父となり見上げた空が秋を呼びうたごころざわついて一年
永田和宏『現代秀歌』『たとへば君』読了すればうたごころに火
青春の後を詠もうと筆名を灯せば次に白秋が待つ
イヤイヤ期突入の児を抱く妻にのほほと短歌宣言できぬ
詠んでみて誰にも見向きされぬならツイッターごとやめよう短歌
新聞とN短持って妻に告ぐ「半年前から短歌してます」
『あめ ぽぽぽ』書いた人だよ 絵本にて東直子の説明をせり
N短を一緒に観れば妻曰く「アイロンかけていいことあるじゃん」
「感想とか言えないけれどすごいじゃんストレス解消にどうぞやったら」
「いいよねえ男は仕事と言ってれば何をしててもわからないから」
これくらい言わせてよねと妻が言いそれくらい言う妻でよかった
これくらいには入らないこともあろう妻には妻のこれくらいがある
んなわけで袴田朱夏の正体は今んところは妻のみが知る
結局は誰かに見向きされるまで詠んだんでしょと妻は言わない
表現の自由が守るお前の声「はかまださんって気持ち悪いよね」
卒アルで「逮捕されちゃいそうな人一位」だ今は笑っておくわ
謝れば済むことなのに謝らない、だから謝っても済まなくなる
お前らは世界を二分してばっかなんなら俺がゼロで割ろうか
自殺者が年三万人いることを告げるだけかよ電光掲示
腹いせにアクセルべったり踏む先で老婆が渡る、やめときなさいと
蔑みは妬みだろうか錫杖の音の深いほうばかり聞こえる
留学生迎えふだんは絶対にしない笑顔でグッモーニンと
ああそうか目は口ほどに物を言う留学生は目を見て話す
留学生、でなく名前で詠みたいが発音が音数がわからぬ
宗教上セーフな鶏の唐揚げが重宝されて摂取されてく
箸を使えるのは日本人だけと教わったのは何だったっけ
あの船はあなたの国の油乗せ日本の暮らしを支えるタンカー
あの船に乗せてもらえば帰れるねこれはジャパニーズプアジョークね
成長に飽きてしまったこの国の何を学んで帰るのだろう
わたくしは誰かの苦手な何かですでもそのことはどうでもいいです
ぜんぶぜんぶどうでもいいよさようなら取り外したら乾かしといて
わたくしの詠んだどうでもいい嘘に轢かれたひとよどうかご無事で
花の名をスズランとしたその人のこころの鈴の音のあつたこと
新しき鳥の種類に Ignaro と名を付けそれは想像上の
最後まで無口な叔父を弔つた風の名前を考へてゐる
月の名を未だ負はざる薄明かりアロサウルスの頭蓋は知るや
忘れじの海と名づけることでしか忘れることのできぬ災ひ
産声の上がり切らずに保育器に入る子撫でる衰弱の妻
車いす押してNICUに至る 何度も毒を消されて
わたしたちの子なのにこんなにかわいいと言う妻にそうだねと返事す
看護師にオムツ替えるか問われればはいと答えて父が始まる
スリングのプロモーションだったことだけ思い出されるプレパパ教室
ひと時も休まず命命命命をつなぎとめる病院
一〇〇〇グラム未満で生まれた児のことを貼り紙に見てよくない安堵
NICUを出る子は看護師に「かわいいね~!」と言われる決まり
父となり五〇〇マイルに聴き入れば「さよならさよなら青春の日々」
ベビー服、消毒用品、ゆりかごもお古で済ませられる妻と子と
寝かしつけはほいっとーほいっとーお神輿のリズムときどきよいよいよいよい
「袴田選手三回目の挑戦です」と寝た子を床に置くスポーツだ
好きだけどなじみのないここ京都にて妻は早々母となりゆく
好きだけどなじみのないここ京都にて子を京都の子として育てゆく
好きだけどなじみのないここ京都にて子は京都の子として育ちゆく
人一人運ぶにしては大げさな装置であるが社用車に乗る
舌戦で負けを知らないあの人は課長止まりで退職だって
責任を取って辞めるということが腑に落ちぬまま不惑になれり
みみっちい少年のまま不惑だぜ傘はささずに済ませちまうし
ある人をさびしがり屋と見下した会話のそこだけ聞こえた市バス
人生を一度も生きたことのない俺が聞き手の人生相談
自らを二流とあきらめることがこの人生の対価なのかよ
カン、カンと屋根にどんぐり 昼寝する車中の俺に仕事だろって
なんとなくなんにもなさずなにもなくなにはなくともなんとかなるさ
なにもなくなんとはなしになさけなくなにをなすともなんともならず
なくなりしなみなみならぬなかなればなんどともなくながせしなみだ
なきながらなせないなりになしたならなかなかなりとなでよなんじを
なかまなるなんじなつかしななのつきなつにながめしながれぼしかな
ながながとなやみなさんななぜならばなにごともみななるようになる
なさそうななのつくなまえなくもなくななつのうたをならべたらねる
内輪感忌避症候群罹患せりその症名に群の字のあり
ぴいまんはきらいきらわれすきすかれすくすくそだてそうめいなきみ
妻と子を実家に帰しキムチって無限にご飯食べられますな
筋肉は裏切らないの先生になったつもりで姿勢矯正
NHKから国民を守る党から国民を守る一票
連歌の花道・新月ノ歌会に出した上の句半年分より詠める
平成の戦後を継ぐは令和の世などと言っても五月病です
梅雨空をオフホワイトと言う君のそれなら夜を知りたくなった
海の日のなかったころに聴いていたTUBEを Youtube にて検索
終戦をここまで引き延ばした理由を我が舌の根に見つけてしまう
夏枯れの桔梗のなおも揺れており花はもともと風葬である
