航空自衛隊那覇基地カレー


       さて今回は『航空自衛隊那覇基地カレー』です。小松基地と新田原基地カレー以来となる、久々の空自カレ
      ー
ですね。どちらも非常に力強い味わいを誇るカレーだったので、今回も試食が楽しみでした。
       パッケージにはエアブレーキを展開して着陸態勢に入ったF-15J戦闘機の画像があしらわれ、ダークゴ
      ーストグレーに明朝体で書かれたお堅そうな白文字が、いかにも自衛隊のカレーという感じ。ウイングマーク
      に『ビーフ』
と書かれてあるのがなんか不思議な感じですが(笑)、牛に翼か・・・なんかそんな慣用句を聞
      いた事がある様な。

       パッケージ裏面を見てみると、ん?なんじゃこりゃ?開封前の箱ティッシュみたいな楕円形の切り口があり
      ますが、どうやらこのカレーは箱ごとレンジに入れて温めることが出来る模様。最近のレトルトはレンジアッ
      プ可のものもありますが、箱まるごとというのは初めて見ました。
       また裏面下段には、夕焼け空をバックに排気煙をきらめかせるF-15Jの画像がレイアウトされ、『早く
      帰って晩御飯~♪』
という雰囲気。那覇市中心部から5km程のところに位置する空自那覇基地の説明や、敷
      地内に陸自の第15ヘリコプター隊海自の第5航空群が混在する特徴なども解説され、基地ものカレーとし
      て押さえるべきところをきちんと押さえてますね。

       それでは外箱を開けてレンジアップしてみましょう。説明書きに従って赤く塗られた切り取り部分を開きま
      すが、うーん、撮影するには電子レンジがちょっと汚いな(笑)。慌ててお掃除です。試食のお陰で、図らず
      も電子レンジがきれいになりました(笑)。
       説明書きの通りに2分間レンジアップしますが、おっ、1分を過ぎたあたりから箱の中のレトルトがプーッ
      と膨らんできましたよ。自衛隊のカレーという事で、今にも爆発しそうでドキドキしますが(笑)、そんな事
      もなく温め終了。膨らみ切ったレトルトを撮影しようともたもたしているうちに萎んでしまいました。
       やけどに気をつけながらレトルトを取り出しますが、黄色地に黒というこのレトルトの色合いが、ベイルア
      ウトする時に引っ張るレバーみたい
。これも戦闘機らしさを意図した演出でしょうか(笑)。

       ワクワクしながらご飯を盛ったお皿にあけると、ほほう、意外とさらっとした見た目ですね。小松基地カレ
      ーや新田原基地カレーの様な濃厚そうな見た目かと思いきや、これは予想外。手早く撮影を済ませ、まずはひ
      と口頂いてみます。
       あれ?・・・なんというか、随分と軽い味わいのカレーだなあ。甘さのバランスがよく辛さも爽やかですが、
      F-15Jの如き強力無比な味わいを期待していただけに、なんだか肩すかしをくらった様な気分。あれ?あ
      れれ?と戸惑っているうちに、滑るように口の中に入っていく感じです。
       それにしてもこの感覚、いつかどこかで味わった事がある様な・・・あ、そうだ!あれは20年ぐらい前、
      小さい頃の定番のレトルトカレーだったボンカレー
を、久しぶりに食べてみた時の気分です。その頃はスーパ
      ーの棚に多種多様なレトルトカレーがずらりと並ぶのが当たり前になっていて、大きなモデルチェンジもない
      ままククレカレーとともに偉大なるマンネリと化していたボンカレーは、次第に隅の方に追いやられていたん
      でしたっけ。

       ふと思いついて、この和服のおばちゃん懐かしいなあ・・・と久々にボンカレーを食べてみた私でしたが、
      その時の感想が
       「んん~、確かに懐かしいけど、こんな物足りない味だったっけ・・・?」
       今どきの濃厚カレーに慣れた私の舌が今回の試食で憶えた感想もこれとほぼ同じでしたが、なんなんだろう
      この、正直物足りない味なのに胃袋が懐かしがっている様な不思議な感覚・・・。
       そしてこのカレー、食べている途中で気がついたのですが、結構塩気が強いです。そういえば昔の・・・い
      や、昔という程昔ではない昔のカレーって(ややこしいな)、今ほど濃厚さを求められていなかったせいか
      構しょっぱかった
気がするなあ。この塩味がちょこんと突き出た航空自衛隊那覇基地カレー、懐かしさと同時
      に不思議な美味しさを感じます。
       よく考えてみると、あまり濃厚な甘さのカレーって、沖縄の気候に合わない気がします。年間を通して気温
      が高い土地柄だけに、発汗で失われた塩分を補給すべく少し強めに塩を効かせるというのは十分納得できる話
      でしょう。
       またこのほのかな塩っぱさは、島マース(沖縄の言葉で『塩』)を意識したものなのかもしれませんね。こ
      の軽やかな味わいはF-15J戦闘機が誇る高い機動性を、そしてこの塩気は沖縄の海を表現している・・・
      というのは流石にこじつけがすぎるか(笑)。

       全体の印象としては、今風のカレーとは一線を画したレトロな味わいと言えますが、海自の様に明治期のカ
      レー事始め
まで遡った訳ではありません。戦後の高度成長期あたりに位置する、いわばネオ・レトロとでも言
      うべき味わいでしょうか。
       伝統の金曜カレーという強力な持ち味を一直線に磨き続ける海自に対し、今一つ腰の落ちつけどころを見い
      だせないでいる陸自のカレー。そしてそれを後目に、目ざとく見つけたわずかな隙間に綺麗に着地を決めて見
      せたこの那覇基地カレー。これを最初から最後まで狙ってやったとしたら、大した曲者っぷりだと言えるでし
      ょう。
       まるで初めての空母への着艦を見事に成功させた様な、針の穴を通すが如き精密爆撃を一発で決めて見せた
      様な・・・でも、そのどちらも格闘戦を得意とするF-15Jの持ち味ではないのが面白い気がしますね。な
      んて事を考えながら食べていると、この一見物足りなさそうな軽い味わいのカレーが実に空自らしく思えてき
      ます
。一枚の皿の上に、ひらりと舞い降りた様なこのカレー・・・。
       「うん、空自だね」
       「確かに空自のカレーだね」

       ただ、空自や戦闘機についてあまり馴染みのない人に、この一皿に込められた空自テイスト那覇基地の個
      性
は、果たして分かってもらえるだろうか・・・。そういう意味では若干中級者向けというか、人を選ぶカレ
      ー
かもしれません。

       あと、ネオ・レトロなこのカレーを味わう上で、ウスターソースのひとたらしは結構有効な手だと思います。
      最近はウスターソースも昔に比べると随分甘くなった気がするので、塩味の効いたこのカレーとは合いそうだ
      なあ。よし、ちょっと試してみるか・・・と思わせるそんなフットワークの軽さも、陸や海にはない空自なら
      ではの個性
でしょう。
       それまでボンカレーとククレカレーが幅を利かせていた日本のレトルトカレー界が、ビッグバンのごとき爆
      発的な進化
を遂げる直前の、ほんの一瞬のきらめきを掬い取った様なこの味わい。よくぞここに目をつけた!
      
と評価したくなる力作でありました。




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