臨終 |
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秋空は鈍色にして 黒馬の瞳のひかり 水涸れて落つる百合花 ああこころうつろなるかな 神もなくしるべもなくて 窓近く女の逝きぬ 白き空盲ひてありて 白き風冷たくありぬ 窓際に髪を洗へば その腕のやさしくありぬ 朝の日は澪れてありぬ 水の音したゝりてゐぬ 町々はさやぎてありぬ 子等の聲もつれてありぬ しかはあれ この魂はいかにとなるか? うすらぎて 空となるか? |
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以前ご紹介しました「朝の歌」と同時期に中也とのスルヤ同人での交流から生まれた歌曲です。詩は諸井のために書き下ろされ、のちに詩集「山羊の歌」に収録されています。
( 2016.10.21 藤井宏行 )