte vom Tisch das,schoene Kopfnetz,dein Geschenk, Koestliches Byssosgeweb,von goldnen Bienlein schwaermend. Dieses,wenn wir demnaechst das blumige Fest Feiern der herrlichen Tochter Demeters, Moecht ich _ihr_ weihn,fuer meinen Teil und deinen; Dass sie hold uns bleibe (denn viel vermag sie), Dass du zu frueh dir nicht die braune Locke moegest Fuer Erinna vom lieben Haupte trennen. |
『冥界への道はいくつもあるが』と言います ある古謡は・・・『そのひとつをお前も歩んでいる。 疑うことなかれ!』 魅惑的なサッフォー様、誰が疑うでしょうか? 一日一日がそれを語ってはいないでしょうか? しかし浮世の人々はそのような言葉を ほんの少ししか気にかけませんし 子供の頃から海辺に住む漁師の無感動な耳には 潮騒はただの物音に過ぎないのです ・・・しかし今日、私の心に不思議で、驚くべきことが起こりました 聞いてください! 庭で明るく朝が輝き 樹々の梢が眼を楽しませ 明け方、寝苦しい床から誘い出しました 寝坊娘を(この間こう言って私を叱りましたね!) 心は平静でしたが、青白い頬の下で 血は落ち着きなく脈打っていました 化粧台で髪を解き、松香油のついた櫛で 額を覆う髪を二つに分けると ・・・奇妙なことに鏡の中の私の眼と眼が合ったのです 眼よ、私は言いました、お前は何が欲しいの? お前、私の霊魂よ、今日はまだ私の中に棲み 生き生きとした思考と親しく結びついているのに なんと他人行儀な真面目さで、半ば微笑み、デーモンのように 私に会釈するのか、死を予言して! ・・・おお、その時私に稲妻のように閃きが走ったのです! 命を奪う黒い羽の矢がこめかみを 危うくかすっていくようでした。 私は顔を覆い長いこと動揺していました 恐ろしい夜の深淵を見下ろしすくんで そして自分の死の運命について考えていました 初めは眼も乾いていましたが おおサッフォー様、あなたを そしてお友達みなのことを そして典雅な詩神の芸術に思いをいたすと すぐに涙が溢れてきました すると離れたテーブルからあなたが贈って下さった 美しい髪飾りがきらめいたのです 金色の蜜蜂が群れ飛ぶ柄のあの高価な亜麻織物が もうすぐ開かれる、デメーテルの高貴な娘の花の祭りで これを奉納することにします あなたと私の分として あの方が私たちを好いていて下さいますように (あの方は色々なことが出来ますから) あなたがエリンナのため褐色の巻き毛を愛らしい頭から切る日が あまりにはやく来ることのないように * )サッフォー=前612年頃〜前570年頃 古代ギリシア最大の女流詩人。 * )デメーテル=豊穣の女神 |
メーリケの詩集に収められた原詩の冒頭には、メーリケ自身によるエリンナの紹介文が掲載されています。
「エリンナ、紀元前600年、古代ギリシャの誉れ高い女流詩人。レスボス島ミティレーネのサッフォーの弟子にして友。19歳の若さで亡くなった。最も名高い作品は叙事詩『糸巻き』だが、その詳細は知られていない。そもそも彼女の詩で残っているのは、数行のわずかな断片と、三つのエピグラムだけである。彼女のために二つ像が建立され、数人の著者による彼女を称えるエピグラムがギリシャ詩華集に含まれている。」
しかし実際にはエリンナは紀元前400年頃の詩人とされ200年も前のサッフォーとの師弟関係はありません。19歳の若さで亡くなったという説も根拠の無いもので、これらの誤った情報は9世紀後半に書かれたギリシャの文学辞典『スーダ』によるものとされています。
とは言え、古代ギリシャの伝説的な女流詩人二人の交友という美しい伝説によって書かれたこの作品は魅力的です。モーツァルトを主人公としたメーリケの短編小説『プラハへの旅』やそこに挿入された詩『それを思え、おお魂よ!』で描かれた早世の宿命のモチーフが、ヘルダーリンの『ヒュペーリオン』を思わせる書簡形式で仕上げられています。
シェックの作曲はレチタティーヴォ風のもので、ストーリーをドラマティックに表現しています。演奏はクラーヴェスの全曲盤での白井さんが万全の名演です。
( 2004.12.02 甲斐貴也 )