第12回 球面半導体!(続)

最近しばらくホームページを更新していなかったのですが、さぼっていたわけではありません(笑)。
今は新作のアプリケーションを作っている最中で、まだ完成度は30%ぐらいでしょうか、そんなわけで発表するネタが無いだけです。

とはいっても、新しいMacintosh(わーいG3だー)を買ったうれしさから、ついついいろんなソフトを試してみる時間が多くなってしまい、プログラミングの時間が削られていることも事実です。また68KMacのときは、重くてしょうがなかったWEBブラウザがいとも軽々と動くようになり、ネットをうろつく(net surfing)時間も増えたようです。

いいわけはこのぐらいにしておいて(笑)、本題へと行きましょう。前回の雑談で話題にした球面半導体を開発している会社のWEBサイトを久しぶりに訪れたら、日本語による情報が提供されるなど、かなり内容が強化されていました。

その最新の成果によれば、性能評価用のMOSダイオードとPN接合ダイオードを作りこんだボールを作り出すことに成功したとのことで、当初の予定以上に順調に進展しているようすです。


前回の私の書いた報告には、限られた情報だけを基にしていたため、一部に早とちりがありました。以下に訂正して、新しい情報も追加しておきます。

(1)球状のシリコン単結晶の製造方法ですが、free fallによる疑似無重量環境での再結晶だけでは、目的のシリコン球(ボール)を得ることは無理なようです。この後の化学的、機械的研摩によって最終的に真球度の高いボールが製造されるとあります。

(2)リソグラフィーに使われる露光装置はCanonとの共同開発のようです。露光はボールをクリーンパイプから出して、静止した状態で行うとあります。もちろんクリーンパイプ内を非接触で移動させながら、露光させるのが最終目標のようですが、現時点では難しいとあって、より現実的な手法がとられるようです。

(3)ボールの直径が1mmに対しクリーンパイプの内径は2mmだそうです。石英ガラスの管面に接触することなく、エッチングや成膜、拡散などのプロセスを実行することができたとあります。これだけでもスゴイですね。私はなぜか勝手に直径50mmぐらいのパイプを想像していましたが、よく考えてみればこれでは無接触輸送ができるどころか、ボール同士の衝突だっておこしかねませんね。たぶん私のはSF映画かなにかの連想があったのでしょう。

それにしても高さ8メートル近くのパイプがはりめぐらされて、そこから1秒間に2500個の割り合いでICが製造されていく様が現実になったとすれば、これはSF映画を超えていますよね。


(4)以前の発表ではあいまいだった、機能の違ったボールを多数集積してVLSIにするというクラスタリングの技法が、今回はより具体的に紹介されていました。まず以前から疑問に思っていた電極の取り出しは、ボールを地球に見立てると、南緯60度のあたりに、冠状にアルミニウムのボールを付けてこれを電極とします。この金属球の直径は40マイクロメートルとあります。従来のプリント基板などに1個だけ実装するならば、これで十分ですが、上下に球を積み重ねるクラスタリングの場合には、さらに北緯60度のあたりに電極をつけることになるようです。

電極をつける関係で北極や南極附近には回路が焼かれませんので、表面積のおよそ70%が実際に利用可能な面積になるようです。半径0.5mmの球の表面積のうち、有効面積=4 x 3.14 x 0.5 x 0.5 x 0.7 = 2.2 平方mm ということになります。

(5)直径1mmのボールICの開発に成功したら、次はこれを段々に小さくしていき、最終目標は脳細胞と同じサイズの直径20マイクロメートルのICまで作りたいとのこと。

(6)従来のシリコンチップの場合ならばセラミックかプラスチックのパッケージに封入するのですが、ボールの場合はこれと違って基本的には裸のままで完成品となるようです。これは板と違い球はストレスに強いからと説明されています。もちろん製品を識別するためのカラーリングなどの目的のコーティングをするのは可能だとのこと。そういわれて私は、大学生のときの実験で不注意からシリコン板を割ったことがあるのを思いだしました。球にしたら割れにくいのだろうなあ。


(7)会社の正社員は40人ぐらいでほとんどが開発技術者です。総務・経理などの雑務は全部アウトソーシングでまかなっているようです。国籍は日本、米国、中国、インド、ロシア、タイと様々。CEOの石川明さんはTexas Instrumentsの副社長をやる前は日本TIの社長をやられていた方です。球面半導体のアイデアは30年前から暖めていたと言っておられます。初めはチッソで原料のシリコンを作っていたとのことですので、このころから考えておられたのでしょうか。

(8)ICの基本特許の「キルビー特許」でも有名な、ジャック・キルビーさんが5月にこの会社を訪れて説明を聞き、「今までに見たことも聞いたこともないアイデアだが、たいへん魅力的な構想だ。商業的に生産するにはまだ大きなハードルはあるが、なんとか超えられるのではないだろうか。」と述べたとされています。


なにせ今年の末までには現実に動作するICの実証サンプルを出し、2000年には生産を始める予定といっていますので、その意欲たるや並々ならぬものがあります。
興味のある方は直接、Ball Semiconductor Inc.の日本語サイトに行って見て下さい。

またASCII24によるインタビューはポイントが押さえられていて読みやすいです。

記1998年8月8日


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