転合庵 (てんごうあん)



 東京国立博物館本館の裏庭には、それぞれ由来を持つ古い茶室が五つほど点在しています。それぞれ貸出施設としてお茶会に利用されていますが、特によく使われているのが応挙館と転合庵。書院造りの広間が並ぶ応挙館は規模の大きな茶会に、小間の転合庵はこじんまりとした茶会に使われているようで、おそらく使い勝手が良いのでしょうね。特に転合庵は池の畔に佇む草庵風の茶室なので、ロケーションの良さが人気の理由なのかもしれません。春の桜と秋の紅葉の頃は混雑しているようです。

 

 この転合庵は小堀遠州好みの由来を持つ茶室で、1963年(昭和38年)11月に当地に移築されています。二つの小間の茶室が水屋を通して連結された姿ですが、遠州好みの茶室は西側にある二畳台目の席。
 外観は屋根が切妻造りの杉皮葺で、妻側を正面として前に柿葺の庇を下し、北側に袖壁を付けています。南西隅に二枚障子の貴人口と板戸引き違い建ての躙口を矩折りに開けており、躙口の上に連子窓が開けられた構成は、公家の桂宮を招待する為に造ったエピソードがあるので、公家向けの意匠ということなのでしょう。光格天皇が造った仁和寺飛濤亭も矩折りに貴人口が開く開放的な造りですから、少し似ています。躙口前には蹲踞もあります。

 

  

 内部は二畳台目向切の下座床で、床前が網代天井、点前座が萩の落天井に化粧屋根裏天井の構成。中柱は曲がりが少なく品の良い端正なもので、床柱は档丸太に框は磨き丸太を嵌め、墨蹟窓が開いています。
 ここで不思議なのは点前座に竹連子窓だけが開いている点で、師匠譲りの織部風に色紙窓を開ける場合が多いのに、とてもそっけない意匠。それに雲雀棚はおろか釣棚も無く、袖壁に竹を入れているのも遠州としては異色です。
 なんでもこの茶室は遠州が造った後に寂光寺の住職が所望したのを快諾して寄贈し、その後明治期の廃仏毀釈の頃に渡辺男爵に譲られ、さらに色々と変遷を経て1930年(昭和5年)に渋谷区羽沢の塩原又策氏の所有となり、その際に付属の座敷が付けられて戦後に東博へ寄贈されたとの話。但し古い文献を調べても遠州屋敷にこの間取りの茶室は無く、また同名の茶室が他にもあり、現在は名古屋の実業家の敷地に移築復元されていたりするので、どこまでが本当の話なのかは不明です。移築が多い為にどこかで遠州好みの話が紛れてしまった可能性があり、全国に多い遠州好みと呼ばれている庭園と同じで、殆ど確証のないものなのでは?

 

 水屋で繋がる四畳の小間は前の持ち主の塩原氏が追加したもの。こちらの茶室の方が内部からの庭園の眺めが良いようですね。

 



 「東京国立博物館」
   〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
   電話番号 ハローダイヤル 03-5777-8600
   開館時間 AM9:30〜PM5:00
   休館日 月曜日 12月28日〜1月1日