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Lachen und Weinen   Op.59-4 D 777  
 
笑いと涙  
    

詩: リュッケルト (Friedrich Rückert,1788-1866) ドイツ
    Wanderung - 4. Vierter Bezirk. Östliche Rosen  Lachen und Weinens Grund

曲: シューベルト (Franz Peter Schubert,1797-1828) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Lachen und Weinen zu jeglicher Stunde
ruht bei der Lieb auf so mancherlei Grunde.
Morgens lacht' ich vor Lust;
und warum ich nun weine
bei des Abendes Scheine,
ist mir selb' nicht bewußt.

Weinen und Lachen zu jeglicher Stunde
ruht bei der Lieb auf so mancherlei Grunde.
Abends weint' ich vor Schmerz;
und warum du erwachen
kannst am Morgen mit Lachen,
muß ich dich fragen,o Herz.

いっときいっとき笑って泣くのも
恋するならばいろんな理由があるものさ。
朝には僕は喜びで笑っていたのに、
なぜ今は夕日の中で
泣いているのか
僕にだってわからない。

いっときいっとき泣いて笑うのも
恋するならばいろんな理由があるものさ。
夜には僕は痛みに泣いていたのに
どうして君は
朝には笑って目覚めることができるのか
僕は君に訊いてみなくちゃ、ねえ、心さん。


この曲も、シューベルト歌曲選集には必ず入っている有名な曲で、
歌われる機会も多いです。
冒頭には「速めに」という指定もあるし、音楽が一見明るいので、
人生いろいろあるさ、面白おかしく生きるのよ、という感じで受け取られがちです。

でも、Op.59の1曲目からずっと見てきたあなたなら、
「ん? なんか感じが違うぞ?!」と思われるのでは?

私は、この曲がOp.59の最後に置かれているのを知ったときには、
ショックを受けました。

1曲目で救いようのないフラレ方をし、2曲目で彼女の残り香を追い求め、
3曲目で心の中の永遠の彼女に救いを見、で、この4曲目です。

このようにストーリーを仕立てると(詩自体は連作ではありませんからね)、
・憧れの彼女には絶対に近づけない
・でも、憧れを捨てる気はさらさらない
・人生に絶望して死のうとも思わない

報われない愛も、そこから受ける苦しみもぜーんぶ受け止めて、
妥協もせず、気持ちをごまかしもそらしもせず、それが人生だと
全部引き受ける、という事になりますね。

そういう状況での「笑いと涙」なのです。
普通、悲しかったら悲しみを忘れようとしたり、他の喜びで
気を紛らわそうとします。

この主人公は、そんなこと一切しない。
胸を引き裂かれる悲しみは一生つきまとうだろうけれども、あえてそれを甘受する、
憧れも抱き続けたままだし、喜びはだからいっそう強烈かもしれない。

そういう覚悟を感じます。
「足しも引きもしない」・・・なんか、ウイスキーの広告にありませんでしたっけ?

そして、こんなストーリーを仕立ててしまったシューベルトって、
実は本当の愛の人かもしれない、と思ったのでした。

以前キューブラー・ロスの本を読んでいて
「理由があるから愛するなんていうのは、本当の愛じゃない。
それではお金をもらって愛を売る売春婦と同じだ」
という文に、頭をガツン!となぐられたような衝撃を受けたことがあります。

そっかー、本物の愛には、理由がないんだ・・・。
今、このOp.59の4曲全体を通してみて、確かに一人の女性(?)への愛だけど、
根本的に理屈や打算抜きの愛に、ロスの説く愛と共通した物を感じました。

*読解のポイント

1行目”jeglicher”= “jeder” “zu jeglicher Stunde” で「いつなんどきでも」

第1文の主語は “Lachen und Weinen” 「笑いと涙というもの」
動詞は “ruht” どこに? ”auf so mancherlei Grunde”
“bei der Lieb” 「恋の状態では」

3行目 “lacht'“ = “lachte”
“Morgen” “Abend” に ”s” が語尾に付くと”morgens” 「朝に」”abends” 「夕に」
という副詞になります。

4?6行目、文の骨格だけ取り出すと
“warum ich nun weine,ist mir nicht bewusst.”
普通の語順なら
“Es ist mir nicht bewusst,warum ich nun weine.”

6行目”selb'“ は “selbst” の省略形。

9行目”weint'“ は “weinte” の省略形。

10?12行目 普通の語順なら “Ich muss dich fragen,warum du am Morgen
mit Lachen erwachen kannst. “

12行目の “o,Herz” は直接の呼びかけなので、10行目の “du” は “Herz” です。

作品59 最初の曲へ あなたは僕を愛していない D 756b(Op.59-1)

メールマガジン「歌曲つれづれ」より許可を頂いて転載いたしました

( 2010.09.21 Pianistin )


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