陶板名画の庭 (とうばんめいがのにわ)
京都市内を地図で見ると一番天辺を走る洛北の北山通りは、かなりヘンなストリートで、沿道にはバブル期に大流行したポストモダンなる珍妙な形状のビルやマンションが立ち並び(高松伸が悪い)、それに合わせてド派手でケバイ商業施設が林立する、しっぽりした風情の京都とは思えない、やたらと目に五月蝿い地域。しかも近辺はバブル前までは長閑な農村だった為に京野菜の田畑が今でも点在する、田舎の街道沿いのラブホー地帯みたいな風情です。どうでもいいですが洛北は京都市内ではバブルの代償が大きい地域で、モヒカン山として全国に名を馳せた一条山や、近年では先達の遺した大いなる叡智とも言うべき円通寺の比叡山の借景式庭園も、宅地開発によりマンション建設で喪失との話で、こうした都市部の郊外は京都といえどもアコギな開発業者に狙われやすいようです。
そのチープでヤンキーな北山通りの中心地とも呼べる地下鉄烏丸線北山駅界隈は、何故か公共施設が密集するスポットで、駅のすぐ南側は府立植物園・府立総合資料館・京都コンサートホール・府立大学と、不思議なほど集中しています。土地がやたらと余っていたのでしょうか?その植物園と資料館とに挟まれるように、「京都府立陶板名画の庭」が造られています。陶板とはセラミックの板片のことで、この陶板に原画を撮影したポジをブロックごとに転写して焼成し、それをパズルの様に嵌め合わせて一つの作品に組み上げたのが陶板複製画。セラミックなので腐食も変色もしないことから、屋外展示に有効とのことでパブリックアートに採用されたり、徳島の鳴門に「大塚国際美術館」という陶板画が100点もある美術館もあったりします。この陶板名画の庭は、1990年(平成2年)の大阪鶴見緑地で開催された、「国際花と緑の博覧会」に出展したパチンコメーカーであるダイコク電機のパビリオンだったもので、その後京都府に寄贈されてここに移築されたのがその由来。その花博の際も安藤忠雄氏設計のパビリオンでしたが、移築先も同様に安藤氏に依頼し改めて再設計されて1994年(平成6年)にオープンしました。
花博では4枚の陶板画が出品されましたが、ここではさらに4点が追加で製造されて、計8点の作品が観賞できます。何れも古今東西の誰でも良く知っている作品ばかりなので、肩の力を抜いて気軽にブラリと立ち寄って楽しめます。待ち合わせの時間潰しに最適。まずゲートを入ってタイル貼りの園路を一直線に進むと、左手に最初の作品であるモネの「睡蓮・朝」が置かれています。この園路は水面の上に渡された長い橋にもなっているので、作品自体が水中に沈んだ陶板ならではの面白い展示方法。水のゆらめきや光の反映により作品が刻一刻と変化して行くという、まさしくモネ自身の意図した世界が再現されています。なんでも原寸大だそうで、縦が200cm横が1275cmの長大なもの。ところでモネと言えば生涯に200以上枚もの睡蓮の絵を残していますが、この作品の原画はパリ・オランジュリー美術館にある3枚の大作の内の一つ。
安藤氏によると陶板画は平面なので、建物は立体的なものにしようと、地中に深く沈みこんだ形状にしたとか。立体回遊式庭園を標榜したそうで、この立体式を上手く利用した展示をしているのが、「睡蓮・朝」の奥に展示されている、ミケランジェロの「最後の審判」。いわずもながのバチカンにあるシスティーナ礼拝堂の祭壇壁画ですが、「睡蓮・朝」を過ぎて園路を進み左手にこの「最後の審判」が展示されていて、ちょうど中央のキリストが正面に位置する高さになります。そしてジグザグと一番下に降りると全体像が下から見られるという、視点を変えて観賞出来るシステム。この壁画も原寸大。
「最後の審判」があるなら「最後の晩餐」もあります。これも原寸大。双方共に壁画なので、陶板画の素材としては違和感が一番少ない印象です。西洋絵画だけではなく東洋美術もちゃんとあり、国宝の高山寺「鳥獣戯画」と張澤端作「清明上河図」も展示されています。東洋絵画は絵巻物が多いので、これらの作品も園路沿いに横長に展示。2倍の縮尺だとか。
8点の作品の内4点は、やはり人気の高い印象派の作品。モネ以外ではゴッホ「糸杉と星の道」・ルノアール「テラスにて」・スーラ「ラ・グランド・ジャット島の日曜日の午後」が並びます。
敷地は鰻の寝床状であまり広くないのですが、その敷地の特有を巧みに活かした設計で、地上から入園し緩いスロープの折り返しで段々と下がり、地下2階の高さから再び緩いスロープの折り返しで再び元の地上に戻るという、エッシャーの騙し絵のようなユニークな構造。なんでも隣の植物園から東山への借景を妨げない理由もあるとか。特に地上の園路以外は全面に水を張り、地下2階へ向けて滝を落とす構成は秀逸。
「京都府立陶板名画の庭」
〒606-0823 京都府京都市左京区下鴨半木町
電話番号 075-724-2188
FAX番号 075-724-2189
開園時間 AM9:00〜PM5:00
休園日 12月28日〜1月4日