TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


In der Herberge   Op.7-3  
  Drei Lieder
宿屋にて  
     3つの歌曲

詩: ハイルマン (Hans Heilmann,1859-1930) ドイツ
      静夜思 原詩: Li Tai-Po 李大白

曲: シェック (Othmar Schoeck,1886-1957) スイス   歌詞言語: ドイツ語


Vor mein Bett wirft der Mond
Einen grelle Schein.
Ich wähne,es ist Frühreif,
Was am Boden glänzt;
Hebe das Haupt und schau'
In den leuchten Mond,
Senke das Haupt und denk'
An mein Heimatland.

わが寝床の前に月が昇り
明るい光を注ぐ
私は思った これは初霜が
土に降りて光っているのかと
頭を上げて眺める
輝く月を
頭を垂れて思う
我が故郷を

これは学校でも習う、中国は唐の時代の大詩人・李白のとても有名な詩ですね。
例によって一度ヨーロッパの言語になったものをまた日本語に戻すと細かいニュアンスが失せてとても詰まらないものになりますので原詩を載せてみましょう。

牀前(しょうぜん)、月光を看る
疑うらくは是、地上の霜かと
頭(こうべ)を上げて山月を望み
頭を低れて(たれて)故郷を思う
           静夜思〜李白

スイスの作曲家オトマール・シェックは、20世紀の人にも関わらず、ゲーテやアイヒェンドルフ、ハイネなどの詩に歌を付けた、ドイツリートの世界では重要な作曲家のひとりです。作風は本当に古典的、シューベルトの曲と言われたら信じてしまいそうなスタイルですが、それはつまりとても魅力的なメロディーを書いているということ。フィッシャーディースカウはじめ現代の名歌手たちも結構取り上げている作曲家ではあります。

また、同郷でほぼ同時代の文豪、ヘルマン・ヘッセの詩にもたくさん曲を付けていることも見逃せません。これだけの魅力を持ち、国内盤もちらほら出てはいるのですがなかなかメジャーになれないのは非常に惜しいと思う作曲家のひとりです。
さて、この曲、シェックが20歳そこそこの1900年代に作曲されたもののようです。この頃と言えば、マーラーの大地の歌はじめ、東洋情緒溢れる作品がたくさん現れてきた時期、この曲もそんな中華風の味付けを期待しますがさにあらず、フォーレやシューマンの作った月の光を歌った歌のような透明感溢れる静謐な曲でありました。

ピアノの高音部での和声が有名なドビュッシーのピアノ曲「月の光」の冒頭を思わせる伴奏にささやくような声が絡み、最後は長いピアノの後奏で静かに終わります。
シェックの歌曲を精力的に録音しているスイスのバリトン、N.ベルクは、ヘルマンプライを思わせるような暖かい美声でこの曲を聴かせてくれます(Jecklin)。

( 2002.10.23 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