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Es sungen drei Engel einen süßen Gesang    
  Des Knaben Wunderhorn
三人の天使がやさしい歌を歌ってた  
     子供の不思議な角笛

詩: 少年の不思議な角笛 (Des Knaben Wunderhorn,-) ドイツ
    Des Knaben Wunderhorn,Band 3 61 Armer Kinder Bettlerlied

曲: マーラー,グスタフ (Gustav Mahler,1860-1911) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Es sungen drei Engel einen süßen Gesang,
mit Freuden es selig in dem Himmel klang.
Sie jauchzten fröhlich auch dabei:
daß Petrus sei von Sünden frei!
Von Sünden,von Sünden,
von Sünden frei!

Und als der Herr Jesus zu Tische saß,
mit seinen zwölf Jüngern das Abendmahl aß,
da sprach der Herr Jesus: “Was stehst du denn hier?
Was stehst du denn hier?
Wenn ich dich anseh’,so weinest du mir,
so weinest du mir!”

Und sollt’ ich nicht weinen,du gütiger Gott,
ich hab’ übertreten die zehn Gebot!
Ich gehe und weine ja bitterlich!
Ach komm' und erbarme dich!
Ach komm' und erbarme dich über mich!

“Hast du denn übertreten die zehen Gebot,
so fall’ auf die Kniee und bete zu Gott!
Bete zu Gott nur alle Zeit,
so wirst du erlangen die himmlische Freud’!”

Die himmlische Freud’ ist eine selige Stadt,
Die himmlische Freud’ die kein End' mehr hat,
kein End' mehr hat,
die himmlische Freude war Petro bereit’t
durch Jesum und allen zur Seligkeit!

三人の天使がやさしい歌を歌ってた
喜びに満ちて歌は幸せに天国に響いてた
彼らは嬉しそうに歓声をそこで上げていた
ペトルスは今や罪から自由なのだ!
罪から 罪から 
罪から自由なのだ!

そして主イエスがテーブルに着かれ
彼の十二の弟子たちと共に晩餐をお取りになったとき
そこで主イエスはおっしゃった:「なぜお前はそこに立っているのだ?
なぜお前はそこに立っているのだ?
私が見たところ、お前は涙を
お前は涙を流しているようだな!」

どうして私が泣かずにおられましょう、御身 慈愛に満ちた神よ
私は十の戒めを踏みにじってしまいました!
ですから私はさまよいながら激しく泣くのです!
ああ 来てお慈悲を!
ああ 来てお慈悲を私にお与えください!

もしもお前が十の戒めを踏みにじったのならば
膝をついて神に祈るのだ!
神に祈るのだ ただ いかなる時も
そうすればお前は天上の喜びが得られるであろう!

天上の喜びは祝福された町
天上の喜び、それには限りがない
それには限りがない
天上の喜びはペトロに与えられた
イエスを通じて 万人を救いへといざなう!


この曲は管弦楽編曲されず、この歌曲集を取り上げる際には省かれることが普通です。もともとは交響曲第3番の第5楽章に取り上げられていた児童合唱が「ディン・ドン」と鐘の音の口真似で賑やかな中、女性合唱によって歌われるもので、そちらの方で良く知られている音楽となっています。私ももっぱらこの交響曲の中でこのメロディは聴きなじんでおり、ピアノ伴奏の形で聴くことができたのはアメリカのバリトン、トマス・ハンプソンが歌っている録音だけです。このCD,吹き込まれたのはそれほど古い訳でもないと思うのですが、「世界初録音」というクレジットがありました。ライナーを良く読んでみると、この曲が「少年の不思議な角笛」歌曲として出版されたときのピアノ伴奏はマーラーのオリジナルではなく、ヨーゼフ・フォン・ヴェースという人の手になる編曲版であり、それがずっと最近まで広く流布していたというのがこの「世界初録音」の理由のようです。もっともめったに演奏されないこの曲ゆえ、そのヴェース版がどのようなものであるかは私にはわからないのではありますが。

詩の題材は新約聖書でおなじみの最後の晩餐の場面、イエスの弟子ペテロとの会話です。「マタイ伝」や「ヨハネ伝」などで伝えられている内容はこのようなものではなく、まだペテロもこの晩餐のときは自分が罪を犯していることを自覚してはいなかったようなので、これは民間伝承の中で生まれたオリジナルですが、素朴な信仰のあり方が感じられるようでなかなか魅力的です。
ペテロ自身の悲しみにも関わらず、冒頭の音楽は救済された彼を祝福するがごとくうきうきと楽しげです。結婚式の入場にでも使えそうな華やかなマーチ、ところがペテロが自らの罪を嘆く部分はしっとりと翳りを見せます。
この翳りの部分のメロディ、ご存知の方は多いでしょうけれども、交響曲第4番の終楽章に使われた同じ「少年の不思議な角笛」からの「天国の暮らし」、その第2節目で「私たちは無垢の子羊を死へと追いやってしまった」と歌っているところに使われたメロディがそっくりそのまま現れてきています。
つまりこの両曲は深い意味のつながりがあるわけですね。詩の内容的にも非常に納得できる音楽の転用です。

この原詩の角笛での題名は“Armer Kinder Bettlerlied” 日本語にすると「哀れな子供の乞食の歌」とでもなりますでしょうか。タイトルと詩の内容との関係もまた意味深長ですね。

(2010.08.11)

この曲は最後の部分がマーラーの新全集の歌詞では従来のものと大きく違っています。女声合唱と少年合唱の掛け合いが複雑に絡む交響曲第3番では歌詞を色々なパートが分担していますがそれを独唱に落とす時にどれを残し、どれを伴奏に渡して歌詞を削るかは大変に悩ましいところ。
新全集版では上掲のように原詩そのままですが、従来の版(恐らく上で触れたヴェース編曲版)では、1行目のDie himmlische Freud’ ist eine selige Stadtが省略されて、残りの行が一行ずつずれ、最後のdurch Jesum und allen zur Seligkeitが2回繰り返されます。つまり版によってメロディに付く歌詞が全然違っているのですね。ハンプソンの録音が上の歌詞ですが、Youtubeにはこの一行ずれた版で歌われたものも韓国の歌手の方のがアップされておりましたので聴き比べて見ることもできます。

訳詞改訂

( 2012.08.31 藤井宏行 )


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