C FP 122 Deux poèmes de Louis Aragon |
セー ルイ・アラゴンの2つの詩 |
詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください
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ぼくはいくつものセーの橋を渡った それがすべての始まりだった 過ぎ去った昔の歌は 傷ついた騎士のことを語っていた ...(中略)... ロワール川はぼくの思いを 転覆した貨車と一緒に押し流していく 弾を抜かれた銃や 拭いきれない涙も一緒に おおフランスよ、見捨てられたものたちよ ぼくはいくつものセーの橋を渡った (著作権のため一部のご紹介です) |
プーランクの書いた第二次世界大戦にまつわる作品の中でも最も良く知られ、そして最も良く聴かれる作品でしょうか。彼の歌曲の中でも、いや彼のすべての作品の中でも屈指の傑作ではないかと私は思っています。
非常に美しい、ひそやかな悲しみをたたえたメロディが、静かに、そっと静かに繰り返されます。
セーの橋というのはパリの南西部、ロワール川にかかっている4つの橋。中州を含めると延長3kmにも及び、その道沿いに家が立ち並んで集落になっているのだといいます。それでこの橋を含めた全体がLes ponts de Ce(レポンドセー:セーの橋)と呼ばれる町の名前になっています。古くから戦略上の要衝として幾多の戦争を経験してきており、その歴史の思い出が歌の中でも「昔の歌は語っている Une chanson des temps passes parle」 と振り返られています。ひとしきり過去の回想が続いたあと、詩人は現実に引き戻されます。第二次大戦でもこのセーの橋はドイツ軍との激戦を経験しており、詩人が橋を渡っているのはきっとその戦争が終わったあとの荒れ果てたセーの橋なのでしょう。ロワール川には残骸が流れ、橋の上には武装解除された捕虜たちがいる。拭いきれない涙というのは戦争に敗れた悔しさというよりは、またこんな悲惨な戦争を繰り返してしまったことへの悔悟の涙でしょうか。
「おおフランスよ、見捨てられたものたちよ O ma France ô ma délaissée
」の見捨てられたものたちとは、この戦争に苦しんだすべての人たちのことでしょうか。
詩の全部を載せられないのが残念ですが、岩波文庫の「フランス名詩選」に原詩と共に対訳が載っていますのでぜひご覧いただければ幸いです。
プーランク歌曲集だけでなく、単独で取り上げられることも多いこの曲ですからたくさんの名唱を聴くことができますが、戦後すぐの1945年12月に収録されたピエール・ベルナックのバリトンに作曲者自身のピアノ伴奏のEMIの歌曲全集に収録されているものは必聴でしょうか。訥々としたなかににじみ出てくる悲しみは彼らの至芸で一層心を打たれます。
( 2006.05.03 藤井宏行 )