Schwarzschattende Kastanie Op.60-24 Das stille Leuchten |
黒い蔭落すカスターニエ 歌曲集『静かなる輝き』 |
Schwarzschattende Kastanie, mein windgeregtes Sommerzelt, du senkst zur Flut dein weit Geäst, dein Laub,es durstet und es trinkt, schwarzschattende Kastanie! Im Porte badet junge Brut mit Hader oder Lustgeschrei, und Kinder schwimmen leuchtend weiß im Gitter deines Blätterwerks, schwarzschattende Kastanie! Und dämmern See und Ufer ein und rauscht vorbei das Abendboot, so zuckt aus roter Schiffslatern ein Blitz und wandert auf dem Schwung der Flut,gebrochen Lettern gleich, bis unter deinem Laub erlischt die rätselhafte Flammenschrift, schwarzschattende Kastanie! |
黒い蔭落すカスターニエ 風にはためく私の夏の天幕 お前は広げた枝を流れにおろし 渇いた葉に水を呑ませる 黒い蔭落すカスターニエ! 船着で悪戯小僧たちが水と戯れ 喧嘩をし歓声をあげる 子供たちは白く輝き泳ぐ 葉蔭のつくる格子模様の中で 黒い蔭落すカスターニエ! そして湖と岸辺が暮れなずみ 夕方の舟便が音立てて過ぎ その赤い船燈が明滅すると 煌めきは波の動きの上を渡り 流れがねじまがった文字をつくって お前の葉の下で消える その謎めいた輝く炎 黒い蔭落すカスターニエ! |
カスターニエは我が国ではセイヨウトチノキと呼ばれる木で、ドイツなどヨーロッパでは最も一般的な街路樹。フランス語名のマロニエの方が通りが良いでしょう。夏に大きく葉が茂って日陰を作り、秋には落葉して日当たりが良くなります。栗のような実がなりますが、ほとんど食用にはならず、ドングリのように子供のおもちゃになっているようです。また、カスターニエの涼しい木陰で飲むビールは最高ということで、ビアガーデンに植えられているそうです。
さてこの詩はマイヤー詩の中でも名高いもののひとつで、ホーフマンスタールは「ローマの泉」「宴の終わり」とともにこの詩を絶賛しています。確かに光と影の描写が印象的ですし、特に後半の光と水の動きが不思議な文字と炎になり消えていくという部分のイマジネーションは素晴らしく、とても19世紀の詩人の作品とは思えません。リルケなど20世紀の詩人が影響を受けたというのもうなずけます。なお、シェックの楽譜では6行目の「船着」”Porte”が「公園」”Parke”になっており、中嶋忠宏氏はシェックの誤読と推測しています(名古屋大学言語文化部言語文化論集『シェックのマイヤー歌曲を読む』)。
シェックの作曲は例によって水の流れを表現するアルペジオに乗った朗唱風のものですが、そのゆったりとうねるような音楽は詩の内容にふさわしく大変に魅力的です。
演奏は克明・精緻なフィッシャーディースカウ(クラーヴェス)の他、より素直に歌った流れの良いヘドヴィク・ファスベンダー(イェックリン)も良いです。
( 2006.12.24 甲斐貴也 )