祭もどり 日本の笛 |
|
祭もどりに お月さんとはぐれ わたしゃ お母ちゃん 恋の闇 |
|
もう各地の秋祭りも終わってしまったところでしょうか。今や妙齢の女性など村の祭にはほとんどいなくて、お年寄りだけで細々と維持しているようなところが多いのかも知れないですが、その昔は村祭といえば若者たちの一大イヴェントであったのでしょう。
今でも夏の花火大会とかでは気合を入れた浴衣姿のハイティーンくらいの女の子などを見かけますけれども、そんな感じの華やいだ雰囲気が村のお祭でもきっと見られたのだと思います。
そして祭の終わったあとはお決まりのシーン。ここで「お月様とはぐれ」とあるのはもちろん祭のあとのお楽しみ。月の光の届かないところで何をするのかはご想像にお任せしますが、きっとイイことでしょう。ウブなこの娘さんはすっかりメロメロになってしまいました。月が隠れてしまった暗闇と、恋を初めて知った心の不安をうまくかけています。
平井康三郎の代表作のひとつともいえる歌曲集「日本の笛」の冒頭を飾る傑作。日本情緒の表出が実に見事です。白秋のこの詩は八丈島の暮らしを題材にしたのだとか。でも詩も音楽もかつての日本のどこにでもありそうな情景ですね。
この歌曲集「日本の笛」、この手の歌を歌わせたら並ぶもののないとさえ思える関定子さんの録音がありますが、私はむしろ音楽の友社から出ている「平井康三郎 自ら歌う「日本の笛」・「酒の歌」」という1996年のライブ録音のCDを最近聴いてその素晴らしさに打ちのめされてしまいました。確かに80歳を過ぎた歌手ですらない作曲家に歌のうまさや声の艶などを求めることはできませんが、この枯れた淡々とした歌声がなぜかこの曲にピッタリとマッチして、まるで「船村徹・自作演歌を歌う」みたいな味わいです。5曲目の「あの子この子」なんて聴いていて涙が出てきました。伴奏も塚田佳男さんですから万全です。
こんな感じの自作を歌うコンサート、中田喜直や大中恩のような人がやったとしたらちょっと違うような気がしますから、それくらいこの平井康三郎という人の作風が日本歌曲の世界においても特異な位置を占めていたということなのでしょうね。若山牧水の短歌に付けた酒の歌も素晴らしいです。
くしくも今日11/2は白秋忌(1942没)なのだそうです。それも意識してUPしますが、この歌曲集、これから季節の情景に合わせてちょくちょくご紹介して行きたいな、と思います。
( 2006.11.02 藤井宏行 )