なやましき晩夏(おそなつ)の日に |
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なやましき晩夏の日に 夕日浴び立てる少女の 餘念なき手に揉まれて やはらかににじみいでたる 色あかき爪くれなゐの花 |
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1925年、20歳そこそこの橋本が書いた最初の歌曲のひとつです。しごくおとなしい洋風のリートですが、メロディは陶酔的に美しく、彼の歌曲の中でも比較的取り上げられることが多い曲かと思います。
この詩を2回繰り返しますが、一回目は長調で穏やかに、二回目は短調がかってテンポも速くなってやや寂しげに、最後は「爪くれなゐの花」の「花」を何度も繰り返し余韻を残しつつ終わります。
白秋の詩も「晩夏の」や「少女」・「くれなゐ」という言葉の選び方になんとなく洋風の味が感じられて、ここに立っている少女は浴衣ではなくて麦藁帽子にワンピースの感じが私はしましたが皆様はいかがでしょうか。
ただここで取り上げられている爪くれなゐの花とはおそらく沖縄の「てぃんさぐの花」や朝鮮の「鳳仙花」と同じホウセンカの花なんでしょうね。伝統的な遊びの情景を描いたものではあります。
このちょっとしたバタ臭さをさりげなく、しかし美しく演奏してくれているのは実は関さんでも藍川さんでもなくて鮫島有美子さんだったりします。彼女の日本の歌はけっこう日本の抒情とかいって大々的にプロモートされていますが、今回改めて橋本作品をいろいろこの3人で聴き比べてみると、伴奏のヘルムート・ドイチュの力もあるのでしょうが一番西洋風のテイストが強いのです。結果的に橋本国彦の西洋にルーツを持つ部分が強く出てきて非常に面白い聴きものとなりました(鮫島有美子/ヘルムート・ドイチュ「日本歌曲選集3」:コロムビア)。あらためてそういう耳で彼女の歌を聴くと、山田耕筰でも中山晋平でもとても面白いです。
( 2007.01.01 藤井宏行 )