せめて死の時には 盲目の秋 |
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せめて死の時には、 あの女が私の上に胸を披(ひら)いてくれるでせうか。 その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや、 その時は白粧(おしろい)をつけてみてはいや。 ただ静かにその胸を破いて、 私の眼に輻射してゐて下さい。 何にも考へてくれてはいや、 たとへ私のために考へてくれるのでもいや。 ただはららかにはららかに涙を含み、 あたたかく息づいてゐて下さい。 ──もしも涙がながれてきたら、 いきなり私の上にうつ俯して、 それで私を殺してしまつてもいい。 すれば私は心地よく、うねうねの暝土(よみぢ)の径を昇りゆく。 |
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盲目の秋
( 2010.11.26 藤井宏行 )