寂靜(じゃくじょう) |
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熟(つ)えて落ちたる果(このみ)かと、噫(ああ)見よ 空に 日は搖(ゆら)ぎ、濃くも腐(あざ)れし光明は 喘ぎ黄ばみて灣(いりうみ)の中に滴り 波に溶け 波は咽びぬたゆたげに 磯回(いそわ)のすゑの圓石(まろいし)はかくれてぞ吸ふ 飽き足らひ耀(かがや)き倦める夕潮を 石の額は物うげの瑪瑙のおもひ かくてこそ暫時(しばし)を深く照らしぬれ 風にもあらず 浪の音 それにもあらで、 天地(あめつち)は一つ吐息のかげに滿ち 沙(いさご)の限り彩もなく暮れてゆくなり たづきなさ――わが魂は埋(うづも)れぬ こゝに朽ちゆく夜の海の香(にほひ)をかぎて 寂靜の黒き眞珠(またま)の夢を護らむ |
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( 2019.10.06 藤井宏行 )