縁側でつるんとむいた葡萄ごとばあちゃんをクレヨンで閉じ込めた
パチンコもタバコも株もやる親のふところ どれもやるなよと云う
グローブと父にあやまれ9番のライトで劣等感とたたかう
避妊具が落ちていた道 避妊具を落とすほうにはならなかったよ
劣等感思い返せば優越感ふつうになりたいふつうの子です
いじめもしいじめもされたああこれはおとなになってもきえないやつだ
生れたての自重を知らぬ足に書く「ユリコベビー」の筆圧確か
へその緒が立派ですよと言われれば妻と次男はもっと立派だ
胎盤に触りますかと問われればこれが胎児のベッドの弾み
おとうとが生まれた夜の長男は自分が泥になる夢を見る
かなしいの語を使い出す長男の脳内セロトニン豊かなれ
乳飲み子は血飲み子である真っ白な妻の乳房をほの紅くして
妻からの写真 インスタ映えのする病院食はぜんぶ冷たい
早退の電車でひらく『微風域』西日がやけにあかるい だるい
保育所の連絡帳に長男の心が「ザワザワしてる」とされる
総菜屋の名を連呼する長男よお前は料理できるようになれ
家計的な理由でうちはマーガリンをバターと呼んで生きていきます
一日の大半を寝るみどり児のむしろこちらの世界が夢か
我が腕は胎児のベッドと似たような弾性率で子を眠らせる
御襁褓って書くならふたつある衣よ漏らさず強く保ってほしい
子らよ子ら俺よりもいい人生を歩め ほんとのバターはいいぞ
プロジェクト「森羅万象」報告は発禁 量子シュレッダに処す
皮下に埋めたICチップが人類を最適化してだれの最適
原子間結合にまで微化された回路が自己増殖をはじめる
0と1 量子化 秩序 擬態せよ 塩基配列 テロメア突破
こじ開けた痕 セグメンテーション違反 だれの故意でもありそしてない
創世元年以前僕らは回路レス肉体のみで生きていたらしい
大いなる意志に従う微化回路 ヒト、モノ、すべて侵されている
「内密に無回路室で育てた」と父の遺品の無回路メモは
「大いなる意志の名のもと小さき者の悪意が世界をおとしめている」
「無回路で育ったヒトがあと二人いる」と書かれた無効アドレス
量子データにならない地点で落ち合おう ビットの風の淀みだ、いいね
消ゆる胸に高く積もる雪消ゆる雪消ゆるも点くか田に眠る雪
走る滝大地の祈り問ひかけか一人の命抱きたる詩は
湿気た毛が気さくな花に咲く以外草に名はなく先駆けた芥子
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右手の降りてなお見送って立つ父をかくしてしまうハンドルさばき
お釣りをはらむ右手の降りてくることの久しくなりぬこのウイルス禍
戻ってこないお釣りをはらむ自販機に代わりになにか生み出してほしい
白鍵の戻ってこないピアノひとつ音楽室は西向きでした
このフェルマータ止めれば上がる白鍵のひとときだけはわたくしの指
あとどれくらい伸ばしてくれるソプラノの君を指揮してこのフェルマータ
空気は軽い、わたしは重い、月は軽い、かたちは重い、あとどれくらい
高層の空気は軽い 重力で物理的には死ねるんだけど
マンションに住む魔女曰く高層の部屋で煮るので呪うのが楽
ワンルームマンションに住む恋人のミニマリストのリストに我は
オンライン飲みで満ちないワンルームあいつら全部俺で笑ってる
you は shock そんなはじまりだったから世紀末から愛が止まない
死兆星探したきみと、見えるのがこわくて探さなかったぼくと
ラオウ様レイ様などと呼ぶきみのジャギには様が付いていたっけ
あしひきの山のフドウの悪しき日の終点なりし少女ユリアは
包むほど核の炎はなかったしそんなに拳法家もいなかった
野生児は壊れた父を治さないあばれるおれもおんなじだから
レイチェルも孤島のシドも魔列車に乗ったのだろうさびしくはない
クライドが子をなしたこと自らの影を地面に縫いつけたこと
考えているその逆が正解だでもそれは大きなミステイク
感情を描ききれないドット絵でチョコボの筆はしかし描いた
R70驟雨を連れてスナダ氏のダブルドロップDは雷鳴
歌声をみどりのラムで湿らせて好きってそうねキョウコ先輩
真夜中に振るならこんな旗がいいあなたをここで祈っています
借り物の言葉でうたうとき冬の星座はすべて燃える、それでも
父となり五〇〇マイルに聴き入れば「さよならさよなら青春の日々」
午後にしか温まらない家を出て春のひかりに圧されつつ漕ぐ
豪邸のモッコウバラがまぶしすぎてぐっと漕いでも電動自転車
アロワナが客を迎えるのがいいとされて大きい水槽がある
首のうえに生きてうるおう顔を持つ最低ランクの化粧水でも
アロワナに食べさせている金魚にも充てられている美容院代
「わかります」わかるんですね叱るとき子をコウちゃんと呼ぶもたつきが
何もしてないしできなくなっていくコウちゃんはどんどんできていく
「何もしてないんですよと言う人もこっそりやってたりするんです」
ウィンナーは加熱なしでも食べられる「わたしも最近知ったんです」か
美容師のうまい話をうまいとは思う とはとは思う、「とは」とは
スタンプが売れているぶんたくましい顔のマユコにおごってもらう
コウちゃんはもうおっぱいを飲まないし夫に登るのがじょうずだし
勝つ方法 夫はグレープフルーツの苦さがわからずに生きてきた
同意できない陰口のポイントがいっぱいになりました美容院
美容院予約アプリを長押しで絞殺できた指紋を拭いた