琴の音 |
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梨の花 月にこぼれて 千里(ちさと)まで霞む春の夜 岸に沿ひ流るゝ琴の 二つなき響きをきゝぬ 古き世の物語めき 美しき追憶(おもひで)となる 琴の音はみそらにのぼる まどかなる月の叢雲 人の世はあやにくのもの 心憎き今宵の業も 弾く人は弾くとも思はず きく人はきくとも知らず ただ響くむねの創痍(いたで)に 反響(こだま)する清掻(すががき)のおと 幽(かす)かなれど漂ふわたり けしきだち荒野と成りぬ |
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( 2017.01.22 藤井宏行 )