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Ich bin der Welt abhanden gekommen    
  Fünf nach Ruckert
私はこの世に忘れられて  
     5つのリュッケルトの詩による歌曲

詩: リュッケルト (Friedrich Rückert,1788-1866) ドイツ
    Lyrische Gedichte - 3. Drittes Buch. Liebesfrühling  Ich bin der Welt abhanden gekommen

曲: マーラー,グスタフ (Gustav Mahler,1860-1911) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Ich bin der Welt abhanden gekommen,
Mit der ich sonst viele Zeit verdorben,
Sie hat so lange nichts von mir vernommen,
Sie mag wohl glauben,ich sei gestorben!

Es ist mir auch gar nichts daran gelegen,
Ob sie mich für gestorben hält,
Ich kann auch gar nichts sagen dagegen,
Denn wirklich bin ich gestorben der Welt.

Ich bin gestorben dem Weltgetümmel,
Und ruh' in einem stillen Gebiet!
Ich leb' allein in meinem Himmel,
In meinem Lieben,in meinem Lied!

私はこの世に忘れられた。
私はこの世とともに多くの時間を費やしてきたが、
今やこの世では私の事を聞かなくなって久しい。
私は死んでしまったとこの世では思っているだろう。

この世が私が死んでしまったと思っても、
私には関係ないことだ。
またそれに対して否定もできない。
それは私がこの世から本当に死んでしまったからだ。

私はこの世の喧燥から死んでしまい、
静かなる地で安らいでいる。
私はひとりで己の平安のなかに、そして
己の愛と歌のなかに生きている。

この厭世感とも、自己閉塞とも、単なるいじけ(笑)ともとれるリュッケルトの歌詞。
特別優れた歌詞とは思わないが、それに音楽を付けたマーラーにはよほど切実たる想いがあったのだろう。
一聴すればわかるが、アダージェットもどきの音楽のなかにその孤独感、不安と諦め、平安への悟りが見事に結実している。
筆者は特に「静かなる地に安らいでいる」の節の音楽には心を揺さぶらざるをえない。
「stillen(静かなる)」に付された透明感ある音楽は、彼岸への憧れとともにこの世に対する諦めきれぬ哀しみをも感じ、実に素晴らしい。


やはりこの曲の名盤はフィッシャー=ディスカウ&バーンスタイン(ピアノ)かなと思うが、やや言葉を語りすぎてるきらいはある。ただ読みはさすがに凄い。「私のこの世の喧燥から死んでしまい」の段から若干テンポを落とすあたりは大いに賛同。ここから視点は彼岸の空へと変わるのだから。
しかしその成層圏のごとき澄み切った音を見事に奏でたのはジャネット・ベイカーとバルビローリ盤(CDC 7 47793 2)。この繊細なソット・ヴォーチェはあまりにも感動的だ。

( 1998.08.09 丸田和彦 )


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