瀧澤家住宅 (たきざわけじゅうたく) 重要文化財
鞍馬の山里は、鞍馬川の流れる山間の街道筋に続く静かな門前町。幻想的な火祭りで知られる由岐神社や鞍馬寺の門前町として平安期に形成されたのが始まりで、鯖街道と呼ばれる若狭道の洛中へと至る中継地点として機能し、また薪や炭の供給地としても栄えた古い歴史を持つ街並です。ところが近年の交通機関の発達やエネルギーの代替に加えて、叡山電鉄の鞍馬駅が鞍馬寺の山門近くに作られたことから参詣客は駅周辺だけに集ってしまい、街道沿いの街並へはあまり足を運ばず休日でもひどくひっそりとしています。特に山門から街道を北へ300m程進んだ上在地地区は、格子窓に卯建を上げた町家が建ち並ぶ風情ある街並が残されており、江戸期にまで遡る町家も珍しくないほどの歴史の古さを示します。その鄙びた街並の中で最も美しい風景を見せているのが、「匠斎庵」と呼ばれる瀧澤家住宅と木の芽煮の「くらま辻井」が並んで建つあたり。この2件は親戚同士だそうで、「くらま辻井」は新築された町家ですが景観を損なわず調和を保ち、いっぽう瀧澤家住宅は正真正銘の江戸期に建てられた町家で、国の重要文化財にも指定されています。
この瀧澤家は「匠斎」という屋号で商売をしていた炭問屋で、現在は土日・祝日に見学や呈茶の施設として店を開けています。平格子・出格子で構成された美しい外観を持つこの町家は江戸中期の1760年(宝暦10年)の建造で、屋根が切妻造りの桟瓦葺の木造二階建て。当初は二階は背丈の低い厨子だったようで、屋根や卯建・庇は杉皮で葺かれていたようですが、明治初年に現行に改造されています。間口は9mで奥行き11.9mと京町家にありがちな鰻の寝床ではなく、また前後で棟の高さが異なり前流れの屋根で、山村の傾斜地らしい制約の多い土地ならではの建物です。鞍馬は石の名産地でもあるので、玄関前の叩きにもモザイク模様に石が敷かれています。
内部は玄関から奥へ土間が続き、東側に座敷が並ぶ構成ですが、この土間が京町家の狭い「ハシリニワ」に比べて広く、平面では半分近くにも占めます。これは薪炭を運ぶ為にこれだけの広さが必要だったようで、このあたりも山村の町家らしい趣向です。土間は台所でもあり竈や井戸もありますが、その上部の高く吹き抜けた天井にはロフト状の荷置場が造り付けられており、壁には荷摺りもあります。小さな建物ながらコンパクトに無駄が無く収納にも優れた町家です。
土間横の東側は、街道側から「オモテ」「ダイドコロ」「ザシキ」が直列に並びます。「オモテ」は店の間で板張の部屋となり、この奥に箱階段のある三畳の小さな座敷があります。この部屋は天井が横に開閉出来る辷戸(すべりと)になっており、かつては二階を造ることが禁止されていたそうで隠す必要があったからとのこと。この「オモテ」「ダイドコロ」は二階に座敷がある為に天井には太い梁が走る大引天井で、土間部も含めて質実剛健な造りはやはり山村の町家らしい構造です。
その二階は六畳と五畳の座敷が並ぶ構成で、18世紀末に柱を接木をして改造された場所。さすがに天井は低いながら格子窓から注ぐ外光が優しい落ち着ける空間で、狭いながらも壁床もあります。
一階の最奥の「ザシキ」は庭に面する八畳間で、床の間や違い棚に仏壇まで設えてあります。木割りは細いものが使われ、柱も面皮で天井も竿縁になるなど数寄屋風となり、「オモテ」や土間とは意匠が異なるまさしく京風の佇まい。見学を申し込むとここで御茶の御接待を受けます。
この座敷から眺める庭は、池に石橋や石灯籠を配し、新築された離れの奥に自然石を積んだ石垣を借景とする、小さいながらも変化に富んだ充実した構成。座敷に座ってこの庭を眺めてお茶を頂いていると、心が和みます。
「匠斎庵 瀧澤家住宅」
〒601-1111 京都府京都市左京区鞍馬本町445
電話番号 075-741-3232
開館時間 AM11:00〜PM4:00
休館日 月曜日〜金曜日 祝日は営業